はじめに
本記事では、コミュニティ・オーガニゼーションについての起源や概念、方法や要素について解説しております。現在は地域共生社会がキーワードとなっているように「福祉の枠を超えて」あらゆるステークホルダーと連携していくことが求められます。とりわけマレー・G.ロスがまとめたコミュニティ・オーガニゼーションの概念や方法、要素などは、地域福祉の「コア概念」としてそのヒントが込められております。
コミュニティ・オーガニゼーションの起源や定義、アプローチや要素について以下まとめていきます。
コミュニティ・オーガニゼーションの起源
コミュニティ・オーガニゼーションとコミュニティ・ワークは言葉が違いますが、アメリカで発展したコミュニティ・ワークがコミュニティ・オーガニゼーションであり、イギリスで発展したコミュニティ・オーガニゼーションがコミュニティ・ワークということもできます。
またこのコミュニティ・ワークやコミュニティ・オーガニゼーションの起源は19世紀の慈善組織協会(COS)やセツルメント運動とされております。
慈善組織協会
慈善組織協会(COS: Charity Organization Society)は、19世紀後半にイギリスで設立された組織であり、貧困の問題に体系的に取り組むことを目的としていました。当時、貧困者への支援は多くの慈善団体や個人によって行われていましたが、無秩序で効果的ではないことが問題視されていました。COSはこの状況を改善するために、貧困者に対する支援を統一し、効率的かつ科学的な方法で提供することを目指しました。
COSの主な活動は、貧困者の状況を調査し、必要な援助を提供することでした。調査には「友愛訪問者」と呼ばれるボランティアが関与し、彼らは貧困者の家庭を訪問し、生活状況や支援の必要性を評価しました。その後、COSは適切な援助を調整し、各家庭の自立を促すための支援を行いました。
さらに、COSは貧困の根本原因を解明し、政策提言を行うことにも力を入れていました。これにより、貧困問題に対する社会全体の理解を深め、持続可能な解決策を模索しました。
COSのアプローチは、後のソーシャルワークや社会福祉の発展に大きな影響を与えました。貧困者への個別対応や社会調査の重要性を強調し、福祉活動を体系化する基盤を築いたのです。このようにして、COSは現代の社会福祉の礎を築き上げる重要な役割を果たしました。
セツルメント運動
セツルメント運動は、19世紀末から20世紀初頭にかけて発展した社会改革運動であり、特に都市部の貧困層に対する支援を目的としていました。この運動は、裕福な人々や中産階級が貧困地域に住み込み、地域住民と共に生活しながら、教育や福祉サービスを提供することで、貧困の改善を目指しました。
セツルメント運動の主な目的は、貧困層の生活条件を改善し、社会的なつながりを強化することでした。住民はセツルメントハウスと呼ばれる施設に集まり、教育、職業訓練、医療サービス、文化活動など様々な支援を受けることができました。これにより、住民は自らの生活を向上させるためのスキルや知識を得ることができました。
代表的なセツルメントハウスには、1889年にロンドンで設立されたトインビー・ホールや、アメリカのシカゴにあるハル・ハウスがあります。ハル・ハウスはジェーン・アダムスによって設立され、特に女性や子供を対象にした支援活動を展開しました。
セツルメント運動は、社会福祉の発展に大きな影響を与えました。地域住民と密接に関わりながら問題解決に取り組むアプローチは、現代のコミュニティ開発やソーシャルワークの基盤となっています。セツルメント運動を通じて培われた知識や経験は、現代の社会福祉プログラムにおいても重要な役割を果たしています。
このように、セツルメント運動は貧困地域の生活改善と社会的つながりの強化を目指す重要な運動であり、現在の福祉政策においてもその影響を感じることができます。
また慈善組織協会やセツルメントについては、当HPにて記事をまとめておりますので良かったらそちらをご覧ください。
慈善組織協会(COS)の要点キーワードまとめ~社会福祉の発展過程を学ぶ - SOCIAL CONNECTION
セツルメント運動の歴史について要点キーワードまとめ|社会福祉の発展過程を学ぶ - SOCIAL CONNECTION
コミュニティ・オーガニゼーションとは?
