はじめに
本記事では、A.ピンカスとA.ミナハンによる「4つの基本的なシステム」について記事をわかりやすくまとめていきます。
ピンカスとミナハンはソーシャルワークの目的を論ずる場合の鍵概念として「資源(resource)」と「人びとと社会環境との間の相互作用(interaction between people and the social envirnment)」(※アメリカ社会福祉論:ソーシャル・ワークとパーソナル・ソーシャル・サービスP12-13引用)を挙げております。
またソーシャルワーカーの目標に関する基礎的声明にも「相互作用」について明記されているとのことです。
ソーシャル・ワーカーは『相互作用をしている』人間―環境に焦点をあてる。この目標(purpose)を遂行するために、彼らは以下の目的(objects)を達成するよう人びととともに努力する。
― 人びとが自らの能力を拡大し、問題解決と対処能力を拡大し、問題解決と対処能力を増大するように援助する
― 人びとが資源を得るように援助する
― 組織が人びとに対して責任をもち得るようにさせる
― 組織と制度との相互作用に影響を及ぼす
― 社会福祉および環境政策に影響を与える
アメリカ社会福祉論:ソーシャル・ワークとパーソナル・ソーシャル・サービス(関西学院大学研究叢書 ; 第45編) 著者高田真治 著 出版社海声社 国立国会デジタルコレクションより P12-13引用
このようにソーシャルワーク実践においては、社会資源や環境といったシステムに人々は影響を受けているという視点が重要になり、また変革に向けて働きかけるには個人だけではなく、システムや環境にも働きかけることが必要になります。
ピンカスとミナハンの4つの基本的なシステム
ピンカスとミナハンはソーシャルワーク実践において、「人々と社会環境にあるシステムの相互作用」に焦点を置きました。
システムを以下の4つの基本的なシステムに分類しております。
☆4つの基本的なシステム
①チェンジ・エージェント・システム
②クライエント・システム
③ターゲット・システム
④アクション・システム
それぞれについて次に触れていきます。
チェンジ・エージェント・システム
チェンジ・エージェント・システム(Change Agent System)は、ソーシャルワーカーをチェンジ・エージェントとみなし、そしてソーシャルワーカーが所属する組織や機関をチェンジ・エージェント・システムとみなすものになります。
チェンジ・エージェントは一般的にも組織変革を促す担い手のことを指し、ここではソーシャルワーカー自身がチェンジ・エージェントとなり、所属する組織というシステムを変えていくべく働きかけていきます。
チェンジ・エージェントとは?
・変革の担い手のこと
・エージェントは「仲介者」
・組織を巻き込み、組織変革を促す人材
チェンジ・エージェント
ソーシャルワーカーのことを指す
チェンジ・エージェント・システム
ソーシャルワーカーが所属する組織や機関のことを指す
チェンジ・エージェント・システムにおいては、ソーシャルワーカーが変革を起こしていく際には、実際に給料をもらっている組織や機関というシステムから影響を受けることになることを強調しております。
以上が4つの基本的なシステムのうちの一つ、チェンジ・エージェント・システムになります。
クライエント・システム
クライエント・システム(Client System)は、ソーシャルワーカーと契約しサービスを受ける人、また、家族や組織、地域社会のことを指します。
クライエント・システム
クライエント、家族、組織、地域社会といった、ソーシャルワーカーによる努力の利益を受けると予想される者を指す
クライエント・システムの要求を満たすためには、他のシステムに影響を与えて変革していくことも求められる
クライエント・システムは、ソーシャルワーカーがより大きなシステムのメンバーを加えることによって拡大することや、逆に契約を限定することで縮小することもできます。
また「自発的でないクライエント」(インボランタリー・クライエント)は、しばしば所属機関や地域社会から、間接的に活動の認可を受けることがあるが、重要なこととして、実際にクライエントになる可能性のある人に影響を及ぼして、クライエントになるようにもっていき、認可を直接クライエントから得られるよう転換していくことについても言及されております。
以上が4つの基本的なシステムのうちの一つ、クライエント・システムになります。
ターゲット・システム
ターゲット・システム(The Target System)は、チェンジ・エージェントが変革努力の目標達成のために、影響を及ぼしていく人々のことを指します。
このターゲット・システムは、ある時はクライエント・システムがターゲット・システムになることもあれば、別の目標に取り組む場合は、クライエント・システムと切り離される場合もあります。
またチェンジ・エージェント・システムそのものがターゲット・システムになることもあります。
ターゲット・システム
変革努力を達成するためには、一つではなく、いくつかの目標が掲げられる
すなわち、様々な人々が、それぞれの目標に応じて、ターゲットとみなされる
