はじめに
本記事では、【カタルシスの意味と効果について】の心理学や精神分析学の知識や観点、アプローチについて広くまとめております。
「日常での悩み」や「対人援助における悩み」を抱えている方にとって、「自分や相手のメンタルヘルス向上」に役立つ内容となっておりますので、良かったら最後までご覧になってみてください。
Check
・ストレスの対処方法がうまくいかない。
・誰かの悩みをよく聴く機会がある。
「知識と技術は一緒でもある」という言葉があるように、自分の知識や見聞を広げることは、もしかしたら自分や身近な誰かを支えることにもつながるかもしれません。
<メンタルヘルスと社会について>
現代社会は(も)、統計データを引用するまでもなく、人々は目まぐるしいストレスに取り付かれております。
ストレスに対処していくためには、「まずは自分を大切にする」ところから、ゆっくりとマイペースにはじめてみることが大切です。
また、「孤独と孤立」がキーワードになっている現代社会において、乏しい人間関係はストレスを対処する機会が少なくなってしまうことにもつながります。
「人間は社会的動物である」という言葉があるように、私たちはそれぞれの社会が相互に関連する社会に存在します。
本サイトは、社会福祉を起点に社会や心理、歴史や人といった様々な情報を発信することを通じて、「人々の視点を変える」ことを目的に運営しております。
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~etc
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寄り添うとは?
雨が降ったとき、傘をさしてくれるのではなくて、一緒に雨に濡れてくれる方がよかった
誰かに手を差し伸べるときに、つい「アドバイス」をしてしまいがちでありますが、時にはアドバイスよりも、「ただそばにいて話を聴いてあげること」の方がその人にとって効果がある場合もあります。
ご本人の「自分の置かれている状況について理解してほしい気持ち」と、援助者側の「自分の助言を受け入れてほしい」というボタンのかけ違いがあると、回復にはなかなか進まないのです。
このように「寄り添う」という姿勢は今回の「カタルシス」にもつながっていきます。
それでは以下【カタルシス(浄化)】についてご紹介いたします。
カタルシスとアリストテレス
アリストテレス|詩学
「悲劇とは、しかるべき大いさの、それじしんで完結した、荘重な行動の模倣であって、そのことばは快適な装飾をもち、それぞれの装飾はべつべつに劇の各部に挿入される。この模倣は、叙述によらずに実際の行動する俳優によって行われ、そして哀憐※と恐怖※を〔作興する出来事を含み、それを〕通して、このような情緒※のその〔悲劇の〕カタルシス(katharsis,浄化)を行う」
引用:アリストテレス(文庫クセジュ) 著者ジャン・ブラン、有田潤訳、出版社:白水社 P142~143、国立国会図書館デジタルコレクションより ※部分の( )内箇所は筆者省略し記載
<カタルシスの起源>
「カタルシス」という言葉を最初に用いた人は、古代ギリシャ時代の哲学者「アリストテレス」と言われております。
アリストテレスは著書「詩学」の悲劇論で、この「カタルシス」という言葉を演劇学用語として用いました。
また、この「カタルシス」という言葉は、詩学という著書から「一人歩き」してしまうほど、意味深な言葉とされ論争を生んだようです。
カタルシスは「排泄・浄化」という意味で、哲学や医学、宗教や心理学などで用いられます。
<悲劇と嘆きを表す四文字熟語>
悲歌慷慨(ヒカコウガイ)
「社会の荒廃や問題、自分自身の災難について、憤り嘆くこと」を表した言葉
※直訳として、悲しい歌をうたい、憤り嘆くこと
「悲劇は嘆くことをしなければ、次に進まない」
自分自身ではどうすることのできない災難や困難に陥ったとき、まず嘆くことが大切になります。
このように、カタルシスのはじまりが演劇(特に悲劇)からくることと、その後心理学の世界で使われるようになったことは、ある意味「起源・源流」として重要なのかもしれません。
カタルシス効果について
<カタルシス効果とは>
精神科医の「ジョゼフ・ブロイアー」によって、カタルシスという言葉は心理学の世界の言葉となります。
有名なエピソードとしては、アンナというヒステリー患者が水を飲めない理由を「嫌いだった女性使用人が、犬にコップから水を飲ませていたのを見たことがきっかけ」と語ります。そしてアンナが「語り終えた」とき、水を飲むことができ、症状が消失される出来事がありました。
この現象をブロイアーは「カタルシス効果」と呼びました。
カタルシス効果
心の内側に抱えているものを、言語あるいは非言語といった手段で外に解放することで、自分自身の心が楽になること
その後、カタルシス効果は精神分析理論の創設者である「ジークムント・フロイト」によって発展されていきます。
<人間はいつの時代も人間である>
カタルシス効果でもあるように、心の内側に秘めたものを外に出すことは心が楽になることにもつながります。
現代もストレスへの対処法として様々なものがあげられておりますが、「誰かに話す」「歌や踊り・楽器」「書く・描く」といったことを通じて、ストレスを軽減することはいつの時代も共通しております。
このように、人間はいつの時代も変わらずに人間なのです。
支援者支援の道標
「人びとに話し、考え、疑い、古い問題を埋葬する機会を与えることの値打ちは、ソーシャルワーカーにも当てはまった。感情が高ぶったときにはいつでも、するべき自然なことは誰かにそれを話すことである」※
上記のように支援者支援においても、カタルシス効果は有効とされております。