コミュニティ・オーガニゼーションとは、地理的地域や特定分野における社会福祉資源と住民のニーズを調整し、より効果的に機能させるプロセスを指します。
コミュニティオーガニゼーション
コミュニティ・オーガニゼーションとは、・・・・・・ある地理的地域、またはある専門機能的な分野において、社会福祉資源と社会福祉的要求とを調整して、それをいっそう効果的に維持する過程をいう。その目標は、すべてのソーシャル・ワークが目標とするものと一致する。だから最大の関心は、住民の要求であり、それを充足する手段として、民主的生活にふさわしい方法をもたせようと努力する。
(注14)C.F. Mcneil."Community Organization for Social Welfare,"Social Work Year Book. American Association of Social Workers,1951.P.123.Ernest B.Harper and Arthur Dunhan(eds.),Community Organization in Action,Association Press,1959,PP.54-59
コミュニティ・オーガニゼーション:理論・原則と実際 改訂増補版 マレー・G.ロス 著 岡村重夫訳 出版社 全国社会福祉協議会 国立国会図書館デジタルコレクション P18引用
またコミュニティ・オーガニゼーションは、地域社会ニーズが福祉の枠を超えると考えられているため、福祉の範囲に限定されないという意見もあります。とりわけ1960年前後のアメリカではすでに、成人教育や農業、宗教など、福祉以外の分野での取り組みが増えており、これらの関係者もコミュニティ・オーガニゼーションの実験計画を推進していたそうです。
マレー・G.ロスはコミュニティ・オーガニゼーションの目的や方法についても述べておりますので次に紹介します。
単一目標による方法
単一目標接近法の概要と実践例
単一目標接近法(specific content objective)は、地域社会において特定の改革を目指す方法です。この方法では、個人や団体が特定の目標に関心を持ち、それを達成するための活動に取り組みます。例として募金活動のように、目標達成のために短期間で効率的な行動が求められることが特徴です。
この方法では、客観的状況に応じて、目標達成の手段が変化します。時には直接的な交渉で成功することもあれば、協議や相談が必要な場合もあります。問題を公にし、抵抗勢力に圧力をかけることも選択肢の一つです。これらの手段は単独でも複数組み合わせても用いられますが、最終的な目標は一つの特定改革を実現することに集中しています。
カナダでの実践例
カナダのP市では、4人のソーシャルワーカーが精神衛生診療所設立を目指しました。当初、地域住民は診療所の必要性を理解していませんでしたが、町の有力者16人を訪問し、協力を要請しました。そのうち12人が会合に参加し、専門家の講演を通じて関心が高まりました。その後、市の指導者や住民を巻き込んだ大規模な集会が成功し、特別委員会が設立されました。ワーカーたちは地域で講演や広報活動を行い、住民の関心をさらに高めました。
最終的に500人以上が集まる公開集会で計画案が承認され、募金活動が開始されました。1年後には資金が集まり、診療所設立の目標が達成されました。この過程で地域社会の団結感や信頼感が高まる副次的な効果も見られましたが、これらは偶然の結果とされます。
単一目標接近法には批判もありますが、少数派が多数派の支持を得て目標を達成する手法として、民主社会における重要な手続きです。最良のソーシャルワークや教育の実践とは異なる場合もありますが、多様な意見が競争する社会では効果的な方法とされています。
全般的目標による方法
全般的目標接近法の概要と実践例
全般的目標接近法(general content objective)は、特定分野における各種サービスを秩序立てて総合的に発展させることを目指す方法です。このアプローチは、例えば社会福祉協議会のように、既存サービスの調整や拡大、新しいサービスの提案を通じて地域社会の福祉向上を図るものです。目標は単一の改良ではなく、サービス全体の効果的な運営を目的とします。
方法の特徴
この方法では、関連する機関や団体、地域の有力者など多くの関係者を巻き込む必要があります。これらの関係者が集まり、計画を協議し、実現に向けた推進力を提供します。特定の分野のサービスを調整・拡大するためには、全員の協力が不可欠であり、計画策定にも時間を要します。
また、住民の関心を引き、計画実現に向けた支持を得ることも重要です。例えば、地域全体で福祉の重要性を認識させるような啓発活動が行われます。この過程により、地域社会における福祉活動の改善と発展が推進されるほか、住民間の結束が深まる副次的効果も期待できます。
実践例
