
本記事は、社会福祉士国家試験の科目でもある「社会福祉調査の基礎」に関して、出題項目に沿って要点をわかりやすくまとめております。社会福祉国家試験合格を目指す方や、社会福祉士として基礎を再度学び直したいという方にオススメです。
社会福祉調査は、単なるデータ集めではなく、人々の暮らしをより良くするための実践のツールでもあります。それぞれの目的を理解した上で、適切な方法やプロセスを選択し、倫理的な配慮をもとに調査を行うことが大切です。
社会福祉調査とは
社会福祉調査の定義
社会福祉調査(ソーシャルワーク・リサーチ)は、福祉ニーズの把握や実践の効果測定、政策提言の根拠など、社会福祉に関わる実践や政策、研究を目的に行われる調査になります。
調査にあたっては、調査対象者の人権尊重やプライバシーの保護、不利益への十分な配慮のもと、科学的・客観的な手法によって進められます。方法論としては量的調査や質的調査、客観性の担保を基にしたデータ収集や分析など、様々な方法があります。
社会福祉調査は、ウェルビーイングの向上や社会不正義へのアプローチといった社会福祉固有の価値観が根底にあり、対象者の人権を考慮しながら科学的な手法を用いて、福祉ニーズや社会問題の実態を明らかにする調査活動といえます。
ソーシャルワークと社会福祉調査
ソーシャルワークの歴史では、18世紀後半以降の産業革命による社会問題の発生に対するアプローチとして社会福祉調査が展開されました。
イギリスではブースによる貧困調査が首都ロンドンで大規模に実施され、「ロンドン市民の生活と労働」の中で労働者人口の約30%が貧困という調査結果を出し社会的に影響を与えました。その後地方都市であるヨーク市でもラウントリーによる貧困調査が実施されます。
以下ブースとラウントリーの記事をまとめておりますので、ぜひご覧ください。(検索エンジンSEO1位)
ブースとラウントリーの貧困調査について~社会福祉の発展過程を学ぶ - SOCIAL CONNECTION
★ブースの貧困調査 |
・イギリスのロンドンで貧困調査を実施。※約420万人 |
・「ロンドンにおける民衆と生活と労働」(全17巻の報告書)を出版。 |
・「貧困線」という概念を導入、ロンドン市民の約3割が貧困線以下の生活を送っていることを明らかにした。 |
・貧困の原因は「労働」や「環境」といった社会経済的原因が圧倒的に多いことを明らかにした。 ※個人的原因(飲酒や怠惰)が主たる原因ではないことを明らかにしたとも言える。 |
・「貧困地図」という世帯をカテゴリー分けして、色で分類したマップを導入した。 |
★ラウントリーの貧困調査 |
・イギリスの地方都市ヨーク市で、ブースを参考に同じく貧困調査を実施。※約4万6千人 |
・栄養基準(最低生活費)に基づいた「貧困線」を設定。マーケットバスケット方式。 |
・「第一次貧困」と「第二次貧困」に分類。 ア)第一次貧困 = 総収入が生活維持もできない状態。 ※主要な原因は「雇用問題」である。 イ)第二次貧困 = 総収入が生活を維持するギリギリの水準、他の消費はできない。 ※主要な原因は、「飲酒関係がもっとも有力」であると強調。 |
・「一生の内、少なくとも3回は貧困線以下に生活水準が下がる」といった、ライフサイクルと生活水準の間における周期関係を明らかにした。 |
社会福祉調査の主な統計法
社会福祉調査に用いられる統計法は様々であり、代表的な概念としては大きくデータ分析(集めたデータを要約し特徴を掴む)や、推測統計(部分から全体を推測する|標本調査)があります。
調査に関する内容は、下記見出し内容に沿って後述していきます。
社会福祉調査の倫理
倫理的配慮
社会福祉調査の対象者は、困難や支援を抱えている社会的弱い立場(vulnerable)にあることが多く、また調査ではプライベートな個人情報(家庭環境、収入、病歴、世帯構成など)を扱うため、対象者の人権と尊厳を尊重し、調査によって不利益や精神的苦痛を与えないよう細心の注意を払う必要があります。
また参考として、一般社団法人社会調査協会では以下のように倫理規定が定められております。https://jasr.or.jp/chairman/ethics/
特に太字にした箇所は、国家試験でもよく問われる部分になるので、ぜひ押さえてほしい内容です。
第1条 | 社会調査は、常に科学的な手続きにのっとり、客観的に実施されなければならない。会員は、絶えず調査技術や作業の水準の向上に努めなければならない。 |
第2条 | 社会調査は、実施する国々の国内法規及び国際的諸法規を遵守して実施されなければならない。会員は、故意、不注意にかかわらず社会調査に対する社会の信頼を損なうようないかなる行為もしてはならない。 |
第3条 | 調査対象者の協力は、法令が定める場合を除き、自由意志によるものでなければならない。会員は、調査対象者に協力を求める際、この点について誤解を招くようなことがあってはならない。 |
第4条 | 会員は、調査対象者から求められた場合、調査データの提供先と使用目的を知らせなければならない。会員は、当初の調査目的の趣旨に合致した2次分析や社会調査のアーカイブ・データとして利用される場合および教育研究機関で教育的な目的で利用される場合を除いて、調査データが当該社会調査以外の目的には使用されないことを保証しなければならない。 |
第5条 | 会員は、調査対象者のプライバシーの保護を最大限尊重し、調査対象者との信頼関係の構築・維持に努めなければならない。社会調査に協力したことによって調査対象者が苦痛や不利益を被ることがないよう、適切な予防策を講じなければならない。 |
第6条 | 会員は、調査対象者をその性別・年齢・出自・人種・エスニシティ・障害の有無などによって差別的に取り扱ってはならない。調査票や報告書などに差別的な表現が含まれないよう注意しなければならない。会員は、調査の過程において、調査対象者および調査員を不快にするような発言や行動がなされないよう十分配慮しなければならない。 |
