はじめに
本記事では、「防衛機制の種類と具体例」について、社会福祉士や精神保健福祉士、公認心理士といった対人援助職の方を対象、国家試験から実践向けの内容をわかりやすくまとめております。
防衛機制はとても重要な概念となります。なぜなら、私たちは「日常生活や職業生活といったあらゆる場面において、無意識にこの防衛機制を使っているから」です。
実践においても同様で、利用者やクライエントが表出する態度や発言を「あたかもその人の性格や特徴」としてのみ捉えがちになることがあります。特にそれが支援者にとって望ましくない態度や発言だと、より一層支援者が感情的にもなり、誘導的にそう思い込んでしまい、さらには相手の行動を強制的に変更させようと不適切に働きかけることにもつながりかねません。
しかしそうではなく、「防衛機制の視点」を持つと、少し「客観的・俯瞰的」に利用者やクライエントが表出する態度や発言を捉えることにつながります。これは職場の人間関係や、家庭の人間関係でも同様です。
防衛機制
・人は様々な場面で、無意識に防衛機制を使っている。
・防衛機制の視点を持つと、客観的・俯瞰的にその人が表出する態度や発言を捉えなおすことができる。
”社会福祉は一重にものの見方にあり”
それでは以下ご覧ください。
防衛機制の種類
防衛機制は一言で表すと「不安や危機といったストレスに対して、無意識に働く心の防衛反応のこと」を言います。
具体的な防衛機制について、以下それぞれ説明していきます。
なお防衛機制はたくさんあるので、いくつかピックアップして掲載しております。
※また、ソーシャルワークトリートメント(上)、フランシスター・J・ターナー編集 米本秀仁監訳、第9章自我心理学理論P310~313を参考文献として、引用、抜粋、一部変更しております。
抑圧
望ましくない考えや感情を意識下に抑え、あるいは無意識下に抑え込むこと。
反動形成
ある種の本能欲求(衝動)を、その望ましくない本能欲求と正反対の本能欲求に置き換えることで、意識からそらすこと。
投影
人が自分では受け入れられない考えや感情を、他者の感情だと無意識に思い込むこと。
取り消し
受け入れ難い、または罪悪感を促す行為・考え・感情を、象徴的な意味で、なかったことにすること。
退行
より以前の発達段階、機能レベル、またはある行動様式に逆戻りすること。
昇華
本能欲求を、元々の本能欲求の目的を損なわないで、社会的に受け入れ難いものから社会的に受け入れやすいものに変容させること。
知性化
受け入れ難い情動と本能欲求を直接行動するのではなく、頭で考えることで避けること。
合理化
納得のいく理由づけを行うことで、物事の根底にある受け入れ難い本当の動機を認識することなく、特定の考え、感情、または行動を正当化すること。
置き換え
ある人やある状況についての感情や葛藤を別の人や別の状況に移し換えること。
否定
重要な現実または個人の経験がたとえ知覚されていたとしても、打ち消すもしくは受容しないメカニズムのこと。
身体化
耐え難い本能欲求や葛藤を身体状況に変えること。
以上が主な防衛機制の説明になります。
なお最後の「身体化」はあまり聞き馴染みがないかもしれませんが、ストレスチェックでも頭痛や眩暈、腹痛などの身体状況の項目があるように、実は身近な防衛機制とも言えます。
防衛機制について
防衛機制を最初に用いたのは精神分析理論の第一人者である「ジグモンド・フロイド」と言われており、その後娘のアンナ・フロイドが1936年に「エゴと防衛機制」という著書を出版し体系化されております。
なおソーシャルワークの歴史を端的に振り返ると、心理学が導入されることによって、専門性として発展したという流れがあり、フロイドの精神分析理論は原点として押さえておきたい内容となります。
※精神分析理論については別の機会で紹介を予定しております。
防衛機制
ジグモンド・フロイドによる研究が最初と言われており、その後娘のアンナ・フロイドが防衛機制を体系化した。
