はじめに
本記事は、転移と逆転移について、社会福祉に関わる方を対象に、実践に向けた内容を添えて簡潔にまとめております。
これまで「無意識」をサブテーマに、「防衛機制」や「イド・自我・超自我」について記事を書いております。
防衛機制の種類とその特徴~国家試験から福祉実践まで - SOCIAL CONNECTION (socialconnection-wellbeing.com)
イド・自我・超自我まとめ~精神分析理論の入口 - SOCIAL CONNECTION (socialconnection-wellbeing.com)
まだご覧になっていない方は、是非ご覧になってみてください。
実践を行うにあたって、支援者自身が「無意識」について理解を深めることはとても有効だと感じております。
それはクライエントや利用者へ接する上でも、組織として共に実践を展開する仲間に対しても、客観的な視点を持つことができる点で効果的です。
”社会福祉は一重にものの見方にあり”
本サイトや本記事が、皆さんにとって少しでも視点を広げることができれば幸いです。
キーワードについて
まず最初にキーワードとして以下簡単にまとめていきます。
転移
・「クライエント」が治療者や援助者に対して、無意識に抱く感情や反応、態度のこと。
・陰性的な感情(ネガティブ)もあれば、陽性的な感情(愛情や尊敬、信頼)もある。
逆転移
・「治療者や援助者」がクライエントに対して、無意識に抱く感情や反応、態度のこと。
・クライエントの転移に誘発され出現する。
転移と逆転移
・幼少期における養育者や権威者との関わりが影響している。
このように転移と逆転移は、幼少期における養育者(父・母・祖父母など)や権威者(教師・指導者など)といったその人の養育歴や生活歴の中にある重要な人が、治療者や援助者(もしくはクライエント)に移し替えられているものになります。
転移について
転移と逆転移
他者とかかわるとき、我々は、実際には誰か他の人物、特に両親、他の権威者、重要な他者との人間関係を基盤にして他者に対する考えや感情をもつ。
そうすると、我々は現在の人間関係において人と不適切にかかわり、相互作用してしまうことになる。
これが転移という現象である。
感情がクライエントの過去や現在の重要な人間関係から、セラピストあるいはソーシャルワーカーに移し替えられているのである。
ソーシャルワーク理論入門 デビット・ハウ著 杉本敏夫監訳 5精神分析理論 P53引用
クライエントや利用者は、治療者や援助者に対して、「転移する」ことがあります。
それは、上記のように重要な人間関係を基盤とされ、怒りや恐怖など抑圧された感情が、治療者や援助者に向けられることを指します。
また、この感情はネガティブなものだけでなく、尊敬や信頼としてあらわれる場合もあります。
転移は悪いものとして決して捉えるのではなく、その人をより知ることができる機会として捉えなおすことが重要です。
洞察を通じて、過去の人間関係や関わりが、クライエントの現在に影響を与えていることを理解することを援助します。
逆転移について
転移はクライエントや利用者側が主体であるのに対して、逆転移は治療者や援助者が主体となります。
特に社会福祉に関わる人の中には、何かしらの福祉的な経験や出来事がきっかけで携わっている方もたくさんおります。
そういった養育歴や生活歴の中に抑圧された感情を、クライエントや利用者に対して感じることが逆転移であり、またクライエントや利用者の転移に誘発される形であらわれることもあります。
このように、クライエントや利用者に対する自身の感情に気づくことは、実践を重ねる上で成長にもつながります。
また日頃から、転移や逆転移の存在を意識するということは、自身が逆転移に陥らないためにも大切です。
以上簡単ではありますが、転移と逆転移についてのご紹介でした。
国家試験設問
ここまでの知識のアウトプットとして、作業療法士の国家試験問題に転移と逆転移に関する設問を取り上げて確認します。
第41回ー56
転移・逆転移で適切なのはどれか
1転移は逆転移を誘発する
2陰性転移の解釈は避ける
3心理治療の目的は陽性転移の出現である
4逆転移は治療者の意識的反応である
5逆転移を認識したときは治療を中止する
第39回ー62
逆転移について適切でないのはどれか
1治療者の無意識的反応として起こる
2治療者の現実状況に影響される
3治療者の生活史が反映される
4治療者の交代が必要である
5治療者の洞察が必要である
是非良かったら、それぞれ解答してみてください。
国家試験設問解答
以下、先ほどの設問の解答になります。
第41回ー56
転移・逆転移で適切なのはどれか
1転移は逆転移を誘発する ○
→ こちらは適切になります。
2陰性転移の解釈は避ける ×
→ クライエントに対する感情や考えを気づくことは援助者にとってもためになること
3心理治療の目的は陽性転移の出現である ×
→ 心理治療の目的はクライエントの問題解決等になり、治療者に対してポジティブな感情や表現をする陽性転移は治療の目的にはならない。また問題文を逆にいうと陰性転移が出たら治療目的を達成できないとも解釈でき、不適切である。
4逆転移は治療者の意識的反応である ×
→ 逆転移は治療者の「無意識的」反応になります。そのため、転移を都度意識しながら関わることや、転移している自身の感情に気づくことは重要になります。
5逆転移を認識したときは治療を中止する ×
→ 転移も逆転移も表出すること自体は悪ではなく、見方を変えればその人や自分自身を知る手がかりにもなります。
第39回ー62
逆転移について適切でないのはどれか
1治療者の無意識的反応として起こる 〇
2治療者の現実状況に影響される 〇
3治療者の生活史が反映される 〇
4治療者の交代が必要である ×
5治療者の洞察が必要である 〇
このように、逆転移について
・無意識的反応
・生活史等の過去の出来事が反映される
・現実状況に影響される
・治療者の洞察が必要 (クライエントの何が自身をそうさせるのか)
ということがこの設問から学ぶことができます。
転移や逆転移は無意識であることから、治療者や援助者はその存在を意識することが大切になります。
また、転移や逆転移は単に良くないものと捉えるのではなく、洞察や分析を通じて、気づきや理解を深めるものとして重要になります。
まとめ
転移
・「クライエント」が治療者や援助者に対して、無意識に抱く感情や反応、態度のこと。
・陰性的な感情(ネガティブ)もあれば、陽性的な感情(愛情や尊敬、信頼)もある。
逆転移
・「治療者や援助者」がクライエントに対して、無意識に抱く感情や反応、態度のこと。
・クライエントの転移に誘発され出現する。
転移と逆転移
・幼少期における養育者や権威者との関わりが影響している。
以上が転移と逆転移についての紹介記事になります。
「防衛機制」「イド・自我・超自我」「転移と逆転移」のように無意識に働くメカニズムや反応があり、それらを認識することが援助場面において役に立つことも多々あります。
特に対人援助職は、感情労働とも言われており、心理的精神的なエネルギーを費やします。
変に深入りしすぎず、影響されすぎず、客観的な視点で捉えることも大切で、そのために心理学の知識は欠かせません。
また、心理学や社会学といった知識は実践に結びつくので、学ぶことで得られることも多いです。
本記事が少しでも、何かしら得るものがあったのならば幸いです。
引き続きどうぞよろしくお願いします。