第7条 | 調査対象者が年少者である場合には、会員は特にその人権について配慮しなければならない。調査対象者が満15歳以下である場合には、まず保護者もしくは学校長などの責任ある成人の承諾を得なければならない。 |
第8条 | 会員は、記録機材を用いる場合には、原則として調査対象者に調査の前または後に、調査の目的および記録機材を使用することを知らせなければならない。調査対象者から要請があった場合には、当該部分の記録を破棄または削除しなければならない。 |
第9条 | 会員は、調査記録を安全に管理しなければならない。とくに調査票原票・標本リスト・記録媒体は厳重に管理しなければならない。 |
第10条 | 本規程の改廃は、一般社団法人社会調査協会社員総会の議を経ることを要する。 |
個人情報保護の概要
個人情報は、特定の個人を識別することができるもの(氏名・住所・マイナンバー・生年月日など)を指し、日本では「個人情報保護法」が規定されております。
調査対象者の人権と尊厳を守るために、「①情報を収集する際には必要最低限の情報のみを収集する」、「②安全管理措置(パスワード管理や個人情報と調査データは別々に管理する)」、「③個人が特定できないよう統計情報としてから公表する(例:A市在住の100歳の男性だと個人が特定される恐れあり)」、「④調査終了後、復元不可能な方法で廃棄する」など調査に際して配慮や対策が必要です。
社会福祉調査のデザイン
演繹法と帰納法
調査における考え方や論理の展開方法として、演繹法と帰納法が代表的な概念として挙げられます。
演繹法は、簡潔にまとめると「①理論からはじまり、②仮説→調査→検証」と進む方法であり、帰納法は「①調査からはじまり、②データ→分析→理論」と展開する方法になります。
また豆知識として、演繹法はルネ・デカルト、帰納法はフランシス・ベーコンの2人の哲学者(数学者でもある)が提唱したアプローチになります。現代はそれぞれ独立したものではなく、相互に補完しながら用いられるのが一般的です。
演繹法 | 理論から具体へ (トップダウンの流れ) |
,既存の理論や法則が出発点 | |
提唱者はルネ・デカルト (我思うゆえに我あり=コギト・エルゴ・スム、真理を起点) | |
帰納法 | 具体から理論へ (ボトムアップの流れ) |
観察事実やデータが出発点 | |
提唱者はフランシス・ベーコン(知は力なり、経験と観察を起点) |
共変関係と因果関係
共変関係(相関関係)は、一方の事柄が変化すると、もう一方の事柄も変化する関係を表します。ただし、「関係がありそう」と示唆するだけで、原因と結果の関係があるかどうかまではわかりません。
因果関係は、共変関係よりも強い関係で、一方の事柄が原因となって、もう一方の事柄に結果として影響を与えることを指します。
社会福祉調査では、安易に因果関係(AだからBである)と断定せず、まずは共変関係(AとBには関連が見られる)で捉えるという姿勢が求められます。
共変関係 (相関関係) | 変数Xが変化すると、もう一方の変数Yも連動して変化する ※原因と結果があるかまでは不明、関連がありそうと捉える |
因果関係 | 変数Xが原因となって、もう一方のYが結果として影響を与えている ※「X(原因)がY(結果)を引き起こす」と一方的な方向性を持つ |
内的妥当性と外的妥当性
妥当性は、社会調査の信憑性を評価する上で重要な概念となります。
内的妥当性(internal Validity)は、調査や実験で観察された結果が、本当に設定した原因によって引き起こされたと確信をもって言えるかの度合いを指します。他の要因によって結果がもたらされたと言える可能性をどれだけ排除できるかの度合いとも言い換えられるでしょう。
一方で外的妥当性(External Validity)は、調査で得られた結果を他の集団や状況でも適用できるかどうか(一般化)の度合いを指します。そのため社会福祉調査では、無作為抽出で対象者を選ぶ方法も比較的用いられます。
内的妥当性 | 調査内部の倫理の正確性 (因果関係は正しいか?) |
外的妥当性 | 調査外部への適用の可能性 (その結果は一般化できるか?) |
社会福祉調査の目的
社会福祉調査の目的は、個人や地域社会が抱える生活課題や福祉ニーズの把握(潜在的ニーズの発見)、評価や研究、政策提言まで幅広く、科学的手法を活用して実態を明らかし、改善やアプローチに役立てることを目的とします。
「構築主義アプローチ」では、社会問題は誰かがそれを放置できない問題だと主張し(クレイム申し立て)、メディアや政治、世論を巻き込むプロセスのもと社会的に構築される考え方をとります。
つまり、問題だから社会問題となるのではなく、社会問題だと誰かが主張するから社会問題となる視点の転換がポイントです。
社会問題であると声を上げる過程では、根拠やデータを集めることも必要不可欠であり、そのために社会福祉調査の手法を学ぶ必要があるとも言えるでしょう。
社会福祉調査の対象|分析単位
分析単位は、調査で分析の焦点となる対象、すなわち基本的な単位のことを指します。
主な単位として、「個人」、「集団」、「組織」、「地域」が社会福祉調査では大枠の対象となります。
このように、分析単位は調査の「主語」(誰について、何について)に当たる部分であり、分析単位を何に設定するかによって調査のデザインや結論が変わってきます。
社会福祉調査の対象|母集団と標本
調査を行う対象の全体の集合を「母集団」と呼び、母集団の中から調査対象として一部選び出されたものを「標本」と呼びます。
また母集団の全員を調査する方法を「全数調査」と呼び、上記に挙げたブースの貧困調査は多大な費用と時間をかけて、ロンドン市民400万人を超える全員を調査したことで有名です。
調査を行う対象全体の集合 → 母集団(全体) |
母集団の中から調査対象として選び出されたもの → 標本(一部) |
社会福祉調査の対象|無作為抽出と有意抽出
標本を選ぶ方法として大きく「無作為抽出」と「有意抽出」の2つがあります。
それぞれについて一覧表で以下まとめていきます。
★無作為抽出 | 母集団の中から等しい確率で標本に選ばれるよう抽出(偏りが少ない) |