ある地域では、老齢手当の増額を目指す取り組みが行われました。社会福祉協議会は実業家を含む地域の有力者を実行委員に迎え入れ、協議会全体で計画を立案・推進しました。当初は保守的な実業家の支持を期待していませんでしたが、最終的には全会一致で増額案が承認されました。このような結果は、有力者を巻き込むことで実現したものです。
全般的目標接近法は、多様な関係者の協力を得て、地域全体の福祉向上を図る包括的なアプローチです。この方法の成功には、計画策定のための広範な協議と、住民や関係者を巻き込む粘り強い活動が求められます。
過程を目標とする方法
過程を目標とする接近法の概要と実践例
過程を目標とする接近法(process objective approach) は、特定の施設やサービスの実現を目指すのではなく、地域社会全体が自主的に問題を発見し、解決するプロセスを重視する方法です。この方法の目的は、地域住民が協力して社会問題に取り組む能力を育成し、地域全体の統合力を高めることにあります。目標は単一の改革ではなく、地域が一体となって機能する力を発展させることです。
方法の特徴
地域の全住民を巻き込むために、主な下部集団の指導者や住民代表を通じて協力体制を整え、全住民が参加できる計画を策定し、特定の問題を慎重に検討して住民の関心を高める活動を行います。また、各集団が納得しながら進めるために時間をかけて慎重に取り組み、持続可能な協力関係を築きます。その上で、段階的な目標設定を行い、第一目標として地域が共通問題に機能的に協力する能力を育成し、第二目標として具体的な問題を解決することで地域住民が自分たちの力を実感できるようにします。
実践例
ある地域では治安の悪化や違法行為が深刻化しており、住民が立ち上がって次の行動を実施しました。まず、地域ごとに代表を選出し、市役所に嘆願書を提出することで、一部の社交場が閉鎖され、警察の巡回が強化されました。次に、問題解決を進めるために住民クラブを設立し、クラブ代表が協議会を組織しました。この協議会が主導して、ねずみ駆除や清掃運動、結核検診や住居の改善、遊び場やレクリエーション活動の拡大といった取り組みを実施しました。これらのプロセスを通じて、住民は自らの力で問題を解決できる自信を得ると同時に、地域の団結力を高めました。また、住民の移動が激しい状況下でも、問題解決に向けた前向きな姿勢が維持されました。
この方法は、小都市や農村だけでなく、大都市の近隣地区や機能的共同社会にも適用可能です。例えば、福祉協議会や成人教育協議会が、特定サービスの拡大に注力するのではなく、地域全体の課題発見と解決策の発展に集中することで、地域社会の結束力と実行力が大幅に向上する可能性があります。
過程を目標とする接近法 は、住民や関係者を巻き込みながら、地域社会全体が自主的に成長し続けるための包括的なアプローチです。この方法の成功には、粘り強い活動と長期的な視点が求められます。
共同社会活動の要素
マレー G.ロスは、共同社会にアプローチする方法は様々でそれぞれ特徴がありますが、どの方法にも共通しているのは時間、目標、方法の三要素があると述べております。この三要素には次のような基準が適用できます。
時間のものさし
時間の使い方と重要性
時間の重要性は状況により異なり、それを示す「ものさし」は緊急性と柔軟性の両極端を持っています。
緊急行動が必要な場合
ものさしの一端では、迅速な対応が求められる場合があります。例えば、洪水や災害の際には、被害を最小限に抑えるために行動が遅れることは許されません。時間は最重要の要素であり、最短期間での完了が求められます。
時間に余裕がある場合
一方、ものさしの反対側では、時間の制約が少なく、ゆっくりと進められる状況があります。例えば集会では、意見が一致しない場合に活動を一時中断することがあります。ここでは、全員の意見を尊重し、急ぐことよりも合意を優先します。
このように、目的達成の過程では無理のない歩幅で進むことが重要です。
中間の状態
緊急性と柔軟性の間には多様な状況があります。時間の制限は自然に決まることが多いですが、その重要性は一概には言えません。緊急でなくても、深く考えるべき重要な問題が含まれる場合もあります。
時間の使い方は状況次第で変化します。緊急事態では迅速な対応が必要ですが、そうでない場合には十分な時間をかけて進める柔軟性も大切です。どちらの場合でも、状況に応じた適切な判断が求められます。
目標のものさし
地域社会における接近目標の多様性
地域社会の目標設定には、単一の具体的な計画と社会全体の治療的アプローチという両極端があり、それらを繋ぐ多様な段階が存在します。
特定目標に基づく接近法
ものさしの一端では、特定の計画や改善が目標となります。例えば、精薄児収容施設の設置、下水道の新設、住宅建設などです。この場合、目標は具体的で修正が難しく、その達成が最優先となります。方法は、この単一目標を達成するために限定され、直接的かつ明確なアプローチが採られます。
