はじめに
ソーシャルワーク実践においては、「価値」を基盤として、「知識」と「技術」を兼ね備えることが求められます。
しかし、ソーシャルワークや諸制度が発展する上で、「価値という幹」よりも先に「法制度という枝葉」が必須となるため、優先されることも多々あることが課題となっております。
今回は「価値や本質」を改めて見つめ直すきっかけづくりとして、ゾフィア・T・ブトゥリムが著書「ソーシャルワークとは何か:その本質と機能」を参考に、「ソーシャルワークの3つの価値前提」について要点やキーワードをまとめていきます。
ゾフィア・T・ブトゥリム
ゾフィア・T・ブトゥリムは、ロンドンの病院にて医療ソーシャルワーカーとして従事され、その後ロンドン大学経済政治学部(LSE)にソーシャルワークの専任教員として教鞭をとられた方になります。
「ソーシャルワークの価値」を主な関心とし、1970年代の「シーボーム報告」によるソーシャルサービスの統合化の時代に、ソーシャルワークの本質を明らかにし、全体像を描くことを試み、「ソーシャルワークとは何か:その本質と機能」を執筆されました。
著書は日本でも1986年に川田誉音によって翻訳され、川島書店にて出版されております。現在は国立国会デジタルコレクションでも閲覧することができます。
ゾフィア・T・ブトゥリムは、ソーシャルワークの究極的価値として以下の3つを掲げました。
☆ソーシャルワークの究極的価値
・人間の尊厳・個人の尊重
・人間の社会性
・変化の可能性
以下それぞれについて触れていきます。
人間の尊厳・個人の尊重
「人間尊重」は、その人が経験的に何をするかに関わらず、もって生まれた価値として尊重されるものになります。
ブトゥリムは哲学者の言葉を引用し、人間尊重というものが、道徳的価値の中心であり、ここからすべての価値が引き出されると考えていることについて述べております。
ソーシャルワークにおいても、この「人間尊重」という価値が最も重要であり、また根源にもなり、一つ目の価値前提としてあげております。
人間の社会性
人間は一人ひとり異なる存在であっても、「他者に依存した存在」であることから、人間の社会性を価値前提の二つ目としております。
アリストテレスの言葉には「社会から離れて生活できるものがあるとすれば、それは、けものか神であり、人間ではない」とあります。
しかし一方で社会福祉に関わる人たちにとっては、実際に「社会のつながりと離れて生活している状況にある」という方も多くいることを知っております。
このように人間は絶えず社会の影響を受けており、また他者や社会と共存の関係にあるということが言えます。
変化の可能性
ソーシャルワークの価値前提の三つ目として、「人間の変化」をあげております。
これは「人間が成長すること」や「向上しようとする可能性」に対する信念から来ており、ソーシャルワークはいうなれば「クライエント自身が変化する」ことを援助します。
ブトゥリムは哲学の視点とソーシャルワークの視点を照らし合わせ、ソーシャルワークに不可欠な価値前提を掲げております。
社会福祉士国家試験
社会福祉士の国家試験でも、ブトゥリムが選択肢に出てきたことがあります。
その際は三つの価値前提として、「①」「②」「③」と上げ、その一つに「教育の可能性」と間違った内容を記載しております。
国家試験でブトゥリムときたら、「人間の尊厳・個人の尊重」、「人間と社会性」、「変化の可能性」の三つであることが問われます。
まとめ
以上がゾフィア・T・ブトゥリムによるソーシャルワークの三つの価値前提についての内容になります。
ブトゥリムの著書には「哲学者」が度々登場し、ソーシャルワークと哲学を比較し照らし合わせることを重視していたことが見受けられます。
ソクラテスやアリストテレスが「善く生きること」について議論を深めていたように、ソーシャルワークや、ソーシャルワークのミッションである「Wellbeing」について考えるにあたって、哲学というものがキーワードになるのかもしれません。
本記事を通じて、ソーシャルワークの究極的価値である「人間の尊厳・個人の尊重」、「人間と社会性」、「変化の可能性」の三つが根源となっているということを知ることで、ソーシャルワーカーの日々の実践における視野が広がることがあれば幸いです。
引き続きどうぞよろしくお願いします。