
グループワーク(集団援助技術)は、共通の課題や関心を持つ人々が小集団に集い、その中で生まれる相互作用を通じて個々の成長や問題解決を目指すソーシャルワークにおける専門的な援助技術です。
個人が抱える困難は、時として一人で乗り越えることが難しい場合があります。そのような状況において、他者との関わりの中で新たな視点を得たり、共感を通じて連帯感を育んだりすることが問題解決への大きな力となります。介護者の集いや依存症からの回復を目指すグループなど、私たちの身近なところでも、このグループワークの考え方は広く活用されています。
この記事では、グループワークの基本的な目的から具体的な援助のプロセスに至るまで、その全体像をわかりやすく解説していきます。
グループワークの目的

グループワークの根本的な目的は、参加者一人ひとりがグループという環境の中で、他者との相互作用を通じて成長し、抱えている課題を乗り越える力を育むことにあります。
個人が直面する困難は、孤立した状態では解決の糸口が見えにくいことも少なくありません。しかし、同じような悩みを持つ他者と関わることで、自身の問題を客観的に捉え直し、新たな気づきや対処法を学ぶ機会が生まれます。
この援助技術は、単に知識や情報を提供するだけではありません。メンバー同士が感情を分かち合い、互いに支え合う経験そのものが、自己肯定感の回復やコミュニケーション能力の向上につながります。また、グループ内で意見を述べたり、他者の意見に耳を傾けたりするプロセスは、社会的な役割を再認識し、他者と協調していく訓練の場ともなり得ます。
このように、グループワークは参加者の内面的な変化を促し、社会的機能を高めることを通じて、個人がより良く生きていくための支援を目指すものなのです。
ソーシャルワークとグループワーク

ソーシャルワークは、個人、家族、地域社会が抱える様々な生活課題の解決を支援する専門職です。
その実践において、援助の対象や方法に応じていくつかの主要な技術があり、グループワーク(集団援助技術)はその中でも中心的な役割を担うアプローチの一つとして位置づけられています。
ソーシャルワークの代表的な技術には、個人を対象とするケースワーク(個別援助技術)、そして地域社会に働きかけるコミュニティワーク(地域援助技術)があります。
ケースワークがクライエントとワーカーの一対一の関係性を軸に支援を展開するのに対し、グループワークの最大の特徴は、意図的に構成された小集団の中で生まれるメンバー間のダイナミックな相互作用を援助の媒体として活用する点にあります。ワーカーは、グループが持つ力を最大限に引き出し、メンバー一人ひとりの成長や課題解決を側面から支援する触媒のような役割を果たします。
このように、グループワークは個人の問題解決と社会的な成長を同時に促すことができる、ソーシャルワークにおける不可欠な実践方法なのです。
グループワークの理論と沿革

グループワークは、20世紀初頭のアメリカにおけるセツルメント運動や青少年団体活動を源流として発展してきました。当初はレクリエーションや教育的な活動が中心でしたが、次第に個人の心理的・社会的な問題解決を支援する専門技術としての理論的基盤が築かれていきました。その発展の過程では、多くの研究者や実践家たちが理論の構築と体系化に貢献し、現代に至るグループワークの礎を築いています。
ここでは、その歴史に大きな影響を与えた5人の重要人物の功績と思想を紹介します。
ニューステッター
ウォルター・ニューステッターは、グループワークの領域において、その実践を科学的に分析し、体系化しようと試みた初期の重要人物です。彼は、それまで経験的に行われていた集団へのアプローチに、客観的な記録と評価の視点を取り入れることの重要性を強調しました。
ニューステッターの功績は、グループワークを単なる活動から、明確な目的と計画性を持つ専門的な援助技術へと高めるための基礎を築いた点にあります。彼のアプローチによって、ワーカーはグループ内で起きている現象をより深く理解し、効果的な介入を行うための指針を得ることが可能になりました。
コイル
グレース・コイルは、社会学や心理学といった社会科学の知見をグループワークに統合し、その理論的枠組みを大きく前進させた人物として知られています。彼女は、グループが持つ民主的なプロセスそのものに価値を見出し、メンバーが主体的に関わることで社会性を育むことができると考えました。
コイルは、グループワークを個人の治療的な側面に留まらず、より良い社会を形成するための市民を育成する手段としても捉えました。彼女の思想は、グループワークが個人の成長と社会的な目標達成の両方に貢献できるという、幅広い可能性を示すものとなりました。
コノプカ
ギゼラ・コノプカは、特に治療的な側面に焦点を当てたグループワークのモデルを発展させました。彼女は、精神障害や非行といった特定の課題を抱える人々に対する援助において、グループワークが非常に有効な手段であることを理論と実践の両面から示しました。
コノプカは、個々のメンバーの心理状態や背景を深く理解する「診断的視点」を重視し、それぞれのニーズに合わせてグループの目的やプログラムを柔軟に設定する必要性を説きました。このアプローチは、今日の治療的グループワークや臨床場面における集団療法の基礎となっています。
トレッカー
ハーリー・トレッカーは、グループワークの実践における原則や方法論を整理し、多くの実践家が活用できる形で体系化した功績で知られています。彼は、ワーカーが担うべき具体的な役割や、援助を展開していく上での段階的なプロセスを明確に示しました。
トレッカーの著作は、グループワークを学ぶ学生や実践家にとっての優れた教科書となり、その知識と技術の普及に大きく貢献しました。彼による体系化は、グループワークが専門職としてのアイデンティティを確立する上で、極めて重要な役割を果たしました。
シュワルツ
ウィリアム・シュワルツは、「相互作用モデル」という独創的な理論を提唱し、グループワークの考え方に新たな視点をもたらしました。彼は、援助の焦点をワーカーとメンバー、そしてメンバー同士の間で絶えず生じている「相互作用」そのものに置きました。
このモデルにおいて、ワーカーはグループを支配したり指導したりするのではなく、メンバーと社会の間に立ち、両者の関係性がより良いものになるよう手助けする「媒介者」として機能します。シュワルツの理論は、ワーカーとメンバーの協働関係を重視し、グループが本来持っている力を引き出すことを目指す現代的なグループワーク観に大きな影響を与えています。
グループワークの援助過程