防衛機制は精神分析領域のみならず、あらゆる分野においてストレスに対する一般的な知識として広く知られている。
本記事のサブタイトルが「国家試験から福祉実践まで」ということで、次は実践に向けた内容を紹介していきます。
フローレンス・ホリスの「ケースワーク心理社会療法(1966)」には防衛機制についてこのように書かれております。
防衛機制について
~略
クライエントがなれるまで、<防衛機制>(defense mechanisms)を、しばしばクライエントに説明しなければならない。なぜなら、クライエントは、これら防衛機制の作用を知らないし、まったく自分自身で防衛機制の作用を理解できると期待することができないからである。
しかし、しばらくしてから後には、クライエントは、しばしば、ある特定の防衛を自分が使っているということを探知できるようになる。
この種の治療の目的の一つは、クライエントが、自分はどのような防衛機制を使っているかということに自分で気づくようにすることである。
引用:ケースワーク「心理社会療法」P151 フローレンス・ホリス著 本出祐之・黒川昭登・森野郁子訳 岩崎学術出版社
このように、「人はそれぞれ防衛機制で表出されやすいクセがある」とも言われております。
また防衛機制は「無意識」であることから、「第三者が、その人自身が使っている防衛機制に気づく手助けをする」ということが重要になってきます。
それでは具体的にどのような質問を行っているかいくつかご紹介します。
あなたは義兄とあのような話をして多少いらいらしていたのではないですか、そして、ある程度、義兄があなたをたたく前に彼をたたこうとしたのではありませんか。
あなたの妻は本当に怒っていたと思いますか。あるいは、あなたが非常に怒ったので彼女も怒っているのだろうと思ったのですか、最初に奥さんは本当にどう言ったのですか。
あなたは、本当は、フレッドに非常に腹が立っているけれど、それを口に出して言えないので気分が沈んでいるのだと思いませんか。時には、このような怒りの感情を自分自身に向けて気分が沈むことがあるのですよ。
引用:ケースワーク「心理社会療法」P151フローレンス・ホリス著 本出祐之・黒川昭登・森野郁子訳 岩崎学術出版社
このように防衛機制は実践においても重要となっております。
知識と技術
利用者・クライエントがどのような防衛機制を使っているのか?
またそれらを気づかせるための問いや働きかけをどうするか?
本記事を通じて、少しでも防衛機制の重要性について関心をもっていただければ幸いです。
続きはご自身で知識を深めていってください。
最後に国家試験の設問を通じて具体例を確認していきます。
社会福祉士国家試験~設問
社会福祉士国家試験の設問を通じて、防衛機制について理解を深めていきます。
設問の内容を見て、どの防衛機制に当てはまるか考えてみてください。
※なお各設問について「抑圧」「合理化」「知性化」「置き換え」「退行」「反動形成」「取り消し」「昇華」のどれかが該当します。
第26回問題13-2(改)
保育園児のD子ちゃんは、不安感に脅かされているが、しばしば自分は強くて万能な人間だというファンタジーを作り出す。
第26回問題13-3(改)
不登校中の中学生E男さんは、学校に行けない理由として「眠れなかったから」とか、「朝、熱が出たから」と言ったりする。
第26回問題13-4(改)
5歳児のF男ちゃんは、弟が生まれ母親が弟に付きっきりになったとき、とっくにやめていた指しゃぶりをまた始めた。
第26回問題13-1(改)
大学生B男さんは、女性Cさんに心を惹かれ強い衝動を抱いたが、Cさんに対しては恋愛や女性の職業の自由について高尚な考えを述べた。
第26回問題13-5(改)
父親に対する憎しみの感情を抑えた高校生のC男さんは、ときに父親に対して極端な気遣いや過剰な配慮を示すことがある。
第27回問題10-1(改)
あるつらい体験をした。その後、その体験に関する記憶があいまいになった。
