はじめに
本記事では、J.ロスマンが提唱した「コミュニティオーガニゼーションの3つのモデル」について、社会福祉を学ぶ方向けに解説をしております。J.ロスマンが提唱した「小地域開発モデル」「社会計画モデル」「ソーシャルアクションモデル」の3つのモデルは現在の地域福祉においても依然として重要なものです。是非この機会に学んでいきましょう。
J.ロスマン
ジャック・ロスマン(J.ロスマン)は、実践と研究の両面でソーシャルワークに大きな貢献をしてきました。彼は30年以上にわたって知識の開発と活用を結びつける革新的なアプローチを築き、コミュニティ組織の学問的基盤を確立しました。ロスマンの「コミュニティオーガニゼーションの3つのモデル」は、国内外で高く評価されています。また、彼の教科書『コミュニティ介入の戦略』は長年にわたり使用されています。
ロスマンの業績は、2004年に『Journal of Community Development』によって「古典テキスト」として認められました。彼の作品は、社会活動と政治擁護を正当な実践機能として専門家に受け入れさせる重要な役割を果たしました。
ロスマンは、ピッツバーグ大学やミシガン大学で注目すべきカリキュラム開発に取り組みました。彼は全国コミュニティ組織カリキュラム開発プロジェクトにも参加し、その貢献が評価されています。
研究分野では、ロスマンは実践に役立つツールを提供するための独自のパラダイムを開発しました。1974年の著書『社会変革のための計画と組織化』では、多くの研究を実践ガイドラインに統合しました。
ロスマンの業績は、評価協会やACOSAなどから賞を受け、国際的にも広く認められています。彼は多くの著作を残し、ソーシャルワークの分野に深い影響を与え続けています。
3つのモデル
J.ロスマンはコミュニティオーガニゼーションにおいて、3つのモデルを提唱しました。
3つのモデル
J.ロスマンの3つのモデル
小地域開発モデル
社会計画モデル
ソーシャルアクションモデル
それぞれについて以下説明していきます。
小地域開発モデル
小地域開発モデルは、地域社会の変化を促すために、地域住民の幅広い参加が重要であるという考え方に基づいています。このモデルでは、民主的な手続きや住民の自発的な協力、地域に根差したリーダーの育成が強調されます。たとえば、地域のニーズに応えるためのプログラムや、地域の発展を目指すプロジェクト、教育やグループ・ダイナミックスを活用した活動などがこのモデルの実例です。
また、小地域開発モデルは地域住民の全員参加を促し、住民の自発性や主体性を高めることを目的としています。地域の問題解決に向けて、住民が協力して地域社会を組織化します。民主的な手続きや、地域に根差したリーダーシップの開発が強調され、地域への帰属意識を育む過程が大切にされています。
社会計画モデル
社会計画モデルは、非行、住宅、精神衛生などの社会問題の解決に技術的なプロセスを重視します。このモデルは、詳細に計画され、統制された変化に重点を置いています。複雑な産業環境での変化には、大規模な官僚制度を克服するための技術的能力を持つ専門的計画者が必要です。主な関心は、必要とする人々に物品やサービスを確保し、調達し、分配することにあります。コミュニティ住民の能力強化や基本的な社会変革は、このモデルの主な目的ではありません。
社会計画モデルは、技術的な問題解決手法を活用し、効率的に社会資源を配分することを目指しています。主に行政等の機関で用いられ、プランナーが中立的な立場で支援を行います。このモデルは、限られた資源を効果的に管理し、社会問題を合理的に解決するのに役立ちます。
ソーシャルアクションモデル
ソーシャルアクションモデルは、社会的正義や民主主義の観点から、援助や支援が必要な人々の要求を組織化し、主要な制度やコミュニティに基本的な変化をもたらすことを目指します。具体的には、コミュニティ内の権力、資源、意思決定力の再配分や、制度や組織の基本政策の変更を求めます。このモデルの具体例としては、市民権グループや学生運動グループなどがあります。
ソーシャルアクションモデルは、地域社会で不利な立場にある人々が自らの問題を解決するためのモデルとして、不平等の改善を目指し、制度改革や権力構造の見直しを支援します。弱者の声を代弁し、マイノリティグループの課題に積極的に取り組むことを特徴とし、公民権運動などで多く用いられます。
コミュニティオーガニゼーションの3つのモデル
YOUTUBEで検索したところ、下記の動画がわかりやすいものとなっておりますのでご紹介になります。
スライド資料の英語をChatGPTなどで翻訳するとより一層理解が深まります。
社会福祉士国家試験
社会福祉士国家試験でもJ.ロスマンについて出題されておりますので参考として取り上げていきます。
第36回問108