・単純無作為抽出法 | 母集団リストから完全にランダムで選ぶ方法(くじ引きのように) |
・系統的抽出法 (等間隔抽出法) | 母集団リストから1番目の人をランダムに選び、あとは一定の間隔(例10人ごと)で選択する方法 ※リストに周期性(規則性)があると調査が偏る危険性あり |
・層化抽出法 ※全ての層から抽出 | 母集団を予めいくつかの層(グループ)に分けて、各層の中から必要な数を無作為に抽出する方法 ※母集団の構成比を反映できる点で精度が高くなる |
・多段抽出法 (クラスター抽出法) ※一部の集落から抽出 | 母集団をいくつかの集落(クラスター)に分け、その集落をいくつか無作為に選び、その全員(または一部)を調査する方法 ※例:「市町村」→「A学校」→「○○クラス」、その中の全員または一部を調査 |
★有意抽出 | 調査者が何らかの意図をもって標本を選ぶ方法(手軽に実施可能) |
・割当法 | 母集団の構成比に合わせて、調査員がその条件に合う人を探して調査 ※世論調査などで利用される |
・スノーボール法 | 特定の条件を持つ人を見つけ、その人から知人や友人を紹介してもらう形で標本を増やす調査 ※母集団リストがない見つけにくい対象者の調査に有効 |
・便宜的抽出法 | 調査者にとって協力が得られやすい人々を対象とする調査 ※調査のしやすさがある一方、標本の偏りが大きくなりやすい |
量的調査と質的調査
量的調査は、数値データ(量)で全体的な傾向や分布を推測する調査を指し、質的調査は、言葉や文脈で物事の深さや意味を理解する調査を指します。また演繹法と帰納法の観点でみると、量的調査は演繹的であり、質的調査は帰納的と言えます。
★量的調査 |
・数値データ(量)を集める |
・統計分析を用いて分析をする(平均値、割合、クロス集計、相関分析など) |
・対象は大人数を対象する場合が多い |
・メリットは、客観性が高く結果が一般化しやすい |
・デメリットは、数値化できない背景等を探るのは苦手 |
・主な調査方法は、アンケート調査(数値化できるもの)、構造化面接(同じ質問で数値化しやすい) |
・演繹的手法(理論が先で、データを集めて分析) |
★質的調査 |
・言語データを活用する(インタビュー、観察記録、日記、手紙など) |
・質的データ分析で、共通のテーマやパターンを見つけていく |
・対象は少人数を対象に時間をかけて掘り下げていく |
・メリットは、深い意味や背景、プロセスの明確化、思わぬ新しい発見が得られやすい |
・デメリットは、少人数対象のため一般化することが難しい、データの収集分析に時間を要する |
・主な調査方法は、インタビュー調査(半構造化、非構造化)、参与観察、フォーカス・グループ・インタビュー |
・帰納的手法(観察事実が出発点で、理論を導く) |
フィールド調査
フィールド調査とは、調査者が現場(フィールド)に出向き、そこで生活する人々と関わりながら、直接的な体験や観察を通じてデータを収集する調査方法を指します。社会福祉実践では、地域や利用者の生活実態を理解する上で重要なアプローチです。
代表的な調査方法として、参与観察やインタビュー調査があります。(後述)
社会福祉調査のプロセス
社会福祉調査のプロセスは、①調査の枠組み設定、②調査手順の設定、③調査票作成、④予備調査、⑤実施前の留意点、⑥調査の実施、⑦データ集計整理と分析、⑧調査の限界、⑨結論、⑩報告書の流れで進んでいきます。(※①~⑩は、新社会福祉方法原論 21世紀福祉メソッドの展開 改訂版:硯川眞旬 ミネルヴァ書房 P144引用)
それぞれについて、まとめていきます。
①調査の枠組み設定 | 何をするか、どんな方法でするかを設定する段階(問題・目的・仮説) |
②調査手順の設定 | 調査の具体的な設計図を作成(対象・調査方法・期間・予算) |
③調査票作成 | 質問の項目や形式、順序を踏まえて作成(質問項目・形式・尺度・順序) |
④予備調査(プリテスト) | 本調査の前に行うリハーサル(分かりやすさ、過不足はないか、回答の時間、指示内容) |
⑤実施前の留意点 | 調査員へ目的や手順、倫理的配慮など説明(協力依頼、必要物品、調査員確保と説明) |
⑥調査の実施(実査) | 計画に沿って実際にデータを収集(面接や観察、調査の配布回収・実施) |
⑦データ集計・整理と分析 | 収集したデータを整理し意味のある情報として取り出す(点検、符号化、集計、分析) |
⑧調査の限界 | 調査結果を解釈する上で、その調査が持つ限界や制約を客観的に認識 |
⑨結論 | 調査分析結果から導き出されるもの(発見、仮設の検証結果、効果、考察) |
⑩報告書 | 調査の全プロセスと結果、結論を成果物としてまとめる(表題、要約、序論、方法、結果考察、結論、引用) |
量的調査の方法
全数調査と標本調査、Web調査
調査を行う対象の全体の集合を「母集団」と呼び、母集団の中から調査対象として一部選び出されたものを「標本」と呼びます。
また母集団の全員を調査する方法を「全数調査」と呼び、上記に挙げたブースの貧困調査は多大な費用と時間をかけて、ロンドン市民400万人を超える全員を調査したことで有名です。
調査を行う対象全体の集合 → 母集団(全体) |
母集団の中から調査対象として選び出されたもの → 標本(一部) |
標本調査には「無作為抽出」と「有意抽出」の大きく2つの調査があります。
★無作為抽出 | 母集団の中から等しい確率で標本に選ばれるよう抽出(偏りが少ない) |
・単純無作為抽出法 | 母集団リストから完全にランダムで選ぶ方法(くじ引きのように) |
・系統的抽出法 (等間隔抽出法) | 母集団リストから1番目の人をランダムに選び、あとは一定の間隔(例10人ごと)で選択する方法 ※リストに周期性(規則性)があると調査が偏る危険性あり |
・層化抽出法 ※全ての層から抽出 | 母集団を予めいくつかの層(グループ)に分けて、各層の中から必要な数を無作為に抽出する方法 ※母集団の構成比を反映できる点で精度が高くなる |