第27回問題10-2(改)
飛行機事故をいつも心配していた。しかし、事故の確率は極めて低いと考え、不安な気持ちを静めた。
第27回問題10-3(改)
自分の欲しかったものが手に入らず悔しかった。それで、あんなものは大した価値がないと思い気持ちを落ち着けた。
第27回問題10-4(改)
競争心が高まりライバルを攻撃したくなった。しかし、それは不適切だと感じ、ボクシングの練習で気持ちを解消した。
第27回問題10-5(改)
ある友人に批判的な気持ちになった。しかし、そんな気持ちは不適切だと思い、逆に優しいことばをかけた。
第29回問題12-1(改)
現在の発達段階より下の発達段階に逆戻りしてえ、未熟な言動を行うこと。
第29回問題12-2(改)
ある対象に対して持っていた本来の欲求や本心とは反対の言動をとること。
第29回問題12-3(改)
苦痛な感情や社会から承認されそうもない欲求を、意識の中から閉め出す無意識な心理作用のこと。
第29回問題12-4(改)
自分がとった葛藤を伴う言動について、一見もっともらしい理由をづけをすること。
第29回問題12-5(改)
社会から承認されそうもない欲求を、社会から承認されるものに置き換えて充足させること。
第31回問題11-1(改)
父から叱られ腹が立ったので弟に八つ当たりした。
第31回問題11-2(改)
攻撃衝動を解消するためにボクシングを始めた。
第31回問題11-3(改)
苦手な人に対していつもより過剰に優しくした。
第31回問題11-4(改)
飛行機事故の確率を調べたら低かったので安心した。
第31回問題11-5(改)
失敗した体験は苦痛なので意識から締め出した。
以上が社会福祉士国家試験で出題された防衛機制の具体例になります。
社会福祉士国家試験~解答
以下、設問解答になります。カテゴリーごとに分けて見やすくまとめております。
「抑圧」になるもの
第27回問題10-1(改)
あるつらい体験をした。その後、その体験に関する記憶があいまいになった。
第29回問題12-3(改)
苦痛な感情や社会から承認されそうもない欲求を、意識の中から閉め出す無意識な心理作用のこと。
第31回問題11-5(改)
失敗した体験は苦痛なので意識から締め出した。
抑圧
望ましくない考えや感情を意識下に抑え、あるいは無意識下に抑え込むこと。
これらは「抑圧」に該当します。
ちなみにジグモンド・フロイドが最初に研究した(つまり最初の防衛機制)が抑圧とされております。
「合理化」になるもの
第26回問題13-3(改)
不登校中の中学生E男さんは、学校に行けない理由として「眠れなかったから」とか、「朝、熱が出たから」と言ったりする。
第27回問題10-3(改)
自分の欲しかったものが手に入らず悔しかった。それで、あんなものは大した価値がないと思い気持ちを落ち着けた。
第29回問題12-4(改)
自分がとった葛藤を伴う言動について、一見もっともらしい理由をづけをすること。
合理化
納得のいく理由づけを行うことで、物事の根底にある受け入れ難い本当の動機を認識することなく、特定の考え、感情、または行動を正当化すること。
これらは「合理化」に該当します。
イソップ物語のすっぱい葡萄が有名な例になります。
「知性化」になるもの
第26回問題13-1(改)
大学生B男さんは、女性Cさんに心を惹かれ強い衝動を抱いたが、Cさんに対しては恋愛や女性の職業の自由について高尚な考えを述べた。
第27回問題10-2(改)
飛行機事故をいつも心配していた。しかし、事故の確率は極めて低いと考え、不安な気持ちを静めた。
第31回問題11-4(改)
飛行機事故の確率を調べたら低かったので安心した。
知性化
受け入れ難い情動と本能欲求を直接行動するのではなく、頭で考えることで避けること。
これらは「知性化」に該当します。
合理化と少し似ていますが、こちらは知識(頭で考えること)がポイントとなります。
「退行」になるもの
