
質的調査と量的調査は、データ収集や分析の方法が異なり、それぞれの特長や目的が明確に分かれています。
質的調査は少人数から深く詳しい情報を得て、背景や動機を探ることに優れており、量的調査は多くのデータを数値で扱い、統計的に全体の傾向を明らかにする調査方法です。社会福祉調査では、これらを適切に使い分けることでより説得力のある結果を導き出すことが可能です。
本記事では、質的調査と量的調査の違いや特徴についてわかりやすく簡潔に解説します。
質的調査と量的調査の違いとは?
量的調査は、数値データ(量)で全体的な傾向や分布を推測する調査を指し、質的調査は、言葉や文脈で物事の深さや意味を理解する調査を指します。また演繹法と帰納法の観点でみると、量的調査は演繹的であり、質的調査は帰納的と言えます。
| ★量的調査 |
| ・数値データ(量)を集める |
| ・統計分析を用いて分析をする(平均値、割合、クロス集計、相関分析など) |
| ・対象は大人数を対象する場合が多い |
| ・メリットは、客観性が高く結果が一般化しやすい |
| ・デメリットは、数値化できない背景等を探るのは苦手 |
| ・主な調査方法は、アンケート調査(数値化できるもの)、構造化面接(同じ質問で数値化しやすい) |
| ・演繹的手法(理論が先で、データを集めて分析) |
| ★質的調査 |
| ・言語データを活用する(インタビュー、観察記録、日記、手紙など) |
| ・質的データ分析で、共通のテーマやパターンを見つけていく |
| ・対象は少人数を対象に時間をかけて掘り下げていく |
| ・メリットは、深い意味や背景、プロセスの明確化、思わぬ新しい発見が得られやすい |
| ・デメリットは、少人数対象のため一般化することが難しい、データの収集分析に時間を要する |
| ・主な調査方法は、インタビュー調査(半構造化、非構造化)、参与観察、フォーカス・グループ・インタビュー |
| ・帰納的手法(観察事実が出発点で、理論を導く) |
質的調査のメリットとデメリット
質的調査のメリットは、調査対象者の経験や考え、背景にある意味や動機、プロセスなどを深く理解できる点が最大の強みです。数値だけでは把握できない複雑な現象や、新たな発見につながる事象の解明も期待できます。個々人の声や実態を重視し、仮説の生成や理論構築にも役立ちます。
一方でデメリットとして、分析やデータ収集には多大な時間と労力がかかり、結果の一般化が難しい傾向があります。調査者の主観が反映されやすく、再現性や客観性に限界があります。また、少数例から全体を推測するのが困難で、研究者による解釈の幅も広くなりがちです。
量的調査のメリットとデメリット
量的調査のメリットは、多くの対象者からの数値データを効率よく集め、平均値や比率、傾向などを統計的に把握できます。客観性が高く、結果を他者に説明しやすい点も利点です。また、結果の一般化がしやすく、社会全体の傾向把握や比較にも優れています。
一方でデメリットとして、数値に換算可能な情報しか収集できず、なぜそのような結果が生じたかといった背景やプロセスの深掘りは困難です。設問設計のミスや回答者の誤解が結果に影響しやすく、「なぜ」を問う深い理解には限界があります。
質的調査で出てくる用語集
社会福祉調査で出てくる質問調査のキーワードを簡潔にまとめていきます。
参与観察
調査者が調査対象の集団やコミュニティの一員として参加し、内側からの視点で行動や文化を観察・記録する手法。対象との信頼関係(ラポール)の構築が重要。
非参与観察
調査者が調査対象の集団に関わらず、外側からの客観的な視点で観察・記録する手法。調査者の存在が対象に与える影響を最小限に抑えられる。
構造化面接法
あらかじめ決められた質問項目・順序通りにインタビューを行う手法。回答を比較しやすく、量的調査に近い形でデータを処理できる。
半構造化面接法
事前にインタビューガイド(質問リスト)を用意しつつ、話の流れに応じて柔軟に質問を追加・変更する手法。質的調査で最も一般的に用いられる。
自由面接法
大まかなテーマのみを決め、具体的な質問は用意せず、自由な対話形式で進める手法。対象者が語りたいことを引き出しやすく、予期せぬ発見につながることがある。
フォーカス・グループ・インタビュー
あるテーマについて、複数の対象者(6〜8人程度)を集めて座談会形式で意見を聞く手法。参加者同士の相互作用によって多様な意見が引き出される。
インタビューガイド
半構造化面接などで用いる、質問項目の大まかなリストや面接の進行手順をまとめたもの。質問の漏れを防ぎ、面接を円滑に進めるための「道しるべ」。
逐語録
インタビューでの会話を、「えーと」「あのー」といった言葉や沈黙も含め、一言一句そのまま文字に起こした記録。質的分析の元となる重要なデータ。
ライフストーリー
対象者が自らの人生経験について”主観的に語った「物語」”そのもの。個人の生き方や経験の意味づけを、語り手の視点から理解しようとする。
ライフヒストリー