社会的治療を重視する接近法
反対側では、社会的治療が目標です。ここでは、特定の施設設置やプロジェクト達成を直接の目的とせず、地域社会全体が自覚を深め、結束を強化し、問題解決能力を高める過程が重視されます。この方法では、結果そのものよりもプロセスが重要であり、地域が自己を理解し、機能を最大限に発揮することが目指されます。
中間的なアプローチ
両者の中間には多様な段階があります。特定目標を重視しつつ過程も考慮する場合や、両者の比重を調整しながら進める場合などです。地域社会の状況や目標に応じて、アプローチの重点が異なります。
地域社会の目標設定は、「特定の改善」と「社会全体の成長」を両極端とするものさしで表現できます。実際には、その中間に位置する多様な段階が存在し、状況に応じた柔軟なアプローチが求められます。
方法のものさし
地域社会における方法の多様性
地域社会での方法は、「強制的アプローチ」と「自主的アプローチ」という両極端を持ち、それらを繋ぐ多様な段階が存在します。
強制的アプローチ
ものさしの一端では、個人や集団が外部から計画やサービスを地域社会に押し付ける方法があります。例えば、専門技術者が低開発国の地域社会で、新しい農業技術や種子を採用するよう説得する場合や、福祉協議会のワーカーが自身の提案を集会で採用させようと働きかける場合です。この方法では、外部からの影響力や強制力が中心となり、地域住民の意見や意思が軽視されることもあります。
自主的アプローチ
反対側では、住民自身が自分たちにとって何が重要かを考え、実施方法を決定するアプローチがあります。例えば、福祉協議会のワーカーが住民を支援し、地域の課題を自ら発見・解決するための行動を促す方法です。この場合、外部はあくまで補助的な役割を果たし、地域社会の主体性が重視されます。
地域社会へのアプローチは、「外部からの強制」と「住民主体の決定」という両極端を軸に、その中間にある柔軟な方法を状況に応じて選択する必要があります。重要なのは、地域社会の特性を尊重しつつ、最適なバランスを見つけることです。
このように現在、地域共同社会で実施されている活動は、理論、目標、方法、結果の点で非常に多様となっております。
これらの多様なアプローチを「コミュニティ・オーガニゼーション」という一つの言葉でまとめることは難しく、それぞれの特質を混乱させる可能性があります。各アプローチは状況に応じて正当性を持ち、適した状況で特徴を発揮します。しかし、「コミュニティ・オーガニゼーション」が重要な専門分野であるためには、明確に定義され、他の活動アプローチと区別される必要があります。
まとめ
このようにコミュニティ・オーガニゼーションは、特定の地域や分野における社会福祉資源と住民のニーズを調整し、効果的に機能させるプロセスを指します。これは、住民の要求を満たすために、民主的な方法で福祉資源を最適化することを目標としており、福祉の枠を超えて教育や農業など多様な分野でも取り組まれるものでもあります。
また、単一目標接近法や全般的目標接近法、過程を目標とする方法など、具体的なアプローチがあり、住民の参加や協力を通じて地域の課題解決に向けた取り組みを強化します。コミュニティ・オーガニゼーションは多様な方法を持ち、それぞれの地域や状況に応じた適用が求められます。
現代は「地域共生社会」という言葉が令和の時代のキーワードとなりました。
地域共生社会は、支援を受ける側と支える側の枠組みを超え、地域全体で課題解決に取り組むことを目指します。
この概念は、地域の住民が互いに助け合いながら、自分たちの生活環境を改善し、共に成長していくことを促進するものです。地域共生社会の実現には、住民一人ひとりが主体的に参加し、地域の課題を共有し、解決に向けて協力することが重要です。
また、地域共生社会の実現には、住民だけでなく、行政、NPO、企業など、さまざまなステークホルダーが連携して取り組むことが必要です。各組織が持つリソースやノウハウを活用し、地域の課題に対して効果的にアプローチすることで、より持続可能な社会を築くことができます。
このように地域共生社会の実現に向けて取り組むにあたっては、マレー・G.ロスが提唱したコミュニティ・オーガニゼーションから多くのヒントを得ることができます。特に「福祉の枠を超える」ということは歴史の歩みをみても、もともとはそうであったように、これからの時代より一層重要になることは間違いないでしょう。
☆参考文献:コミュニティ・オーガニゼーション:理論・原則と実際 改訂増補版 マレー・G.ロス 著 岡村重夫訳 出版社 全国社会福祉協議会 国立国会図書館デジタルコレクション ※この本はコミュニティ・オーガニゼーション(コミュニティワーク)のノウハウがたくさん込められておりますので是非機会があればご一読されることをオススメします。