はじめに
「人間は社会的動物である」という言葉があるように、人々が社会的存在として生活を営む上で必然となる最低条件が存在します。社会福祉の人物で有名な「岡村重夫」は、著書「社会福祉原論(全社協)」の中で、それらを「社会生活の基本的欲求」として述べております。
本記事では、社会福祉におけるニード論の一つでもある「社会生活の基本的欲求」について以下触れていきます。
社会生活の基本的欲求とは?
心理学の世界では「生理的欲求」や「心理的欲求」という概念から、「人間の基本的欲求(basic human needs)」についての所論が広く展開されております。
「個人」のみならず、個人を取り巻く「環境」にも焦点を当てることを特徴とする社会福祉においては、この「人間の基本的欲求」の概念に「社会制度との関連から起こる条件」を加えることによって社会生活の説明原理を試みようとし、「社会生活の基本的欲求」として概念化されております。
社会生活の基本的欲求は大きく7つに分類されます。
1.経済的安定
2.職業的安定
3.家族的安定
4.保健・医療の保障
5.教育の保障
6.社会参加ないし社会的協同の機会
7.文化・娯楽の機会
以下それぞれの項目についてみていきましょう。
経済的安定
人間の基本的欲求を満たすものとして「衣食住」があります。
しかし、貨幣経済においてはこの衣食住は「商品」であることから、それらを購入するための経済的収入が、一時的ではなく、永続的に必要となります。
よって、社会生活の基本欲求として「経済的安定」が存在します。
職業的安定
経済的安定を確保するためには、労働を中心とした職業の機会を持つこと、もしくは経済的に保障される社会制度に参加することが必要になります。
これが「職業的安定」という社会生活の基本的欲求になります。
家族的安定
動物社会ではなく、人間社会において、子は家族という社会制度の中で出生・保護・育成されることが必要になります。
民族や家族形態について文化人類学の観点からも様々でありますが、上記に関しては共通事項となります。
よって、社会生活の基本的欲求として、「家族関係の安定」をあげる必要があります。
保健・医療の保障
人間の基本的欲求でもある「身体的健康」を維持するためにも、保健や医療を受ける機会が必要になります。
よって、必要に応じて保健・医療がすべての人々に保障されることが、社会生活の基本的欲求となります。
教育の保障
現代社会においては、出生した子を保護・育成するにあたって、家族のみならず、社会制度や教育機関が大きく関わってきます。
よって、文化伝達や教育活動は、家族関係とは別に行われる形で発展されております。
また、社会的協同の組織として役割を果たす上でも、教育の機会を持つ必要があります。
それゆえ、社会生活の基本的欲求に「教育の機会」があげられます。
社会参加ないし社会的協同の機会
社会的協同を維持する社会組織がなければ、経済的安定(収入の確保)や職業の機会を維持することはできません。
よって、この社会的協同は社会にとって基本的な制度となります。
このように、社会生活の基本欲求として「社会参加ないし社会的協同の機会」があげられます。
文化・娯楽の機会
社会の健全な存続のためには、人々が人格的に成長することが求められます。
これらは政治的外面的なものではなく、自己の内面的成長を目的とする文化的参加や政策であることが必要となることから、「文化・娯楽の機会」が社会生活の基本欲求としてあげられます。
まとめ
このように、社会生活を営む個人としての最低限度必要な基本的事項として、7つの基本的欲求を岡村重夫は道標として示しました。
またこれらの基本的欲求を満たすためには、社会制度は切り離すことができないものであり、個人と社会制度を結ぶ関係を「社会関係」と呼びました。
その他、社会生活の基本的欲求に対応する代表例として以下述べられております。(社会福祉原論 P85引用)
a.経済的安定 ⇔ 産業・経済、社会保障制度
b.職業的安定 ⇔ 職業安定制度、失業保険
c.医療の機会 ⇔ 医療・保健・衛生制度
d.家族的安定 ⇔ 家庭、住宅制度
e.教育の機会 ⇔ 学校教育、社会教育
f.社会的協同 ⇔ 司法、道徳、地域社会
g.文化・娯楽の機会 ⇔ 文化・娯楽制度
上記は一例でありますが、個人と社会制度を結ぶ「社会関係」というプロセスが重要であることを、半世紀以上前に岡村重夫は述べられております。
社会が複雑し機能が分化された社会において、これらの視点はキーワードになるのかもしれません。
7つの基本的欲求
1.経済的安定
2.職業的安定
3.家族的安定
4.保健・医療の保障
5.教育の保障
6.社会参加ないし社会的協同の機会
7.文化・娯楽の機会
社会関係
社会成員が、社会生活の基本的欲求を充足するために、社会制度との間に取りむすぶ関係を「社会関係」と呼ぶ。
社会福祉原論P84引用
社会福祉の関心
~略
しかし社会福祉の関心は、心理的な治療でも、相談でもない。むしろ生活の社会的側面の困難を援助することである。
われわれの生活には、身体的条件、心理的条件そして社会的条件があるとするならば、社会福祉の本来の関心はそのうちの社会的条件である。
社会福祉原論P74引用
このように、社会福祉は生活の社会的側面の困難に焦点を当て援助を行います。
本記事を通じて、社会福祉の固有の視点に関心を持つきっかけにつながれば幸いです。
引き続きどうぞよろしくお願いします。