ライフストーリー(個人の語り)に、公的記録や関係者への聞き取りといった客観的な情報を加えて、個人の人生を多角的に再構成したもの。
エスノグラフィー
特定の集団の文化や生活様式を、参与観察などのフィールドワークを通じて深く理解し、記述する調査手法、またはその記述そのもの。文化人類学的な手法。
アクション・リサーチ
調査者が現場の実践者と協働し、問題解決を目指しながら調査・研究を進める手法。「計画→実践→観察→省察」というサイクルを繰り返すのが特徴。
テキストマイニング
自由記述アンケートやインタビュー記録など、大量のテキスト(文章)データをコンピュータで分析し、有益な情報(単語の出現頻度や相関など)を抽出する技術。
グラウンデット・セオリー・アプリーチ(GTA)
既存の理論から仮説を立てるのではなく、収集したデータに密着(grounded)し、データそのものからボトムアップで理論を生成していく分析手法。
以上のキーワードが出てきたら質的調査に関連するものと押さえておきましょう。
量的調査で出てくる用語集
今度は量的調査で出てくるキーワードを簡潔にまとめていきます。
全数調査
調査対象となる集団(母集団)の全員を調査する手法。正確だがコストがかかる。例:国勢調査。
標本調査
母集団から一部を標本(サンプル)として抽出し、その結果から母集団全体の傾向を推測する手法。社会調査の多くがこれにあたる。
Web調査
インターネットを利用してアンケートなどを行う調査。低コストで大規模な調査が可能だが、回答者に偏り(ネット非利用者を含まない等)が生じやすい。
横断調査
ある一時点でデータを収集し、年齢層や地域ごとの違いなどを比較分析する手法。「社会のスナップ写真」に例えられる。
縦断調査
同一の対象や集団を、時間を追って繰り返し調査する手法。時間経過による変化や因果関係の分析に適している。「社会のビデオ映像」に例えられる。
比較調査
複数の異なる集団、地域、時点などを比較する調査の総称。違いを明確にすることで、要因や特徴を浮き彫りにする。
繰り返し調査(トレンド調査)
同じ母集団から、調査のたびに異なる標本を抽出して繰り返し行う調査。社会全体の意識の「傾向(トレンド)」の変化をみるのに適している。例:内閣支持率調査。
パネル調査
同じ対象者(パネル)に対して、時間を追って繰り返し調査を行う手法。「個人」の変化を直接追跡できるため、因果関係の分析に強力。
コホート調査
特定の時期に同じ出来事(出生、卒業など)を経験した集団(コホート)を追跡する調査。例:「団塊の世代」の追跡調査。
二次分析
他の研究者や公的機関が収集した既存の統計データや調査データを再分析すること。時間や費用を節約できる。
ワーディング
質問紙調査における、質問文の言葉遣いや表現のこと。ワーディング次第で回答が変わりうるため、中立的で分かりやすい表現が求められる。
パーソナルな質問
回答者自身の意見や事実について尋ねる質問。「あなたはどう思いますか?」など。
インパーソナルな質問
世間一般の意見について尋ねる質問。「世間ではどう思われていると考えますか?」など。プライベートな内容を間接的に聞く際に用いられることがある。
測定の信頼性
測定が「安定」しているか、いつ誰が測っても同じような結果が得られるかの度合い。「一貫性」や「安定性」がキーワード。
測定の妥当性
測定が、測りたいものを「的確に」測れているかの度合い。「正確さ」がキーワード。※信頼性はあっても妥当性がない場合がある(例:3kgずれた体重計)。
プリコーディング
質問紙の作成段階で、あらかじめ回答の選択肢にコード(番号)を割り振っておくこと。選択式質問で用いられる。
アフターコーディング
自由記述回答など、調査を行った「後」で、回答内容を分類しコードを割り振ること。
自記式
回答者自身が質問紙に記入する方式。郵送調査やWeb調査がこれにあたる。
他計式
調査員が質問を読み上げ、回答を聞き取って記入する方式。面接調査がこれにあたる。
質問紙の配布と回収
郵送法、集合調査法、個別訪問面接法など、質問紙の配り方と集め方のこと。回収率が調査結果の信頼性を左右する。
エディディング
回収した調査票を点検し、記入漏れや矛盾、論理的におかしい回答などを確認・修正する作業。データの品質を高めるために不可欠。
クロス集計
2つ以上の質問項目を掛け合わせて集計し、その関係性を分析する手法。属性(性別・年代など)と意識の関係を見るための基本的な分析手法。
散布図
2つの量的変数(身長と体重など)の関係を、点のプロットで視覚的に表したグラフ。相関関係の有無や強さを直感的に把握できる。
相関と回帰
相関は2つの変数の「関連」の度合い、回帰は一方の変数からもう一方の変数を「予測」する分析。相関関係は因果関係を意味しない点が重要。
多変量解析
3つ以上の多くの変数を同時に扱い、それらの複雑な関係性を分析する統計手法の総称。重回帰分析や因子分析などがある。
以上が質的調査と量的調査のそれぞれ出てくるキーワードの一部になります。