第26回問題13-4(改)
5歳児のF男ちゃんは、弟が生まれ母親が弟に付きっきりになったとき、とっくにやめていた指しゃぶりをまた始めた。
第29回問題12-1(改)
現在の発達段階より下の発達段階に逆戻りして、未熟な言動を行うこと。
退行
より以前の発達段階、機能レベル、またはある行動様式に逆戻りすること。
以上が「退行」になります。
※ちなみに余談ですがイライラして車のスピードを出して運転することも「退行」です。退行は赤ちゃん返りだけではありません。
「反動形成」になるもの
第26回問題13-5(改)
父親に対する憎しみの感情を抑えた高校生のC男さんは、ときに父親に対して極端な気遣いや過剰な配慮を示すことがある。
第27回問題10-5(改)
ある友人に批判的な気持ちになった。しかし、そんな気持ちは不適切だと思い、逆に優しいことばをかけた。
第29回問題12-2(改)
ある対象に対して持っていた本来の欲求や本心とは反対の言動をとること。
第31回問題11-3(改)
苦手な人に対していつもより過剰に優しくした。
反動形成
ある種の本能欲求(衝動)を、その望ましくない本能欲求と正反対の本能欲求に置き換えることで、意識からそらすこと。
以上が「反動形成」になります。
反動形成を見分ける点として、不自然さ、オーバーな行動、ぎこちなさ、などあります。
「置き換え」になるもの
第31回問題11-1(改)
父から叱られ腹が立ったので弟に八つ当たりした。
置き換え
ある人やある状況についての感情や葛藤を別の人や別の状況に移し換えること。
以上が「置き換え」になります。
「八つ当たり」は列記とした防衛機制になります。
「昇華」になるもの
第27回問題10-4(改)
競争心が高まりライバルを攻撃したくなった。しかし、それは不適切だと感じ、ボクシングの練習で気持ちを解消した。
第29回問題12-5(改)
社会から承認されそうもない欲求を、社会から承認されるものに置き換えて充足させること。
第31回問題11-2(改)
攻撃衝動を解消するためにボクシングを始めた。
昇華
本能欲求を、元々の本能欲求の目的を損なわないで、社会的に受け入れ難いものから社会的に受け入れやすいものに変容させること。
以上が「昇華」になります。
防衛機制の中で、もっとも望ましいとされております。
「取り消し」になるもの
第26回問題13-2(改)
保育園児のD子ちゃんは、不安感に脅かされているが、しばしば自分は強くて万能な人間だというファンタジーを作り出す。
取り消し
受け入れ難い、または罪悪感を促す行為・考え・感情を、象徴的な意味で、なかったことにすること。
以上が「取り消し」になります。
まとめ
以上が防衛機制の種類と具体例についてまとめでした。
防衛機制は精神分析の領域のみならず、私たちの身近にも「無意識に」存在しているものでもあります。
防衛機制
・人は様々な場面で、無意識に防衛機制を使っている。
・防衛機制の視点を持つと、客観的・俯瞰的にその人が表出する態度や発言を捉えなおすことができる。
このように防衛機制の知識は、対人援助スキルとして役に立つものとなります。
日々の実践や関わりで意識してみると、何かしらの変化やきっかけにつながるかもしれません。
その他本サイトでは、社会福祉の歴史や知識について発信しておりますので、良かったらぜひご覧ください。
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☆本記事を書くにあたって参考にした文献
・ソーシャルワークトリートメント(上)、フランシスター・J・ターナー編集 米本秀仁監訳、第9章自我心理学理論
・ケースワーク「心理社会療法」P151 フローレンス・ホリス著 本出祐之・黒川昭登・森野郁子訳 岩崎学術出版社 国立国会図書館デジタルコレクションより
・自我と防衛 A・フロイト著 外林大作訳 誠信書房
・ソーシャルワーク理論入門 デビッド・ハウ著 杉本敏夫監訳 5精神分析理論