社会福祉の知識

エリクソンの発達段階とは?年齢別に応じた発達課題を考察

「自分は今、人生のどのあたりにいるのだろう」「思春期の我が子の反抗的な態度には、どんな意味があるのだろう」。私たちは日々の生活で、自分や身近な人の心の動きについて、ふと立ち止まって考えることがあります。

こうした人生の様々な疑問を解き明かすための「大きな地図」を示してくれるのが、心理学者エリク・H・エリクソンが提唱した「発達段階理論」です。この理論は、人の一生を8つのステージに分け、それぞれの時期に乗り越えるべき中心的な発達課題があると説いています。

この記事では、エリクソンの理論を年齢別に分かりやすく解説し、自分や他者をより深く理解するためのヒントを探ります。




エリクソンとは?

エリク・H・エリクソンは、「人の発達は生涯続く」という考えを提唱した、20世紀を代表する心理学者の一人です。

ドイツで生まれた彼は、精神分析の創始者であるフロイトの理論を土台としながらも、そこに独自の視点を加えました。

エリクソンが特に重視したのは、個人の内面だけでなく、家族や社会といった「他者との関わり」が人格形成に与える影響です。そのため彼の理論は「心理社会的発達理論」と呼ばれています。

人の成長は青年期で終わりではなく、老年期まで続いていくという視点は、現代の教育やカウンセリングの分野でも、私たちを導く大切な指針となっています。



エリクソンの発達段階理論

エリクソンの発達段階理論は、人の一生を8つのステージに分け、各ステージで直面する発達課題を示したものです。

その中心にあるのは、各年代で誰もが経験する心理的な葛藤です。エリクソンはこの葛藤を「危機」と呼びましたが、それは危険な状況ではなく、むしろ成長に欠かせない「転換点」だと考えました。

各段階でこの葛藤を乗り越え、肯定的な側面と否定的な側面のバランスをとることで、私たちはその後の人生を支える「心の強さ」を獲得していきます。この理論は、前の段階の土台の上に次の段階が築かれると考えますが、ある時期につまずいても後の人生でやり直せるという、柔軟で希望に満ちた視点を持っているのが特徴です。

ここでは発達段階の8つのステージをそれぞれ解説していきます。


乳児期(0歳~1.5歳頃)|基本的信頼と不信

人生の最初のステージである乳児期。

この時期の課題は、世界は安全な場所だと感じる「基本的信頼」を育むことです。

赤ちゃんはまだ無力で、生きるために必要なすべてを親や養育者に頼っています。お腹が空いたらミルクをもらい、不快なときには優しく抱きしめられる。そんな一貫した愛情のこもった世話を通じて、赤ちゃんは「この世界は信じられる」という感覚を、言葉ではなく身体で学んでいきます。この感覚こそが、その後の人間関係すべての土台へとつながり、仮に世話が不安定だと、世界への不安や不信感が芽生えてしまいます。この時期に育まれる信頼感は、人が未来へ向かうための最初の力、「希望」の源泉となるのです。


幼児期前期(1.5歳~3歳頃)|自律性と恥・疑惑

歩き始め、言葉を覚え始めるこの時期の子どもは、「自分でやりたい」という強い欲求に満ち溢れています。これが、人生で二番目の発達課題である「自律性」の芽生えです。

子どもは衣服の着脱や食事、そしてトイレトレーニングといった様々な挑戦を通じて、自分の身体を自分の意志でコントロールする感覚を学んでいきます。親や養育者が、子どもの「自分で」という気持ちを尊重し、時に失敗しても温かく見守りながら適切な手助けをすることで、子どもは「自分はできる」という自律性を育みます。

反対に、親が過保護に先回りしてしまったり、失敗を厳しく叱責したりすると、子どもは自分の能力に自信が持てず、「自分はダメな存在だ」という「恥」や「疑惑」の感情を抱きやすくなります。

この時期に育まれる自律性は、自分の人生を自分で決めていくための「意志」という力の基礎となるのです。


幼児期後期(3歳~6歳頃)|自発性と罪悪感

運動能力や言語能力が飛躍的に発達するこの時期、子どもの興味関心は自分の身体から、外の世界へと大きく広がります。「なぜ?」「どうして?」という質問が増え、ごっこ遊びに夢中になるのは、この時期の課題である「自発性」の現れです。

子どもは遊びの中で、自分で計画を立て、役割を演じ、何かを創り出すといった主体的な活動に喜びを見出します。家族や周りの大人が、子どもの好奇心や探求心を認め、その活動を励ますことで、子どもは「自分で何かを始めてもいいんだ」という安心感とともに、目標に向かって行動する力を育みます。

しかし、子どもの行動を過度に制限したり、「そんなことをしてはいけない」と厳しく咎めたりすると、子どもは何かをしようとすること自体に「悪いことをしているのではないか」という「罪悪感」を抱くようになります。

この時期に養われる自発性は、人生の「目的」を見つけるための大切な原動力となるのです。


学齢期(6歳~12歳頃)|勤勉性と劣等感

小学校に入学し、子どもたちの世界は家庭から学校へと大きく広がります。この時期の中心的な課題は、社会から与えられる様々な課題に粘り強く取り組む「勤勉性」を身につけることです。

