1.はじめに
【コラム】本記事では、2021年に主催の交流会で講演した「人からはじまる僕らの実践|People first,A personal firstから考える」の内容を多くの方にも届けるべく、HPにてセミナーで使用したスライドを公表します。
「社会福祉は一重にものの見方にあり」
私たちは見えないところにある「社会構造」から多くの影響を受けております。この視点を「社会構成主義」とも言います。
皆さんがこの記事を読み終えた後、きっと支援者としての在り方や、社会の見方が大きく変わることでしょう。
最初にいくつか用語について解説してから、本題のスライド紹介へ進みます。
スティグマ
スティグマとは、特定の個人や集団に対して社会的に否定的なレッテルや偏見が付けられることを指します。これにより、対象者は差別や偏見を起因とする孤立を経験し、自尊心や社会的なつながりが損なわれることがあります。スティグマは病気、障害、貧困などさまざまな状況で発生します。これを解消するには、正確な情報の普及や相互理解を深める取り組みが重要です。社会全体でスティグマを減らすことで、多様性を尊重する包摂的な社会を目指すことが求められます。
ラベリング理論
ラベリング理論は、社会が個人に特定のレッテルを貼ることで、その人の行動や認識に影響を及ぼし、結果として逸脱行動が生まれるとする理論です。この理論では、逸脱行動そのものよりも、社会がその行為を逸脱とみなす過程に焦点が当てられます。たとえば、些細なルール違反が「逸脱者」としてラベル付けされることで、本人がその評価を内面化し、さらなる逸脱行動を繰り返す可能性があります。この理論は、社会構成主義として発展し、社会が逸脱の枠組みをどのように構築するかに注目しました。
偏見
偏見とは、十分な理解や根拠がないまま、特定の個人や集団に対して持つ否定的な先入観や固定観念を指します。偏見は、性別、年齢、障害、人種、職業など、さまざまな要因をもとに形成されることが多く、差別や不平等の原因となることがあります。偏見は個人の経験やメディアの情報、文化的背景などによって影響を受けますが、無意識のうちに形成されることも少なくありません。これを克服するには、多様性を尊重し、他者への理解を深める教育や交流の機会を増やすことが重要です。
社会構成主義
社会構成主義とは、現実や価値観、社会的な問題が人々の相互作用や社会的な文脈を通じて構築されるという考え方です。ソーシャルワークにおいては、社会構成主義は支援対象者を固定的な問題として捉えるのではなく、問題がどのように社会的に定義され、関係性や環境の中で作り上げられているかを理解する視点を提供します。このアプローチにより、クライアントの可能性やリソースを引き出し、柔軟で多様な支援が可能になります。また、偏見やスティグマの再生産を防ぎ、包摂的な社会づくりに貢献します。
社会的排除
社会的排除とは、個人や集団が社会の中で必要な資源や機会、関係性から排除され、孤立や不平等な状況に置かれることを指します。この排除は、貧困、教育、雇用、医療、社会参加の機会など、多岐にわたる分野で発生します。社会的排除は、経済的な格差だけでなく、偏見や差別、制度的な要因によっても引き起こされることがあります。これを防ぐためには、排除の背景にある構造的な問題を解消し、全ての人が平等に参加できる社会を構築することが重要です。ソーシャルワークでは、社会的包摂を通じて排除の解決を目指します。
ピープルファースト
ピープルファーストとは、障害のある人々が主体的に権利を主張し、社会の中で自分らしく生きることを目指す自己擁護運動がはじまりとなります。この運動は1970年代にカナダ・アメリカで始まり、「わたしたち抜きにわたしたちのことを決めないで」(Nothing About us without us)という理念を掲げ運動を展開しました。名前の通り、「障害者」というラベルではなく、まず「人」としての尊厳や価値を重視することが基本的姿勢となります。ピープルファーストは、自己決定、社会参加、差別撤廃を目指し、当事者自身が声を上げることを通じ社会変革を目指しました。この活動は現在、国際的にも広がりを見せ、障害者福祉の重要な潮流となっています。
2.NARUTO -ナルト-
市民ソーシャルワークや福祉文化形成のピラミッドには、幼少期や児童期に童話やアニメから影響を受けるプロセスがあります。
また福祉の人は、福祉の舞台を題材にして人々に発信するという観点もあります。
しかし私個人としましては、「今すであるコンテンツや身の回りの事柄に、”実は福祉はあるよ!”」という視点や気づきを与えることが福祉教育のコアだと感じております。
そこで今回は「NARUTO」を題材にして、ピープルファーストという視点について展開していきます。
「福祉とは何か?」と「福祉の人は誰か?」について考える|福祉観の形成に向けて - SOCIAL CONNECTION
3.孤独と愛をテーマにした物語
『NARUTO -ナルト-』は、孤独と愛をテーマとして描かれた物語です。
主人公のうずまきナルトは幼い頃、九尾の人柱力であることから里の者たちに疎まれ、孤独の中で育ちます。しかし、その孤独を乗り越える力となったのが、師匠や仲間からの愛情と信頼です。
一方、宿敵であり親友のうちはサスケも家族を失った孤独を抱え、その喪失感が彼の行動を支配します。二人は互いの孤独を理解しつつも対立し、最終的に愛と絆を取り戻していく過程が描かれています。
この作品は、孤独から生まれる苦しみと、それを癒す愛の力を通じて、人とのつながりの重要性を問いかける物語です。
ナルトは里の者から「例の子」、「いつも独りぼっち」、「近寄ってはいけない」と言われ、差別や排除を受けて育ちます。
しかしナルトには、かけがえのない人物の存在がありました。
4.イルカ先生の存在