・多段抽出法 (クラスター抽出法) ※一部の集落から抽出 | 母集団をいくつかの集落(クラスター)に分け、その集落をいくつか無作為に選び、その全員(または一部)を調査する方法 ※例:「市町村」→「A学校」→「○○クラス」、その中の全員または一部を調査 |
★有意抽出 | 調査者が何らかの意図をもって標本を選ぶ方法(手軽に実施可能) |
・割当法 | 母集団の構成比に合わせて、調査員がその条件に合う人を探して調査 ※世論調査などで利用される |
・スノーボール法 | 特定の条件を持つ人を見つけ、その人から知人や友人を紹介してもらう形で標本を増やす調査 ※母集団リストがない見つけにくい対象者の調査に有効 |
・便宜的抽出法 | 調査者にとって協力が得られやすい人々を対象とする調査 ※調査のしやすさがある一方、標本の偏りが大きくなりやすい |
Web調査とは、インターネットを利用してアンケート調査を行う方法のことを指します。パソコンやスマートフォン、タブレットなどを使って手軽に回答できることから量的調査の一つとして、幅広く利用されております。
横断調査と縦断調査
横断調査とは、ある一時点における状況を切り取って調べる調査方法であり、調査は1回きりで異なる集団を同時に調査をします。
一方で縦断調査は、同じ対象者を時間の経過と共に繰り返し追跡して、その変化を調べる調査方法で、複数回にわたって調査を継続する特徴があります。縦断調査では、調査を重ねるうちに当初の調査対象者が様々な理由で脱落し減少する「パネルの摩耗」という現象が見られます。
横断調査 (比較調査に分類) | ・1回切りの調査(一時点) ・異なる集団を同時に比較 ・ある時点での実態、分布、相関関係がわかる ・コストは比較的少ない ・全体像の把握、手軽さ |
縦断調査 (比較調査と繰り返し調査に分類) | ・複数時点(繰り返し) ・同じ対象(個人や母集団)を追跡 ・時間的な変化、成長、因果関係の推測が導き出される ・コストは膨大にかかる ・変化のプロセス、原因の分析 ・「パネルの摩耗」調査回数を重ねるごとに調査対象者が脱落し減少する現象 |
比較調査
比較調査とは、2つ以上の異なる集団や地域、時点などを比べることによって、共通点や相違点を明らかにし、特定の事象の原因や特徴、効果を図る調査方法の総称を指します。(横断調査・縦断調査は共に比較調査)
例)・異なる地域の比較(国、都道府県、市町村など)
・異なる属性を持つ集団の比較(年齢、所得、学歴、職業など)
・異なる時点でのデータを比較(過去と現在など)
繰り返し調査
繰り返し調査は、時間の経過による変化を調査する際に用いられる方法で、「縦断調査」に分類されます。
なお横断調査は1回切りの調査のため、繰り返し調査には該当しません。
パネル調査・トレンド調査・コホート調査
縦断調査は、さらに「パネル調査」と「トレンド調査」、「コホート調査」と大きく3つに分類することができます。
パネル調査は、同一対象者を追跡し、個人がどう変化したかを探る調査目的で実施されます。
トレンド調査は、縦断調査と対象者の選び方が異なり、同じ母集団から毎回異なる対象者を抽出して、同じ質問項目で繰り返し調査を行うもので、社会全体の意識や傾向(トレンド)の変化を把握する目的で実施されます。
コホート調査は、同じ世代や同じ経験をした集団を追跡し、特定の世代や経験を持った人へ人生に与える影響を見出すことを目的とします。
★縦断調査 | 複数時点にわたって繰り返し調査 ①パネル調査 ②トレンド調査 ③コホート調査 |
①パネル調査 | 同一対象者を追跡し、個人がどう変化したかを探る |
②トレンド調査 | 同じ母集団から毎回異なる人を抽出し、社会全体の傾向を定点観測 |
③コホート調査 | 同じ世代や同じ経験をした集団を追跡し、人生に与えた影響を分析 |
※パネル調査かつコホート調査 | 同じ世代の同じ人を追跡する場合は、パネル調査でもありコホート調査でもある |
二次分析
二次分析とは、他者(国、研究機関、他の研究者)が特定の目的のために収集した既存のデータ(一次データ)を、当初の調査目的とは異なる新しい目的や視点から再分析することを指します。
ソーシャルワークの歴史では、「貧困の再発見」の時代があります。ラウントリーの第3回目調査で貧困は解消された結論が出されたことを疑問に感じ、再度別の視点から同じデータを分析し直したところ貧困の再発見(相対的貧困)に至るという二次分析の事例があります。
【貧困の再発見】タウンゼントの「相対的剥奪」とハリントンの「もう一つのアメリカ」 - SOCIAL CONNECTION
ワーディング
ワーディングとは、アンケート調査で質問文や選択肢の言葉づかいや表現、語句の選択など、「どのように質問するか?」という質問の作り方を指します。不適切なワーディングは調査結果全体の信頼性を損なうため、いくつか注意点が挙げられております。
ワーディングとは | 質問の作り方(質問文・選択肢・言葉づかいや表現など) |
ワーディングの重要性 | ・多様な調査者に誤解なく伝わるための配慮 ・回答者を不快にさせないための配慮 ・正確な実態把握を行うための基本事項 ※プリテスト(予備調査)を実施し、ワーディングを修正してから本調査を行う |
平易でわかりやすい表現を使う | 専門用語や難しい表現を避ける |
曖昧な表現を避ける | 「最近」「ときどき」など人によって解釈が異なる言葉を使用せず具体的な基準を示す |
ダブルバーレルな質問をしない | 1つの質問文で2つ以上の内容を同時に重ねる質問は混乱を招く |
誘導的な質問をしない | 回答を特定の方向に導く偏った表現や前提を含んだ表現はしない |
否定的な質問や二重否定を避ける | 「~でないとは思いませんか?」など、二重否定ではなく、肯定文が基本 |
パーソナルな質問とインパーソナルな質問
パーソナルな質問とは、回答者自身の意見や感情、行動などを直接尋ねる質問形式のことを指し、主語は「あなた」になります。
一方でインパーソナルな質問とは、回答者個人ではなく、世間一般の人々や周囲の人々はどう考えているかなど、間接的に尋ねる質問形式のことを指し、主語は「一般の人々」となります。