勉強、スポーツ、友人関係、係の仕事など、子どもたちは系統だったルールや技術を学び、それを着実に遂行することが求められます。課題をやり遂げ、先生や友人から認められる経験を重ねることで、子どもは「自分は社会の中で役割を果たせる」という自信、つまり「有能感」を育んでいきます。

しかし、この時期に失敗体験が続いたり、常に他者と比較されて否定的な評価を受けたりすると、子どもは「自分は何をやってもうまくいかない」という「劣等感」に苛まれるようになります。

この時期に培われる勤勉性は、社会の一員として物事を成し遂げていく能力の基礎を築く、非常に重要な要素なのです。


青年期(12歳~20歳頃)|アイデンティティとアイデンティティの拡散

急激な身体的・精神的変化を迎える青年期は、エリクソンの理論において最も重要な時期とされています。このステージの中心課題は、「自分とは何者か」という問いに向き合い、一貫した自己像である「アイデンティティ」を確立することです。

子ども時代の自分と決別し、大人になる未来の自分を見据える中で、若者は自分の価値観、能力、社会での役割について深く悩みます。友人との語らいや様々な経験を通じて、まるで実験のように生き方を模索し、「これが本当の自分だ」という確信を得ようとします。これがアイデンティティの確立です。

しかし、この問いに対する答えが見つからず、自分が何をしたいのか、何者なのかが分からなくなってしまうと、「アイデンティティの拡散(同一性混乱)」と呼ばれる混乱状態に陥ります。

この危機を乗り越え、自分自身に誠実であろうとする姿勢は、特定の価値観や他者に対して忠実である能力、「忠誠」という力を育むのです。


成人期(20代~30代)|親密性と孤立

青年期に自分らしさという軸を確立すると、人は次に、その自分を他者との深い関係性の中で分かち合いたいと願うようになります。これが、成人期の課題である「親密性」の追求です。

ここでの親密性とは、単なる恋愛関係だけを指すものではありません。お互いの違いを認め合い、時には自己を投げ出してでも相手に深くコミットする、真の友情や愛情関係全般を意味します。自分のアイデンティティがしっかりしているからこそ、他者と深く結びついても自分が消えてしまう恐れを感じることなく、豊かな人間関係を築くことができるのです。

反対に、自己が確立できていなかったり、傷つくことを恐れたりすると、他者と深い関係を結ぶことを避け、表面的な付き合いに終始したり、自ら人を遠ざけたりする「孤立」に陥ります。

この時期に育まれる親密性は、他者を思いやり、大切にする「愛」という人間的な強さの源泉となるのです。


壮年期(40代~60代)|世代性と停滞

人生の半ばを過ぎる壮年期には、人々の関心は自分自身のことから、次の世代へと広がっていきます。この時期の課題は、未来を担う世代を育て、社会に貢献し、何か価値のあるものを残していこうとする「世代性」を育むことです。

これは、自分の子どもを育てることだけに限りません。職場で後進を指導したり、地域の活動を通じて若い世代をサポートしたり、文化や技術を継承したりといった、あらゆる形で次世代の成長に関わることが含まれます。こうした活動を通じて、人は自分の人生がより大きな歴史の流れの一部であることを実感し、生きる意味を深めていきます。

しかし、次世代への関心を持つことができず、自分の興味や欲求を満たすことだけに終始してしまうと、人生が意味のないものに感じられる「停滞」という状態に陥ります。

この世代性を通じて得られる、他者を育み見守る力こそが、「世話(ケア)」という温かい強さになるのです。


老年期(60代後半~)|統合と絶望

人生の最終ステージである老年期には、これまでの人生全体を振り返り、その意味を受け入れるという最後の発達課題が訪れます。これが「統合」です。

自分の人生には、輝かしい成功もあれば、苦い失敗や後悔もあったかもしれません。その全てを含めて「これが自分の人生だったのだ」と肯定的に受け入れ、限られた時間の中で生きてきた自分を認められる状態を指します。このように自分の人生と和解し、人類全体の歴史の中に自分の生を位置づけることで、人は穏やかに死と向き合うことができます。

しかし、過去への後悔が強かったり、「もっと違う生き方があったはずだ」という思いに苛まれたりすると、残された時間の短さに絶望し、死を恐れる「絶望」の状態に陥ります。

この人生の最終的な危機を乗り越えた先に得られるものこそ、物事の本質を見通す円熟した「賢さ(知恵)」なのです。



まとめ

ここまで、エリクソンの発達段階理論に基づき、人が生涯をかけて歩む8つのステージとその発達課題を解説してきました。

この理論は、まるで人生の大きな地図のように、私たちが今どの地点にいて、どのような課題に直面しているのかを教えてくれます。乳児期の信頼感から老年期の統合に至るまで、各ステージの葛藤は、私たちをより強く、より賢く、より愛情深い存在へと成長させるための大切な転換点です。

この理論を通して自分自身の過去を振り返り、現在の課題を見つめ、そして未来を展望することは、自分や大切な人を理解する上で大きな助けとなるでしょう。エリクソンのメッセージが示すように、私たちの発達に終わりはありません。どの年代にいても、私たちは常に成長の途上にいるのです。


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