※クライエント・システムが必ずしもターゲットになるとは限らない
以上が4つの基本的なシステムのうちの一つ、ターゲット・システムになります。
アクション・システム
アクション・システム(Action System)は、変革努力の目標を達成するために、関わる人々とソーシャルワーカーのことを指します。
認可を得ることや、契約や約束を交わすこと、変革の目標を立てること、主要なターゲットに働きかけるなど、変革努力を達成するために、いくつかのアクション・システムと協働していくことになります。
アクション・システム
(1)システムを構成しているメンバーたちが相互に直接作用し合うようになればという期待のもとに、ワーカーによって組み立てられた新しいシステム。
(2)すでに展開している現にあるシステム
(3)ある時点では相互に直接的に作用し合わないが、クライエントのためにターゲットを変革しようとして、ワーカーが調整したり、働きかけたりするいく人かの人々。
アメリカ社会福祉論:ソーシャル・ワークとパーソナル・ソーシャル・サービス(関西学院大学研究叢書 ; 第45編) 著者高田真治 著 出版社海声社 国立国会デジタルコレクションより P104引用
以上が4つの基本的なシステムのうちの一つ、アクション・システムになります。
社会福祉士国家試験
ピンカスとミナハンのシステム理論は国家試験でも取り上げられているので以下紹介になります。
第31回問題100
第31回・問題100 ピンカス(Pincus,A.)らによる「4つの基本的なシステム」の中の,ターゲット・システムとチェンジ・エージェント・システムに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 ターゲット・システムは,役割を遂行するソーシャルワーカーを指す。
2 ターゲット・システムは,ソーシャルワーカーが所属している機関を指す。
3 ターゲット・システムは,変革努力の目標達成のためにソーシャルワーカーが影響を及ぼす必要のある人々を指す。
4 チェンジ・エージェント・システムは,契約の下,ソーシャルワーカーの努力によって利益を受ける人々を指す。
5 チェンジ・エージェント・システムは,目標達成のために,ソーシャルワーカーと協力していく人々を指す。
チェンジ・エージェント・システムは、選択肢2の「ソーシャルワーカーが所属する機関」になり、2、4、5は外れます。
ちなみに選択肢4はクライエント・システムで、選択肢5はアクション・システムになります。
選択肢1の「役割を遂行する」は、変革目標の達成のために働きかける人に含まれるのでアクション・システムになります。
よって正解は選択肢3「ターゲット・システムは、変革努力の目標を達成するために、ソーシャルワーカーが影響を及ぼす必要のある人々」になります。
第35回問題97
事例を読んで、ピンカス(Pincus, A.)とミナハン(Minahan, A.)の「4つの基本的なシステム」(チェンジ・エージェント・システム、クライエント・システム、ターゲット・システム、アクション・システム)のうち、チェンジ・エージェント・システムが抱える課題として、最も適切なものを1つ選びなさい。
【事例】
脊髄小脳変性症で入院したHさん(45歳、男性)が退院準備のために医療ソーシャルワーカーに相談に来た。現在、下肢の筋力低下が進んでおり、長い時間の歩行は困難で車いすを利用している。Hさんは一戸建ての自宅で妻(42歳、会社員)と二人暮らしであり、今後は、介護保険サービスを利用して自宅に退院することを検討している。また、Hさんは入院後休職中であるが、自宅で療養した後に復職を希望している。
1 Hさんの退院後の自宅における介護サービス
2 Hさんが復職した場合の職場での勤務時間
3 Hさん夫妻に対して、退院後に必要となる妻への支援
4 Hさんの希望に基づき、近隣の利用可能な社会資源
5 Hさんの今後の療養に関わる院内スタッフの情報共有
チェンジ・エージェント・システムは、この場合は「病院」になります。
また家族や地域社会、職場や介護サービス事業所は「クライエント・システム」になります。
よって、選択肢5の「Hさんの今後の療養に関わる院内スタッフの情報共有」がチェンジ・エージェント・システムの課題(所属する病院の課題)となり正解になります。
まとめ
以上がピンカスとミナハンによる4つの基本的なシステムについて概要になります。
その他ピンカスとミナハンはソーシャルワーカーは、人々と社会資源のシステム間(システム内)の相互作用を促進することや、修正すること、連結を促進することなど、実践の本質として掲げられております。
このようにフローレンス・ホリスが「状況の中の人」と表現したように、私たちは個人と個人を取り巻く環境や資源、システムに目を向けることが、他の専門職とは異なる独自性の一つでもあります。
本サイトでは、社会福祉に関する知識や歴史を発信しておりますので、良かったら他の記事もご覧ください。
引き続きどうぞよろしくお願いします。
☆参考文献:アメリカ社会福祉論:ソーシャル・ワークとパーソナル・ソーシャル・サービス(関西学院大学研究叢書 ; 第45編) 著者高田真治 著 出版社海声社 国立国会デジタルコレクション