パーソナルな質問は事実やデリケートではない意見を尋ねる場合に用い、インパーソナルは所得や差別、政治不満などセンシティブな内容を尋ねる場合に用いられます。
パーソナルな質問 | ・主語は「あなた」※直接的 ・目的は「個人の事実や意見」 ・回答は「明確」だが、建前の回答や無回答になりやすい |
インパーソナルな質問 | ・主語は「一般の人々」※間接的 ・目的は「センシティブな内容に関する意見の推定」 ・回答は「心理的負担が少なく本音が出やすい」が、回答者本人の意見とはズレる可能性もあり |
※共に質問の仕方なので、ワーディングに含まれる |
測定の信頼性と妥当性
測定の信頼性と妥当性は、調査で得られたデータがどれだけ信用できるかを判断するための両輪とも言えるような重要な概念を指します。
信頼性は、安定性や一貫性のことを指し、「何度測定しても、毎回同じ結果が出るか?」のように安定性が問われます。
妥当性は、正確性のことを指し、「正しく測れているか?」のように正確性が問われます。
測定の信頼性と妥当性 | 調査で得られたデータがどれだけ信用できるか判断するもの |
信頼性 | ・安定性や一貫性 ・同じ条件で同じ対象を測定した場合、常に同じような結果が得られる度合い |
妥当性 | ・正確性 ・測定したい概念をどれだけ的確に測れているかの度合い |
プリコーディングとアフターコーディング
コーディングは、「符号化」の意味を持ち、言葉や文章で得られた回答を集計分析できるよう、数値や記号に変換する作業のことを指します。実施するタイミング(プレ:事前 / アフター:事後)で分類されます。
プリコーディングは、調査票を作成する前段階で、あらかじめ回答の選択肢にコード(数値)を割り振っておく方法で、主に選択式の質問で用いられます。
一方でアフターコーディングは、調査が終わり回答を回収した後で、自由記述式の回答内容をもとに、カテゴリー分けしコードを割り振っていきます。
なお社会福祉調査では、この2つを組み合わせて用いられる場合が多いです。(主要な項目を選択式1~5で回答し、最後にその他ご意見があれば自由に記述くださいなど質問を提示)
★コーディング(符号化) | 言葉や文章の回答を集計分析できるよう数値や記号に変化する作業 |
プリコーディング(事前に符号化) | ・調査票を作成する前段階でコードを割り振る ・選択式の質問(例:1、2、3、4、5) |
アフターコーディング(事後に符号化) | ・調査終了後にカテゴリー分けしコードを割り振る ・自由記述式の質問(例:○○についての感想) |
自計式と他計式
アンケート調査では、「誰に回答してもらうか」によって、「自記式(対象者で回答)」と「他記式(調査者が回答)」に分類されます。
自記式は、郵送調査やインターネット調査、集合調査などで、自分でアンケート用紙に回答する方法で、プライバシーが守られることやコストが抑えられるメリットがあります。
他記式は、訪問調査や電話調査などで、調査員が質問し回答を記録する方法で、データの正確性や回収率の高さがメリットになります。
自記式 | ・調査対象者が自分でアンケート用紙に回答 ・郵送調査、インターネット調査、集合調査 ・プライバシーの保護、コストが低いメリット ・回答の心理的負担は少なく、本音を拾いやすい |
他記式 | ・調査をする人が回答を記録 ・訪問調査、電話調査 ・データの正確性や回収率の高さがメリット ・回答の心理的負担が多く、バイアスの危険性がある |
質問紙の配布と回収|訪問・郵送・留置・集合・電話・インターネット
アンケート調査では、訪問調査や郵送調査、集合調査や電話・インターネット調査など様々な調査方法があります。
調査は予算や期間、目的に応じて選択する必要があるため、以下それぞれ特徴を比較してまとめていきます。
訪問調査 (他記式) | ・調査員が対象者の自宅などに訪問し、質問を読み上げて調査員自身が調査票に記入 ・データの質や正確性が高い、回収率も高い ・コストや時間が最もかかる |
郵送調査 (自記式) | ・対象者の自宅などに調査票を郵送し、回答者自身が記入した後に返送してもらう ・地理的に広範囲を対象にできる、匿名性が高い ・回収率が低い、回収まで時間がかかる |
留置調査 (自記式) | ・調査員が自宅などに訪問して調査の趣旨を説明し調査票を預け、後日再訪問して回収もしくは郵送 ・回収率が郵送よりも高い、説明できるため誤記入を減らせる ・コストや時間がかかる、対象地域が地理的に限定 |
集合調査 (自記式) | ・対象者を特定の会場に集め、調査票を配布し、一斉に記入と回収を行う ・回収率がかなり高い、短時間で効率的、不明点は質問できるためデータの質も高い ・会場の手配や参加の呼びかけの負担 |
電話調査 (他記式) | ・調査員が対象者に電話をかけ、口頭で質問し回答を記録 ・低コストで広範囲に実施、短時間で結果を得られる ・長い調査は途中で切られてしまう、詐欺や勧誘と間違われ協力が得られにくい |
インターネット調査 (自記式) | ・インターネット上のアンケートフォームに対象者自身が回答を入力 ・コストが安い、説明で動画や画像の使用が可能 ・回答者に偏りが生じやすい |
エディディング
エディディングとは、回収した調査票の回答データを集計分析できるようにするために、内容を点検し、矛盾や誤り、記入漏れなどを確認修正する作業のことで、データクリーニングやデータ審査とも呼ばれます。
エディディングを実施するタイミングは、調査票を回収しデータ入力をした後にエディディング(データクリーニング)を実施し、アフターコーディングを経て、集計分析する流れになります。
単純集計と記述統計
単純集計とは、アンケートの各質問項目ごとに回答がどの選択肢にいくつ集まったか(度数)、また全体に占める割合(%)はいくつかをまとめる集計方法のことを指します。調査結果の全体像を把握することを目的とします。
記述統計は、収集したデータが持つ特徴を様々な指標やグラフを用いて、分かりやすくするための統計的な手法の総称になります。記述統計に含まれる具体的な手法は以下のものがあります。