社会福祉士国家試験過去問
社会福祉士国家試験の過去問を紹介していきます。
第37回・問題79
問題79 ブース(Booth,C.)のロンドン調査に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
| 1 ロンドン市民の人口統計の作成が目的だった。 |
| 2 調査対象となった市民の自宅へ調査票を配布する郵送調査だった。 |
| 3 当時のロンドン市民の一部を調査対象とする標本調査だった。 |
| 4 貧困の主たる原因が、個人的習慣であることを明らかにした。 |
| 5 ロンドンの街を経済階層で色分けした貧困地図を作成した。 |
以下解答になります。
| 1 ロンドン市民の人口統計の作成が目的だった。 → 貧困の実態を調査 |
| 2 調査対象となった市民の自宅へ調査票を配布する郵送調査だった。 → 訪問調査 |
| 3 当時のロンドン市民の一部を調査対象とする標本調査だった。 → 全数調査 |
| 4 貧困の主たる原因が、個人的習慣であることを明らかにした。 → 雇用や環境の問題 |
| 5 ロンドンの街を経済階層で色分けした貧困地図を作成した。 → 正解 |
ブースとラウントリーの貧困調査はソーシャルワークの源流でもありますので、良かったらご覧ください。
ブースとラウントリーの貧困調査について~社会福祉の発展過程を学ぶ - SOCIAL CONNECTION
第37回・問題82
問題82 事例を読んで、A市地域包括支援センターが実施する調査票の配布・回収の方法として、最も適切なものを1つ選びなさい。
【事 例】
A市地域包括支援センターでは、担当圏域における要支援状態の高齢者50名を対象に、高齢者が感じている困りごとの把握を目的とした標本調査を実施することとした。センター長からの「ご家族の困りごとではなく、高齢者ご自身が感じている困りごとの把握が目的である点に注意すること」という指示を踏まえて、調査票の配布・回収方法を検討することとなった。
| 1 郵送調査 |
| 2 留置調査 |
| 3 個別面接調査 |
| 4 集合調査 |
| 5 インターネット調査 |
以下解答になります。
| 1 郵送調査 (自記式)誰が記入したか不明(家族代理) |
| 2 留置調査 (自記式)調査票を家族が記入する可能性もある |
| 3 個別面接調査 (他記式)回収率や確実に本人からの回答を得られる 正解 |
| 4 集合調査 (自記式) 50名を集めることは難しい |
| 5 インターネット調査 (自記式)高齢者のためインターネットを使えなく家族が代理で入力する可能性もある |
第37回・問題84
問題84 面接調査において調査者が行ったことに関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。
| 1 構造化面接において、調査の質問項目に設定していない内容についても自由に回答するよう対象者を求めた。 |
| 2 半構造化面接において、インタビューガイドに設定した質問の順番に従って回答するよう対象者を求めた。 |
| 3 非構造化面接において、調査開始前に対象者がテーマを設定するよう依頼した。 |
| 4 フォーカスグループインタビューにおいて、司会者として最初に基本的なルールを説明した。 |
| 5 面接後の逐語録作成において、録音データを聞き取れない部分は会話の流れから想像して記述した。 |
以下解答になります。
| 1 構造化面接において、調査の質問項目に設定していない内容についても自由に回答するよう対象者を求めた。 |
| 2 半構造化面接において、インタビューガイドに設定した質問の順番に従って回答するよう対象者を求めた。 |
| 3 非構造化面接において、調査開始前に対象者がテーマを設定するよう依頼した。 |
| 4 フォーカスグループインタビューにおいて、司会者として最初に基本的なルールを説明した。 |
| 5 面接後の逐語録作成において、録音データを聞き取れない部分は会話の流れから想像して記述した。 |
・構造化面接 → 質問の内容や順番は固定
・半構造化面接 → インタビューガイドに沿って質問、順番や内容は柔軟に対応
・非構造化面接 → 大まかなテーマのみ調査側が設定、対話重視
・逐語録 → 「えー」なども含め、一字一句をそのまま書き起こす
よって正解は4になります。
まとめ
以上が質的調査と量的調査の概要の紹介になります。
ソーシャルワークの源流では、ブースの貧困調査が代表例として挙げられるように、政策の矛盾やそこで生活する実態を調査して社会変革を目指した歴史的背景があります。
また社会福祉調査について、もっと詳しく知りたい方は、下記にて表でまとめながら記事にしております。
質的調査や量的調査もより詳しく掲載しておりますので、ぜひご覧ください。
【社会福祉調査の基礎】社会福祉士国家試験のポイント全まとめ - SOCIAL CONNECTION