※引用:ソーシャルワークの理論 デビット・ハウ著 杉本敏夫監訳 5精神分析理論 P45より
サイコドラマ(心理劇)
<サイコドラマ(心理劇)とは>
サイコドラマ(心理劇)とは、アメリカの精神科医のモレノによって創設された集団心理療法になります。
サイコドラマ
参加者が台本なしの即興劇において、自発的に役割を演じることを通じて、内的葛藤を表現し、自己洞察やカタルシスへと導く集団心理療法のこと
サイコドラマでは、即興劇の間に途中から役割を交換する「役割交換法」や、もう一人の自分を二重で演じる「二重自我法」、自分の役割を他者に演じてもらい鏡(ミラー)のように自分を観察する「鏡映法」といった技法を活用し、自己理解や自己洞察を行うことを促進させます。
また手順においては、①ウォーミングアップ、②ドラマ、③シェアリングのプロセスがあり、最後のシェアリングでは感想を語り合うことを行います。
このようにサイコドラマにおいても、「カタルシス」がキーワードの一つになっております。
<役割理論について>
「役割」という言葉が出てきたので、「役割理論」というものについて簡単にご紹介します。
役割理論は「役割という概念を通じて、個人と社会の相互作用を捉える理論」のことを言います。
また、役割理論は「役割〇〇」といったように派生語をつけることで、多様に展開されております。
以下役割理論において代表的なものになります。
役割理論
<役割期待>
個人が社会的地位に応じた役割を果たすことを他者から期待されること
例)教師、上司(役職)、母親、子ども、医師など、それぞれ社会で期待されている役割が存在する
<役割取得>
個人が他者からの期待を自らに取り入れ行為を形成すること
例)子どもが「ごっこ遊び」を通じて、演じた役割に沿った役割期待を取り入れる
<役割葛藤>
個人が複数の役割を担うことで、役割の間に矛盾が生じ、個人の心理的緊張を引き起こすこと
例)親が仕事と子育ての両立で葛藤する、子どもが母親からの期待と父親からの期待が異なることで葛藤する
<役割距離>
個人が他者からの期待と少しずらした形で行為することで、自己の主体性を表現すること
例)外科医が手術中に冗談を言う、子どもがメリーゴーランドで騎手のように乗る
このように「個人の問題は実は社会の問題でもある」という言葉もあるように、社会からの働きかけで個人が形成されることもあります。
オープンダイアローグ(開かれた対話)
<オープンダイアローグ(開かれた対話)>
オープンダイアローグ(開かれた対話)とは、フィンランド発祥の対話を通じた包括的なアプローチのことで、精神医療領域において薬の治療では得られなかった変化がみられるなど現在注目されているアプローチになります。
オープンダイアローグは、基本的に治療チームでの実践を行い、患者または関係者を招き、チーム対チームでの対話の形をとります。また、話すことと聴くことを意図的に分けることを行い、「リフレクティング」という患者について治療チームが対話し、患者は俯瞰的にただそれを聴くという独自的な間をはさみ、対話を続けます。
以下オープンダイアローグの7つの原則についてご紹介します。
7つの原則
<即時対応>
必要に応じてただちに対応する
<社会的ネットワークの視点を持つ>
クライエント、家族、つながりのある人々を治療ミーティングに招く
<柔軟性と機動性>
その時々のニーズに合わせて、どこででも、何にでも柔軟に対応する
<チームが責任を持つ>
治療チームは必要な支援全体に責任を持って関わる
<心理的連続性>
クライエントをよく知っている同じ治療チームが、最初からずっと続けて対応する
<不確実性に耐える>
答えのない不確かな状況に耐える(ノープランで臨む)
<対話主義>
対話を続けることを目的とし、多様な声に耳を傾け続ける
オープンダイアローグは「治療や解決を目的としない」という姿勢があります。また「ノープランで臨む」とあるように、事前準備に力を入れないことによって、患者を「〇〇な人」と決めつけずに接します。この姿勢が患者にとって有効な効果を発揮します。
また、アプローチの後半には「もう少し話したい気持ちはありますか?」「まだ話足りないことはありますか?」といった問いかけを行い、「話を聴ききる」ことを大切にします。これは一方で「語り終える」ことでもあり、先ほどのブロイアーとアンナの症例でもあった「カタルシス」にもつながります。
現在は日本でもオープンダイアローグの認知が広まりつつあり、様々な機関や団体が実践を行っております。
<Hight EE (EE : Expressed Emotion)>
Hight EE (以下高EE)は、統合失調症などの精神疾患の再発率を大きく上げてしまう要因のことを指します。
「批判」「敵意」「情緒的な巻き込まれすぎ(言動に左右されすぎ)」が主な要因にあり、これらが多い家庭のことを「高EE家庭」と呼びます。
一方で「低EE家庭」は、「共感的」「支持的」「適度な距離を保つ」という要因があり、高EE家庭と低EE家庭とでは精神疾患の再発率に5倍の差があると言われてもおります。
「高圧的」または「指導的」といったいわゆる「父権主義的態度」は、日本の家父長制の中で根強く残っているものでもあり、精神疾患が増えていることや精神医療領域が他に比べて遅れて発展してきたことにも、社会構造的につながる部分もあります。
まとめ
以上のように、今回は「カタルシス」を共通基盤に置き、関連する諸事項にも触れながら、広く内容を取り扱った記事となりました。
それぞれの場所や分野で実践している人たちや、悩みを抱えている人たちにとって、「根源的な視点」が芽生えるきっかけになれば幸いです。
今後とも本サイトでは、社会や心理、歴史や人にまつわる記事を書いていきたいと思いますので、引き続きどうぞよろしくお願いします。