グループワークは、無計画に進められるものではなく、明確な時間的流れと段階的な展開を経て進められます。この一連のプロセスは「援助過程」と呼ばれ、グループが誕生し、成長し、そして終わりを迎えるまでの生命サイクルにも似た道のりを辿ります。
それぞれの段階には特有の課題や雰囲気があり、ソーシャルワーカーは各段階の特性を深く理解し、その時々で求められる適切な役割を果たすことが不可欠です。この過程を丁寧に経ることで、グループは安全かつ効果的に機能し、参加者一人ひとりの成長を最大限に促すことができます。
準備期
準備期は、グループが実際に活動を開始する前の、極めて重要な土台作りの段階です。
この時期に、ワーカーはグループの目的を明確に設定し、その目的に合致するメンバーをどのように募集し、選定するかを計画します。グループの成功は、どのようなメンバーで構成されるかに大きく左右されるため、慎重な検討が求められます。
さらに、活動場所の確保、開催頻度や時間の設定、そしてグループの目標達成に繋がる具体的なプログラム内容の企画など、運営に関わるあらゆる側面を具体的に設計していきます。
この準備期における周到な計画が、その後のグループ全体の安定した運営と、効果的な援助展開の基盤となるのです。
開始期
開始期は、メンバーが初めて顔を合わせ、グループとしての第一歩を踏み出す段階です。
参加者は期待と同時に、どのような場なのか、他のメンバーはどんな人たちなのかといった不安や緊張を抱えています。この時期のワーカーの最も重要な役割は、メンバーが安心して自己開示できるような、安全で受容的な雰囲気を作り出すことです。
グループの目的や活動の進め方、守るべきルールなどを丁寧に共有し、メンバー間に共通の基盤を築きます。自己紹介や簡単なアイスブレイクなどを通じて、お互いを知り、関係性を構築していくためのきっかけ作りを支援します。
この段階で築かれる信頼関係が、その後のグループの発展に大きく影響します。
移行期
グループ活動が少し進み、メンバー間の緊張がほぐれてくると、移行期と呼ばれる段階に入ります。
この時期には、お互いの考え方や価値観の違いが明確になり、意見の対立や葛藤、あるいはグループ内での主導権争いといった現象が生じやすくなります。一見するとネガティブな状況に思えるかもしれませんが、これはグループがより深いつながりを形成するために避けては通れない、自然なプロセスです。
ワーカーは、こうした対立を安易に避けようとするのではなく、メンバーが互いの違いを乗り越え、建設的な方法で問題を解決していけるよう働きかけます。この葛藤を乗り越える経験を通じて、グループの結束力はより一層強固なものになります。
作業期
移行期の葛藤を乗り越えたグループは、最も成熟し、生産的に機能する作業期へと入ります。
この段階では、メンバー間の信頼関係が安定し、互いに支え合いながらグループ本来の目的に向かって積極的に取り組むことができます。メンバー同士の自発的な関わりが活発になり、ワーカーが介入しなくても、お互いにフィードバックを与え合ったり、助け合ったりする場面が増えていきます。
ワーカーの役割は、前面に立つことから一歩引いた位置へと変化し、グループが持つ本来の力を最大限に発揮できるよう、側面から見守り、必要に応じて支援を提供する形が中心となります。個人の気づきや変化が最も起こりやすい、実り多い時期と言えるでしょう。
終結期
設定された目標がある程度達成されたり、計画された期間が終わりに近づいたりすると、グループは終結期を迎えます。
この段階では、これまでの活動全体を振り返り、グループでの経験が各自にとってどのような意味を持ったのか、どのような成長や変化があったのかを確認し合います。目標の達成を祝う達成感や満足感と共に、慣れ親しんだグループやメンバーとの別れに対する寂しさや喪失感といった複雑な感情が生まれることもあります。
ワーカーは、メンバーがこれらの感情を表現できる場を保障し、グループで得た学びや力を、今後の個々の人生にどのように活かしていくかを考えられるよう支援する重要な役割を担います。
終了後期
グループが解散した後も、援助プロセスが完全に終わるわけではありません。終了後期は、アフターケアやフォローアップの時期と位置づけられます。メンバーがグループという支えのない環境に戻った後も、そこで得た学びや変化を日常生活の中で維持し、さらに発展させていけるように支援を続けます。
具体的には、一定期間後に再度集まる機会を設けたり、個別に連絡を取って状況を確認したりすることがあります。また、必要に応じて、他の社会資源や専門機関につなぐことも重要な役割です。この段階での関わりが、グループワークの効果をより持続的なものにするために不可欠となります。
セルフ・ヘルプ・グループ