度数分布表 | 単純集計表のこと、どの値にどれくらい分布しているか示す ※単純集計は記述統計に含まれる |
代表値 | データ全体を代表する中心的な値 ・平均値 → 全ての値を合計しデータで割った値 ・中央値 → データを小さい順に並べたとき、真ん中にくる値 ・最頻値 → 最も頻繁に出現する値 |
散布度 | データのばらつきの度合いを示す値 ・範囲 → 最大値と最小値の差 ・分散、標準偏差 → データが平均値からどのくらい散らばっているか示す指標 |
グラフ | データを視覚的に表現する手法 ・棒グラフ、円グラフ、ヒストグラムなど |
クロス集計
クロス集計は、2つ以上の質問項目(カテゴリー)を掛け合わせ、それぞれの回答の関連性を分析する集計方法のことを指します。
クロス集計は単純集計よりも、「~な人ほど、○○と回答する傾向がある」とより特徴や変数間の関係性を明らかにする場合に有効です。
また、クロス集計で得られた集団間の差が、単なる偶然か、それとも統計的に意味を持つものなのかを判断するために「カイ二乗検定」という手法も用いられます。
散布図
散布図は、2つの項目の関係性を点の散らばり具合で視覚的に表現するグラフで、主に量的データを扱います。点の散らばり方で、「相関の有無(関係性はあるのか)」、「相関の方向(どのような関係か)」、「相関の強さ(関係性の強さ)」を視覚的に理解することができます。
※相関係数(r)は、0に近いほど無関係(まんべんなく散らばる)、+1に近いと強い正の相関、-1に近いと負の相関
また相関関係は、因果関係(どちらが原因である)を意味しないので注意
相関と回帰
相関(分析)は、2つの変数(項目)の関係性(強さ・方向)を調べることを目的とするのに対し、回帰(分析)は、ある変数(項目)が、別の変数(項目)によってどのくらい影響を受けているか(説明・予測)調べることを目的とします。
回帰は因果関係を伴うという点で、相関とは大きく異なります。(回帰式は、y=a+bx ※予測線)
多変量解析
多変量解析は、3つ以上の多数の変数を同時に扱い、それらの間に潜む複雑な関係性や構造を明らかにするための統計的な手法になります。
多変量解析は、求める結果に応じて、重回帰分析(量的な結果を予測)、ロジスティック回帰分析(質的な結果を予測)、因子分析(共通因子を抽出)、クラスター分析(グループに分類)に分類されます。
質的調査の方法
参与観察と非参与観察
参与観察は、調査したい集団のコミュニティの一員になって活動に参加しながら、当事者の視点となり内側から観察する方法を指します。アンケートやインタビューでは現れない、人々の本音、価値観や行動の意味を深く理解することができます。
非参与観察は、調査者が調査したい集団やコミュニティの活動には参加せず、第三者として外部から客観的に観察する方法です。
このように、調査者の立場が「内側」と「外側」という両者の違いがあります。
参与観察 | ・内側の参加者として、当事者目線での意味の深い理解を目的 |
非参与観察 | ・外側からの観察者として、第三者目線で客観的な行動を記録 |
構造化面接法・半構造化面接法・自由面接法
構造化面接法は、あらかじめ質問する内容や順番など事前に決めておき、質問者はマニュアル通りに同じ質問を同じ順序で実施する面接法です。多数の人から同じ基準でデータを集める量的調査に用いられやすい方法になります。
半構造化面接法は、事前に聞いておきたい大まかな質問項目やトピックをインタビューガイドとして用意しておきます。実際の面接場面では、相手の話の流れに合わせて、質問の順序を変えたり、リストにない質問をするなど柔軟に対応します。
自由面接法は、大まかなテーマだけを決めて質問リストは用意せず、相手の自由な語りを聞き役として引き出します。
構造化面接法 | 固定的な質問形式(マニュアル通りに全員に同じ質問・順序) |
半構造化面接法 | 半固定的な質問形式(インタビューガイドに沿って、柔軟に対応) |
自由面接法 | 流動的な質問形式(物語的、テーマのみ設定で自由な語りを重視) |
フォーカス・グループ・インタビュー
フォーカス・グループ・インタビューとは、ある特定のテーマについての関心や経験を持つ少人数を集め、座談会形式で自由に意見を述べてもらう調査手法になります。
司会進行役(モデレーター)が、場の雰囲気を作りながら議論を促し、参加者同士の相互作用の中から、多様な意見や新しいアイデアなどを引き出すことを目的とします。
フォーカス・グループ・インタビュー | ・ある特定のテーマに関心や経験を持つ少人数 ・座談会形式で自由に意見を述べてもらう ・グループの相互作用 例)連鎖反応:ある人の発言をきっかけに、「そういえば~」と連想して意見述べる 例)刺激と深化:他者の意見を聞くことで自分の考え方が深まり明確になる 例)新たな発見:一人のアイデアに他の人のアイデアが積み重なることで新しい視点が芽生える ・メリットは、多様な意見やアイデアを収集する際に有効 ・デメリットは、セッティングの手間や同調圧力、特定の方の偏りな発言に注意 |
インタビューガイド
インタビューガイドは、半構造化面接で用いられ、調査の質を担保するためにあらかじめ質問の大まかな内容を想定しながら、柔軟に対応できるよう準備しておくものになります。
オープンクエスチョンを基本にし、誘導や難しい用語、ダブルバーレルな質問に気を付けながら、固定的ではなく柔軟に質問を進めていきます。
逐語録
逐語録は、インタビューや会議など、一語一句聞こえたままに文字に書き起こした記録のことを指します。
発言内容だけでなく、「えー」や「・・(5秒の沈黙)」のような音声情報もできる限り再現を目指します。
発言を要約してしまうと、その時点で担当者の解釈や意図が入ってしまうことから、分析の客観性を担保するためことや、また発言のニュアンス(例:考えている様子など)発言内容だけではない心理的状態を知るためにも逐語録が用いられます。
記録の方法と留意点|記録方法・データの取り扱い
