社会福祉の歴史

ヤングハズバンド報告からシーボーム報告、そしてバークレイ報告まで|イギリスの各種報告について

はじめに

本記事では、第二次世界大戦後のイギリスで広がりをみせたパーソナル・ソーシャル・サービスの時代において重要となる「ヤングハズバンド報告」と「シーボーム報告」、そして「バークレイ報告」について、要点やキーワードをわかりやすくまとめております。

これらの各報告書は社会福祉士の国家試験でも取り上げられますが、多くの方は「なぜこれらを取り上げるのか?」について、その重要性を知らないまま通過しているのではないでしょうか?

実はこれらの報告書は「ソーシャルワークの機能の統合化」や「コミュニティソーシャルワークの発展」と密接に関連しており、極めて重要なものになります。

「国家試験のもう一歩先」をテーマに、簡潔にまとめておりますので、良かったら最後までご覧ください。



また、これまで当HPでは、イギリスの社会福祉の源流について記事をまとめております。

本記事をご覧いただく前(もしくは後)にこちらの記事もご覧いただけるとより理解が深まります。

「社会福祉は一重にものの見方にあり」

それでは以下まとめになります。


ヤンズハズバンド報告

第二次世界大戦後、イギリスでは「国営保険医療サービス(1946年)」、「国家扶助法(1948年)」、「児童法(1948年)」の成立を中心として、地方自治体によるソーシャルワークが展開されていきます。

背景には第二次世界大戦によって、社会的援助を求める人々が急増し、これまで病院やクリニック、また家族や児童へのケアやサービスを行ってきたソーシャルワーカーの価値が公的に認められてきたということでもあります。

しかし、地方自治体でソーシャルワークを展開するにあたって、「ソーシャルワーカーの専門化」という課題が生まれます。とりわけ福祉部や保健部においては非専門化(無資格者)が増大してしまうことが懸念されておりました。

そこで1955年に「地方自治体保険・福祉サービスにおけるソーシャルワーカーに関する調査委員会(委員長:ヤングハズバンド)」が設置され、1959年に「ヤングハズバンド報告」として提出されます。

ヤングハズバンド報告では、スペシフィックではなくジェネリックの重要性を提唱したことにより、その後ソーシャルワークの機能の統合化の流れへ影響を与えたこと、またソーシャルワーク教育において、大学とは別の新たな養成コースの開設を求め、その後ソーシャルワーク資格の認定機関である「ソーシャルワーク研修協議会」の発足へとつながっていきます。


ヤングハズバンド報告

『ヤングハズバンド報告』(Younghusband Report)は、「ジェネリック・タイプ」のソーシャル・ワーカーを通じてのソーシャル・サービスの「統合」を強く提言した点で画期的内容を伴うものであった。

ここでいう「ジェネリック・タイプ」の含意は多様であるが、少なくとも二つの特徴が含まれている。

第一は、クライエントの側からみれば、従来一家族に複数のソーシャル・ワーカーが当たってきたことの弊害を排して、一家族一ワーカーを原則とする「ワン・ドア・システム」がとられるようになったこと、

第二に、ワーカーの役割の点でも、それまで専門団体ごとの特殊な機能分化の協調が反映されてきたのに対し、機能の統合化が重視されるようになったことである。

『ヤングハズバンド報告』は、理論的にも実際的にも今日のパーソナル・ソーシャル・サービスのマンパワー計画、教育・訓練のあり方に基本的影響を与えてきたといえるのである。

引用:福祉サービス開発と職員計画(社会福祉研究選書)杉森創吉著 誠信書房 P14 国立国会図書館デジタルコレクションより

このように、なぜ社会福祉士の国家試験でこのような報告を学ぶかというと、実はそこにはソーシャルワーク専門職の発展過程という源流が込められているからになります。


シーボーム報告

1965年に「地方自治体と関連するパーソナル・ソーシャル・サービスに関する委員会(通称シーボーム委員会)」が設置され、1968年に「シーボーム報告」が公表されます。

シーボーム報告では、当時の地方自治体におけるパーソナル・ソーシャル・サービスが不統一に分散されていたものを、「地域(community)」という基盤で、一つの統合された部局で総括的に運営されるべきという考えで展開されていきます。

それによって、これまで主に個人や家族に焦点を当てたサービスから、「地域(community)」に焦点を当てたサービスへと移り変わっていきます。

具体的には、人口5~10万人の地区に対して、10~12名ほどのソーシャルワーカーがチームとして地域を担当するといったことも行われていきます。

シーボーム報告

☆「地方自治体社会サービス部」の新設

・地方自治体の各部局にあった福祉サービスを一元化し、総合的なサービスを展開

・地方自治体社会サービス法(1970年に成立)により法制化


またシーボーム報告では「専門家と訓練」についても検討され、1971年に「中央ソーシャルワーク教育訓練協議会(CCETSW)」が創設されます。

中央ソーシャルワーク教育訓練協議会は、これまで入所職員やホームヘルプサービス職員、通園職員などの訓練が分散されていたことから、その訓練機関を統合し、中央機関として訓練の連絡調整を図る役割として展開されました。