ナルトには孤独の中でも、たった一人「イルカ先生」の存在がありました。
幼少期、ナルトは九尾の人柱力であることで周囲から孤立していましたが、イルカ先生は唯一ナルトを受け入れ、彼の存在を認めた人物です。イルカ自身も両親を九尾に奪われた過去を持ちながら、ナルトを責めるのではなく、孤独に寄り添い、彼の努力を温かく見守りました。この絆は、ナルトにとって初めての「愛情」であり、忍者としての成長と自信を支える土台となりました。二人の関係は、物語全体を通じて深い師弟愛の象徴として描かれています。
「イルカ先生は、ナルトを化け狐としてみるのではなく、ナルト(固有名詞・かけがえのない存在)としてみてくれました」
5.その人をその人としてみること
このように「人からはじまる」ということは、レッテルやカテゴリーでその人をみるのではなく、「その人をありのままに」みてあげる価値観や姿勢になります。
特に福祉の支援者はさまざまな情報で、「〇〇の人」とみてしまいがちになり、それが結果その人を苦しめてしまうことも場合にはあります。
この現象をNARUTOの舞台から、現実に置き換えると以下のようになります。
[支援者の視点]
・本人を診断してみてしまう傾向があります。「〇〇の人」そしてそのあとに「本人」という視点で捉えます。
[親・兄弟姉妹の視点]
・本人を「〇〇の人」ではなく、「家族」という視点が先にきます。そのあとに本人の抱えている困難を捉えます。
[本人の視点]
・本人は当然まずはじめに「わたし」という視点がきます。ただ抱えている困難や周囲のレッテル貼りによって、やがて「わたし」という概念が薄れ、「〇〇の人」がわたしを支配していきます。
このように私たちは「誰の立場」に立つかによって、物事の見方が大きく変わるということを理解する必要があります。
6.Spirit(スピリット)という概念
日本人にはスピリットという概念がないと言われております。
スピリットとは「たとえどんな人であれど、魂は美しい」とする概念になります。
ドイツで障害をもって生まれた子を「ベテルの子(神の子)」とするのは、最初に「愛」を器に置いてあげることを示しております。
これは「NARUTO」でも同様に扱われております。
アメリカの有名な牧師に「リック・ウォレン」という方がおります。
その方が著した「The Purpose Driven Life」という本が世界的に人々に読まれております。
その中の一つに「Not Accident」というテーマがありました。
それは「親や周囲から望まれてこなかったとしても、神様はあなたを望んでつくったんだよ」という思想になります。
この世に生まれたことは、きっと何かしら意味があるということです。
リック・ウォレン
リック・ウォレン(Rick Warren)は、アメリカの著名な牧師であり、作家、そして社会活動家です。彼は特に、ベストセラー書籍『人生を導く5つの目的』(The Purpose Driven Life)で広く知られています。この書籍は全世界で数千万部を売り上げ、読者に人生の目的を見つけ、信仰を通じて豊かな生き方を追求する道を示しました。
ウォレンはカリフォルニア州レイクフォレストにあるサドルバック教会の創設者でもあり、この教会はアメリカ最大級のメガチャーチとして知られています。彼の活動は信仰に留まらず、HIV/AIDS対策、貧困撲滅、教育支援など、幅広い社会問題に取り組むことで、信仰と実践を結びつけています。ウォレンのメッセージは、宗教を超えた多くの人々に影響を与え、「目的ある人生」の大切さを強調するものです。
7.ピープルファーストと社会構造
「最初に”人”や”人々”から考えよう!」
日本語という言語構造は、いわゆる「スティグマ」や「偏見」が生まれやすい構造となっております。
認知症「患者」、生活保護「受給者」、「障害」者のように、〇〇という困難やレッテルが最初にきて、人(者)があとに来ます。
そうではなくて、私たちは先のNARUTOでもあったように、「〇〇の人ではなく、その人を先にみてあげる」ことが何よりも大切になります。
そしてそういう姿勢が、その人との信頼関係(ラポール)にもつながっていきます。
8.おわりに|大切な人はいますか?
以上が「人からはじまる僕らの実践~People first, A personal firstから考える」のセミナースライドと概要でした。
これをご覧になった方が1ミリでも視点が変わるきっかけになれば幸いです。
~皆さんには大切な人がいますか?
私たちが何かを成し遂げたいと思う原動力には、「きっと誰かの存在」があるのではないでしょうか?
答えは実は私たちの心の中にあります。
それを思い起こすことが、一歩踏み出す勇気にもなります。
【わかりやすく解説】バイスティックの7原則|ケースワークと援助関係の基礎知識まとめ - SOCIAL CONNECTION
こちらはバイスティックの7原則についてまとめた記事になります。
ソーシャルワーカーや支援者において、クライエントとの関係性はなくてはならないものとなっております。
医者や弁護士は究極のところ、手術を成功すれば、訴訟に勝利すれば、人間関係は不要です。
しかし私たちのような対人援助に関わる人たちはこの「援助関係」が必然となります。
それらについて詳しくまとめておりますので、良かったらご覧ください。
「No Rain, No Rainbow ~ 雨のないところに虹はでない」
世の中の人はみんな幸せを求めます。
しかし、いわゆるHaving(所有)の中に幸せは存在しません。
幸せとは「他者の幸せに貢献すること」が本来の定義になります。
皆さんにとって本当の意味での「幸せ」、そして「社会の幸せ」をSOCIAL CONNETIONは陰ながら応援しております。
以上セミナー内容のご紹介でした。ご覧いただきましてありがとうございました。