調査における記録方法は、メモやフィールドノート、録音やビデオ、アンケート用紙など、目的に応じて活用されます。
質の高いデータを倫理的に収集するためには、匿名化してデータを加工することや、厳重な保管と破棄など、データを適切に取り扱い、調査対象者の尊厳を守りながら進めることが求められます。
グラウンデット・セオリー・アプローチ(GTA)
グラウンデット・セオリー・アプローチ(GTA)は、収集したデータに密着し、そのデータの中から理論を生成していく質的データの手法であり、仮説検証型とは異なる方法で、独自の理論を構築することを目指します。
新しい現象や複雑な社会プロセスを探求するために、現在の理論の枠に囚われない質的アプローチとして活用されます。
プロセスとしては、①オープン・コーディング(データを断片化し思いつくままにコードを生成)、②軸足コーディング(オープン・コーディングで生成されたコードごとの関係性をまとめていく)、③選択的コーディング(軸足コーディングで整理されたカテゴリー郡から最も中心なコアカテゴリーを見つけ出し、ストーリーラインを描く)、このようにデータ収集と分析を繰り返し、理論的飽和(これ以上新たな発見や修正が見られなくなる状態)まで続けていきます。
グラウンデット・セオリー・アプローチ | 既存の理論に囚われず、収集したデータに密着し独自の理論構築を目指す質的データの手法 |
目的・活用場面 | 新しい現象や複雑な社会プロセスを探求する際に用いられる |
手順①:オープン・コーディング | データを細かく読み込み断片化し、自由にたくさんのコードを生成する |
手順②:軸足コーディング | オープン・コーディングでバラバラに生成されたコードをカテゴリーごとにまとめる |
手順③:選択的コーディング | 軸足コーディングで整理されたカテゴリー郡から中心的なコア・カテゴリーを見つけ出す |
理論的飽和 | データ収集と分析を繰り返し、新たな発見や修正が見られなくなる状態(分析終了の目安) |
ナラティブアプローチ
ナラティブアプローチとは、単に出来事や事実を聞き出すのではなく、調査対象者が自らの経験をどのように意味づけ、解釈し、一連の物語として構成しているかに着目していきます。その人固有の「人生の物語」に耳を傾け、主観的な世界を理解しようとします。
社会福祉調査では、データやアンケートでは見えてこない「実際の声」(経験の複雑さ、感情の機微、葛藤)をそのまま生き生きと捉えることができ、その人を取り巻く社会制度や文化、時代の空気など、社会の構造的な問題を浮き彫りにする力を持っております。
ライフストーリーとライフヒストリー
ライフストーリーは、個人が自らの人生経験をどのように認識し、解釈し、他者に語るかという「物語(ナラティブ)」そのものに焦点を当てる主観的なものになります。
ライフヒストリーは、個人の生活史を、客観的な出来事の連なりとして捉え、社会や歴史という大きな文脈の中で理解しようとします。言い換えればその人の人生を通して社会や歴史を読み解こうとするアプローチです。
このように、ライフストーリーは主観的、ライフヒストリーは客観的に捉える点で異なるものでありますが、「ライフストーリーを知る中でライフヒストリーを分析する」のように相互に補完する関係性でもあります。
エスノグラフィー
エスノグラフィーは、言葉を直訳すると「民族誌」となるように、調査者が特定の集団やコミュニティの生活の場(フィールド)に長期間身を置き、人々と生活や行動を共にしながら、その文化や社会を内側から理解し記述するアプローチ方法になります。
外側から尋ねるのではなく、内側から学ぶ姿勢のもと、人々の語りだけではなく行動や文脈も含めた全体を重視します。その中で、その集団にとっての当たり前を外部の視点から解き明かしていきます。
アクション・リサーチ
アクションリサーチは、社会福祉調査の中でも特に「実践的」で「変革志向」の強い質的調査で、現場の課題を解決・改善する「Action(実践)」と、そのプロセスから学び得る「Research(研究)」を意図的に結び付けていきます。
課題の当事者の主体的参加や協働をもとに、「知りながら変え、変えながら知る」実践と研究が同時進行で進むダイナミックなプロセスです。
テキストマイニング
テキストマイニングは、大量のテキストデータの中から有益な情報や人々の意見、傾向や関連性などを、「発掘(Mining)」するための分析技術になります。
具体的には「ワードクラウド(出てくる単語の頻度を分析)」、「共起分析(単語と単語の結びつき)」、「感情分析(肯定的や否定的、中立的のどれ分類されるか判定)」などの方法があり、質的調査で扱われてきた「言葉のデータ」を分析することで、客観的なものとして捉えることが可能になります。
ソーシャルワークにおける評価
ミクロ・メゾ・マクロ
ソーシャルワークでは、個人の問題(ミクロ)を、それを取り巻く組織や地域(メゾ)、さらには社会制度や政策(マクロ)と関連づけて捉えます。調査や評価も同様に、この3つのレベルで行うことが重要です。
ミクロレベルの評価は、ソーシャルワーカーが直接関わるクライエント一人ひとりやその家族に、支援を通じてどのような変化がもたらされたかを測定・把握することに焦点を当てます。(例:クライエントが抱える問題はどの程度軽減されたか?、設定した目標をどれぐらい達成できたか?など)
メゾレベルの評価は、個々の支援の集合体である地域や組織、プログラムが、その目的を効果的・効率的に達成できているかを検証します。(例:提供しているサービスやプログラムは地域のニーズに合っているか?、投入した資源(予算、人件費、時間)に見合った成果がでているか?、利用者はサービスに満足しているか?)
マクロレベルの評価は、国や自治体の政策や法律が、社会全体にどのような影響を与えているかを分析・評価するもので、とても大きな視点での評価活動になります。(例:制度の導入によって意図しない副作用や新たな社会問題が生じていないか?、政策に投じられた税金は社会的な便宜に見合っているか?、その政策や法律はターゲットとしている社会問題の解決に貢献しているか?)