ロスマン(Rothman,J.)が1960年代に提唱したコミュニティ・オーガニゼーション実践のモデルに関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1組織化モデルとは、住民の地域生活支援を目標として、当事者の個別支援と連動させて、地域の生活基盤の整備に向けた地域支援を展開する方法である。
2小地域開発モデルとは、不利な立場に置かれた人々が直面する状況を自らの力では変革できない時に、同じ問題意識を共有する人々と連帯し、権力構造に対して政治的に働きかける方法である。
3社会計画モデルとは、住民や当事者が求めるサービスや資源の提供を達成するために地域のニーズを調査して、サービス提供機関間の調整を図る方法である。
4ソーシャルアクションモデルとは、地域が求める目標を達成するために、サービス提供機関が地域の資源を利用して活動を推進する方法である。
5統合モデルとは、地方自治体による政策実践と、福祉施設等における運営管理実践を一体のものとして、地域を変革することを主たる目標とする方法である。
ロスマンは「小地域開発モデル」「社会計画モデル」「ソーシャルアクションモデル」の3つを提唱したので選択肢1と5は消去されます。
「小地域開発モデル」は、選択肢4の「地域が求める目標を達成するために、サービス提供機関が地域の資源を利用して活動を推進する方法」が該当します。地域の資源を活用し、住民の参加と協力を促進することで、地域社会のニーズや目標を達成することを目的としています。サービス提供機関は地域住民と協力し、地域資源を効果的に活用しながら、地域の発展や問題解決を図ります。
「ソーシャルアクションモデル」は、選択肢2の「不利な立場に置かれた人々が直面する状況を自らの力で変革できない時に、同じ問題意識を共有する人々と連帯し、権力構造に対して政治的に働きかける方法」が該当します。ソーシャルアクションモデルは、特に不利な立場にある人々が、自分たちの権利を守り、状況を改善するために集団的な行動を取ることを重視しています。
「社会計画モデル」は、「住民や当事者が求めるサービスや資源の提供を達成するために地域のニーズを調査して,サービス提供機関間の調整を図る方法である。」が該当するため3が正解選択肢となります。このモデルは、地域のニーズを評価し、サービス提供機関間の協調と調整を図ることで、住民や当事者が求めるサービスや資源を提供することを目的としています。
第29回問112
社会資源の開発に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
1ケースアドボカシーとは、クライエントと同じ状況に置かれている人たちの権利を守るために、新しい資源を開発しようとすることである。
2小地域開発とは、社会福祉の制度やサービスの創設・改善・維持を目指す活動である。
3ソーシャルアクションとは、地域の問題について、専門家を入れずに住民がグループでの取組を通して問題解決を図れるようにするものである。
4コーズアドボカシーとは、一人のクライエントの利益と安定した生活をまもるための働きである。
5社会計画とは、公的な機関や専門職が地域の問題について情報を収集・分析し、合理的な取り組み方を決めて実施することである。
コーズアドボカシー(Cause Advocacy)とは、特定の社会問題や政策に関して、変革を促すための活動や努力を指します。このアプローチは、個人やグループが特定の「原因」(コーズ)を支持し、その目標を達成するために行動することを目的としています。
一方で、ケースアドボカシー(Case Advocacy)とは、特定の個人や家族の権利やニーズを擁護し、問題を解決するための活動を指します。これは、個々のケースに焦点を当て、具体的な支援を行うことで、その人の生活の質を向上させることを目的としています。
よって選択肢1と4は用語と内容が入れ替えとなっております。
2は「社会福祉の制度」などマクロな領域であることから、小地域開発モデルではないことがわかります。ちなみにソーシャルアクションモデルが内容に該当します。
3は「住民がグループでの取組を通して問題解決を図れるようにする」とありますので、こちらが小地域開発モデルの内容となっております。
正解は5の「社会計画とは、公的な機関や専門職が地域の問題について情報を収集・分析し、合理的な取り組み方を決めて実施することである。」になります。
まとめ
このようにロスマンは「小地域開発モデル」「社会計画モデル」「ソーシャルアクションモデル」の3つを提唱しコミュニティオーガニゼーションの発展に貢献されました。この理論は地域福祉のさまざまな側面において依然として重要であり、地域社会の変化や発展を促進するための枠組みとなっております。
☆参考文献:現代の都市:地域社会と人間 著者竹中和郎、岩瀬庸理 出版社高文堂出版 国立国会図書館デジタルコレクションより
☆参考URL:介護ぷらす J.ロスマンの「コミュニティオーガニゼーション」とは?
https://kaigoplus.com/column/69