セルフ・ヘルプ・グループは、共通の課題や困難な経験を持つ人々が、専門家の主導ではなく、自分たちの手で自発的に集まり、互いに支え合うことを目的とした集団です。
日本語では「自助グループ」とも呼ばれ、アルコール依存症者のためのアルコホーリクス・アノニマス(AA)や、ギャンブル依存症者のためのギャンブラーズ・アノニマス(GA)、あるいは難病の患者会や家族会など、その対象は多岐にわたります。
このグループの最大の特徴は、同じ苦しみや経験を分かち合える「仲間」の存在そのものが、何よりの力になるという点にあります。専門家には打ち明けにくい本音や葛藤も、同じ立場にいる者同士だからこそ、ありのままに語り合うことができます。そこでは、自分の経験を語ることが誰かの助けになり、誰かの話を聞くことが自分の学びに繋がるという、相互的な支援関係が生まれます。
このような対等な関係性の中で、参加者は孤立感から解放され、自己肯定感を取り戻し、問題に対処していく新たな力を得ていくのです。ソーシャルワーカーは、こうしたグループの存在をクライエントに紹介したり、グループの立ち上げを側面から支援したりするなど、連携を図る上で重要な役割を担うことがあります。
ヒューマニスティック・アプローチ

ヒューマニスティック・アプローチは、グループワークの根底に流れる重要な思想的基盤の一つです。
このアプローチは、カール・ロジャーズに代表される人間性心理学の考え方を基礎としており、人間一人ひとりが本来持っている成長への欲求や自己実現への力を全面的に信頼する立場をとります。問題そのものよりも、その問題を抱える個人とその人の内面的な経験を尊重する点が大きな特徴です。
この考え方に基づくと、ソーシャルワーカーの役割は、メンバーに何かを教えたり、特定の方法を指導したりすることではありません。むしろ、メンバーが自分自身の力で問題の解決策を見出し、自律的に成長していくプロセスを側面から支えることに主眼が置かれます。
そのために不可欠とされるのが、ワーカーの「受容」「共感的理解」「自己一致」という三つの基本的な態度です。これらの態度によって作り出される心理的に安全な環境の中でこそ、メンバーは安心して自己を探求し、他者との関わりを通じて新たな気づきを得ていくことができます。
ヒューマニスティック・アプローチは、グループワークを単なる技法の集合体としてではなく、人間的な成長を促すための深い信頼関係に基づく営みとして捉えるための、根源的な哲学と言えるでしょう。
まとめ
本記事では、ソーシャルワークにおける専門技術であるグループワーク(集団援助技術)について、その目的から理論的背景、そして具体的な援助のプロセスに至るまでを多角的に解説しました。グループワークは、共通の課題を持つ人々が集まることで生まれる相互作用を力に変え、個人の成長と問題解決を促す非常に有効なアプローチです。
ニューステッターやコイルといった先駆者たちの理論的貢献から、準備期に始まり終結期に至る段階的な援助過程、そしてセルフ・ヘルプ・グループのような自発的な集団との関連性まで、その内容は多岐にわたります。その根底には、人間の成長する力を信じ、受容的・共感的な関わりを重視するヒューマニスティックな思想が流れています。
この記事を通して、グループワークが個人のエンパワメントと社会参加を支援するための、奥深く体系化された援助技術であることがご理解いただけたなら幸いです。