また、ミクロ・メゾ・マクロはそれぞれ独立しているわけではなく、関連している視点を忘れてはなりません。
根拠に基づく実践|EBP
根拠に基づく実践(EBP)とは、専門職が支援や介入を行う際に、「個人の勘や経験、伝統」だけに頼るのではなく、現在得られる最も信頼できる科学的根拠(エビデンス)を活用することを指し、もともとは医療分野で始まりましたが、現在は社会福祉、教育、心理など、対人援助を行う多くの分野で用いられる概念になります。
根拠に基づく実践(EBP)は、3つの要素を統合しクライエントにとって最善の意思決定を行うプロセスであり、「①最善の科学的根拠(体系的な調査研究で得られた客観的で信頼性の高い知見)」、「②専門職の専門性(専門職が培ってきた知識・技術・判断力」、「③クライエントの価値観・意向・自己決定(クライエント自身の価値観、信条、文化、希望、選択)」が要素となります。
根拠に基づく実践(EBP)のプロセスは、「5つのA」と呼ばれるステップがあり、「①Ask(問いを立てる)」、「②Acquire(情報を収集)」、「③Appraise(情報を吟味評価)」、「④Apply(情報を適用)」、「⑤Assess/Audit(評価・省察)」の5つなります。
ナラティブに基づく実践|NBP
ナラティブに基づく実践(NBP)は、支援を行う際に科学的根拠(エビデンス)よりも、クライエント一人ひとりが持つ固有の「物語(ナラティブ)」を理解し、それを実践の中心に添えるアプローチになります。
What is the matter? / What is your story?(この人にとって、この経験は何を意味するのか)という問いから出発し、クライエントを解決すべき問題を持つ症例ではなく、「唯一無二の物語を生きる主人公」として捉える点がポイントです。
アカウンタビリティ
アカウンタビリティは、一般的に説明責任と訳されますが、社会福祉をはじめとする専門職の文脈ではそれ以上に深い意味を持つ概念になります。社会福祉の実践は、公的な資金(税金)や市民からの寄付によって支えられ、弱い立場に置かれた人々の人権や生活に関わる特性があるため、クライエントやコミュニティ、機関や社会全体に対して、アカウンタビリティの責任が求められます。
またアカウンタビリティは、単に説明する(Explain)だけでなく、説明責任(to Explain)や結果責任(to take Responsibility)、応答責任(to Respond)の要素を含みます。
評価対象|実践、プログラム、政策
社会福祉における評価を考えるときは、「何を評価するのか(評価の対象)」、「その対象のどの側面を評価するのか」の2つの軸が重要になります。前者の評価対象として、ミクロレベル(実践)、メゾレベル(プログラム)、マクロレベル(政策)の3つが挙げられます。
評価対象|構造・過程・結果・影響
対象をどのような側面から分析するかを考えるに当たって、アメリカの医療研究者ドナベディアンが提唱した「構造(Structure)」、「過程(Process)」、「結果(Outcome)」の3つの枠組みに、より長期的な視点である「影響(Impact)」を加えた4つの切り口がよく用いられます。
構造(Structure)とは、サービスが提供される前提条件や物的・人的な環境といった土台の部分のことを指します。質の高いサービスを提供するための準備は整っているか?という視点が構造に当てはまります。(例:職員の資格や配置、予算、設備や広さ、立地、組織体制など)
過程(Process)とは、実際にサービスがどのように展開されたかという活動そのものを指します。プログラムの参加者やサービスの内容、満足度など、計画通りに適切な方法でサービスが提供されたかを評価します。
結果(Outcome)とは、プログラムや実践に参加したことによって、参加者(クライエント)に生じた直接的・短期的な変化についての評価を指します。行動の変化やスキルの向上、意識の変化など、どのような変化(良い)がもたらされたかを評価の軸にします。
影響(Impact)とは、プログラムや政策がもたらした、より長期的で社会全体への波及効果といった大きな変化を評価します。
このように、社会福祉評価を行うためには、「何を評価するのか」を明確にして、次に「どの側面から光を当てるのか」を設計することが求められます。
評価方法|シングル・システム・デザイン
シングル・システム・デザインとは、社会福祉の実践において、ソーシャルワーカーが自分自身の行った支援(介入)が、特定のクライエントに対して本当に効果があったのかを客観的に評価するための調査方法になります。
「シングル」とは、評価対象が一つのシステム(単一事例)であることを意味し、個人や家族、小集団や組織など、それぞれ評価対象となる場合があります。
基本的なデザインの例として「ABデザイン」と呼ばれるものがあります。流れとして「①標的行動」を決め、「②A期(介入前・ベースライン期)」、「③B期(介入後・インターベンション期)」、「④グラフ化と評価」が基本的なデザインになります。
プロとは、「実践者でもあり、研究者でもあり、教育者でもある」という視点からも自らの実践を科学的な視点で見つめ直す(実践と研究)ためにも重要となります。
評価方法|実験計画法
実験計画法とは、ある原因(要因)がある結果に対してどのような影響を与えているのか、その因果関係を明らかにする科学的な方法になります。
ある支援の効果を確かめたいときに、単に個人やグループの変化をみても、「その変化が本当に支援のおかげなのか?」それとも「時間の経過や他の要因によるものなのか?」はわかりません。
そこで、事件計画法では、条件を意図的に操作・統制した複数のグループを比較することで、他の要因の影響を可能な限り排除し、純粋な因果関係を探求します。代表例として、介入群(支援やプログラムを受ける群)と比較群(介入を受けないグループ)を設定し、比較することで介入の純粋な効果を測定するランダム化比較試験(RCT)があります。
評価方法|質的な評価法
社会福祉の評価において、量的評価が「どれくらいの変化があったか(What)」を数値で示すのに対し、質的評価は「なぜ、どのようにその変化は起きたのか(Why・How)、そして「クライエントはその変化をどう感じ、意味づけているのか」を、言葉や文脈、物語から深く理解しようとするアプローチになります。
例)プログラムの満足度上がったことが数値でわかっても、「なぜ満足度が上がったか?」はわからないため、質的評価を用いて、その背景にある理由を探ります。
まとめ
以上、社会福祉士国家試験に出てくる出題箇所に沿った、「社会福祉調査の基礎」のキーワードの概要になります。
社会福祉調査の学び直しや国家試験合格を目指す方にとって、役立つ内容となっておりますので、ぜひ身近な方にも当記事をご紹介ください。
他の科目でも今後同様に記事をまとめていきたいと思いますので、引き続き宜しくお願いいたします。