またこれまでソーシャルワーク研修協議会が行っていた「ソーシャルワーク資格証明書」を授与することも、中央ソーシャルワーク教育訓練協議会へと移行されていきます。

しかし、シーボーム報告によって新設された社会サービス部も、開始して間もなく当初提案された業務より、その範囲や内容が拡大されます。

その結果、社会サービス部の疲弊へとつながり、機能不全を招くこととなるのです。


バークレイ報告

1973年には「石油ショック」、さらには1976年に「ポンドショック」もあり、イギリスの経済は低迷を余儀なくされておりました。

一方で、福祉においては高齢化問題や失業率の問題など様々な問題を抱えている中で、さらに福祉の対象範囲や内容が広がり、「サービスの拡充」が見込まれていました。

そこで、このような時代に対応していくための今後の政策として、福祉のみならず多くの人たちを呼び起こすことが必須となってきます。

そして1980年10月に「バークレー委員会(委員長:ピーター・バークレー)」が発足され、社会サービス部や民間セクターにおけるソーシャルワーカーの役割と任務を再検討するための調査や研究が行われます。

1982年5月に「ソーシャルワーカー ー役割と任務(通称バークレー報告)」が全国ソーシャルワーク研究所から出版されます。

この報告により、コミュニティ・ソーシャル・ワークの重要性が説かれ、ソーシャルワークはコミュニティを基盤とした地域福祉の時代へと進んでいきます。

バークレイ報告:日本語版序より

~略

本報告書の結論は、コミュニティ・ソーシャル・ワークのアプローチに力点がおかれ、コミュニティ内に存在する様ざまなケアの方式をネットワーク化することにより、効率的、効果的サービスの充実をはかるという考え方を展開している。

引用:ソーシャル・ワーカー=役割と任務:英国バークレイ委員会報告 小田兼三訳 全国社会福祉協議会 P3 国立国会図書館デジタルコレクションより

バークレイ報告:目次

日本語序説

序に代えて

序文

用語説明

第1部 ソーシャル・ワークの実際

 第1章 フィールドにおけるソーシャル・ワーカーの実際

 第2章 ソーシャル・ワークの人材問題と諸社会問題

 第3章 ソーシャル・ワーカーに求められる任務

 第4章 入所サービスとデイ・サービスにおけるソーシャル・ワーク

 第5章 ソーシャル・ワークと民間セクター

第2部 ソーシャル・ワークをとりまく状況

 第6章 経済状況

 第7章 社会政策とソーシャル・ワークの発展

 第8章 一般行政サービスとの相互関係

 第9章 組織および運営管理の諸問題

 第10章 価値、方法、技術、知識の影響

第3部 クライエント、コミュニティとソーシャル・ワーク

 第11章 ソーシャル・ワークにたいする見解

 第12章 基準維持とクライエントの権利保護

 第13章 コミュニティ・ソーシャル・ワークをめざして

付録A 近隣基盤ソーシャル・ワーク擁護論と諸社会サービス

付録B 異論的見解

付録C 報告書関連文献リスト

付録D 専門調査委員会委員リスト

付録E 意見提供者・団体リスト

付録F 専門調査委員会あるいは委員会事務局員による訪問地域リスト

付録G ソーシャル・ワーカーの任務に関する主要諸法令

付録H 全国ソーシャル・ワーク研修所発刊の報告書関連文献リスト

訳語対照表

訳者あとがき

引用:ソーシャル・ワーカー=役割と任務:英国バークレイ委員会報告 小田兼三訳 全国社会福祉協議会 P1~2 国立国会図書館デジタルコレクションより

このように「バークレイ報告」という名前だけ聞くと、どこか遠いような印象を受けますが、目次の通りほとんどがソーシャルワークに関することが書かれており、またシーボーム報告以来の重要な報告とされております。

ちなみにこのバークレイ報告は最終的に統一した意見でまとめることはできず、多数派報告と二つの少数派報告(付録)と計三つの報告が対等に扱われております。

とりわけ本書はとても整った構成で洗練された内容がまとめられておりますが、膨大なため読むことは大変かもしれません。しかしながら、巻末の「訳者あとがき」だけでも是非ご覧になることをオススメします。

コミュニティ・ソーシャル・ワークで大切なことは「心のもち方」であることをメッセージとして残されております。


まとめ

以上が「ヤングハズバンド報告」から「シーボーム報告」、そして「バークレイ報告」までの流れになります。

当時の日本は海外の文献や情報を日本へ取り入れることに積極的で、とりわけイギリスの社会福祉政策に影響を受けております。

それによって日本でも「地域福祉」がより発展していき、「コミュニティソーシャルワーク」が時代を牽引していきます。

近年ソーシャルワーク教育が混迷している今こそ、「原点回帰」というものが改めて重要になるのかもしれません。

今後ともソーシャルワークに関する歴史や源流を発信していきますので、引き続きどうぞよろしくお願いします。


☆参考文献

・英国ソーシャルワーク史:1950-1975下 E.L.ヤングハズバンド著[他]誠信書房 国立国会図書館デジタルコレクション

・ソーシャル・ワーカー=役割と任務:英国バークレイ委員会報告 小田兼三訳 全国社会福祉協議会  国立国会図書館デジタルコレクション

・福祉サービス開発と職員計画(社会福祉研究選書)杉森創吉著 誠信書房  国立国会図書館デジタルコレクション

・社会福祉のあゆみ 社会福祉思想の軌跡 金子光一著 有斐閣アルマ


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