はじめに
本記事では、F.バイスティックが提唱した「バイスティックの7原則」について、援助関係の本質という視点から、医療・介護・福祉・保育といった対人援助職に従事する方々に向けて、基本から応用までの知識をわかりやすく解説しています。
もともと、バイスティックの7原則はケースワーカーの面接技法として広まりましたが、現在では医療や介護、福祉、保育の分野でも幅広く活用されています。さらに、社会福祉士や精神保健福祉士だけでなく、介護福祉士や保育士向けのテキストにも取り上げられるほど、重要な知識として位置付けられています。
本原則を「援助関係」という視点で深く理解することで、現場での実践において、より実用的で価値のある知識となるでしょう。
本記事では、専門書を参考にしながら、他のブログや教科書ではあまり触れられていない「もう一歩踏み込んだバイスティックの視点」をご紹介します。
援助関係を形成する目的
援助関係とは、「ケースワーカーとクライエントの間で形成される、態度と情緒による力動的な相互作用」を指します。この関係性は、双方の態度や感情が影響し合うことで成り立ちます。
この関係は、クライエントが安心して自己開示できる環境を作り、問題解決や成長を促進するために重要です。ケースワーカーは、共感や受容の姿勢を持ちつつ、自身の感情を適切にコントロールし、信頼関係を築くことが求められます。
援助関係の目的や役立つ知識について以下まとめていきます。
①援助関係の目的
・クライエントが調査や診断、治療の過程に安心感を持ち、効果的に参加できる雰囲気や環境を作ること。
②援助関係に役立つ知識
・クライエントに対する援助を行う上では、心理学や社会学といった知識を持つことで、より専門的で効果的な支援が可能。
・クライエントのニーズや問題を改善するためには、「人間関係に関する科学的な知識」が不可欠。
<個人を理解する上で役立つ知識>
・人間に共通するさまざまな特徴を可能な限り理解すること。
<クライエント理解で役立つ知識>
・パーソナリティがどのように発達し、変化するか。
・パーソナリティが生活上のストレスにどのように反応するか(正常反応と異常反応の両方を含む)。
このように、「人間に共通する知識」と「クライエント個々の特性を理解するための知識」は、援助関係を構築する上で不可欠です。援助関係はケースワークの魂とも呼ばれており、クライエントを深く理解し、その背景や特性に応じた対応を行うことが、質の高い支援の基盤となります。
援助関係とは
ケースワーカーとクライエントのあいだで生まれる、態度と情緒による力動関係である。
そして、この援助関係は、クライエントが彼と環境のあいだにより良い適応を実現してゆく過程を援助する目的をもっている。
出典「ケースワークの原則」P17引用
援助関係の目的とは
クライエントが調査や診断、あるいは治療の過程に安心感をもって、また効果的に参加してゆけるような雰囲気や環境を援助のなかにつくること。
出典「ケースワークの原則」P18引用
個人を理解する上で役立つこと
人間に共通するさまざまな特徴をできるかぎり知っていること。
出典「ケースワークの原則」P4引用
クライエント理解で役立つこと
・パーソナリティがどのように発達して変化するのか。
・パーソナリティが生活上のストレスにいかに反応するのか(正常な反応も異常な反応も含めて)
出典「ケースワークの原則」P4引用
人間関係と幸福について
バイスティックは、「人と人とのあいだで営まれるさまざまな関係にこそ、人間に真の幸福をもたらす主要な、おそらくは唯一の源泉と考えられるからである」と人間関係と幸福について述べております。(ケースワークの原則P4)
「貧しい人間関係は不幸の源泉」であり、逆に「豊かな人間関係は幸福の源泉」ともいえます。
すなわち経済的に貧しい家庭が必ずしも不幸でもなければ、裕福な家庭が必ずしも幸福とは限らないのです。
幸せについて
・この世でもっとも豊かな人は、真の友人をたくさんもつ人(古いことわざ)
・家庭における幸福:豊かであり満足できる家族関係。
・生産的で良好な職場:従業員同士、経営者と従業員の関係が良好であることが要素の一つ。
不幸せについて
貧しい人間関係こそ、人に不幸をもたらす源泉。
※例)貧しい親子関係→パーソナリティに外傷を与える。
※例)精神医学では、貧しい人間関係が神経症や精神病の基礎要素になる。
+α~Wellbeing
・Having(その人がもっているもの)をとって、とって最後に残るものは何か?
・Being(その人の存在)が残る。
・Beingに「Well」をつけてあげる。
・Well-Beingになる。
今社会福祉に限らず、「Wellbeing」という言葉がよく出てくるような世の中になってきました。
死生学を日本で広めたアルフォンス・デーケンも、「若いうちは所有というものを重視するが、年老いていくと内面が重要になってくる」という言葉を述べております。
真の幸福というものは、物を所有したり使用する中にはないものと言われております。
物それ自体が、快適さや満足さを与えることはあるが、実は「満足のゆく人間関係が促進されること」がなければ、間接的に幸福に寄与することはないとのことです。
このように「人間関係と幸福」についてもバイスティックは述べております。
7つのニーズ
バイスティックは、心理社会的問題を抱えているクライエントには共通のニーズがあることを述べております。
☆7つのニーズについて
1. ケースではなく一人の個人として迎えられ、対応して欲しいというニードを持っている | 個別化 |
2. 否定的な感情と肯定的な感情の両方を表現する必要があるというニードを持っている。 | 意図的な感情表出 |
3. 弱さや欠点、失敗をもっていても、一人の価値ある人間として、あるいは生まれながら尊厳をもつ人間として受け止められたいというニードを持っている。 | 統制された情緒的関与 |
4. 感情表現に対して共感的な理解と適切な反応を得たいというニードを持っている。 | 受容 |
5. 陥っている困難について、一方的に非難されたり、叱責されたくないというニードを持っている。 | 非審判的態度 |
6. 自分の人生に関する選択と決定を自ら行いたいというニードを持っている。 | 自己決定 |
7. 自分に関する内容の情報をできる限り秘密のままで守りたいというニードを持っている。 | 秘密保持 |
このように、「ニーズが先にあって原則がある」という流れが本来のバイスティックの考え方になります。
また、クライエントはこれらのニーズを「直接言葉で表現することはあまりないだろう」述べております。
援助者は、言葉以外にある情緒や態度から情報を得る感受性の豊かさも必要不可欠であり、それが力動的な相互作用のはじまりとなっていくのです。
相互作用の3つの方向
バイスティックは援助関係を「ケースワーカーとクライエントの間で形成される、態度と情緒による力動的な相互作用」と指しました。
また、この相互作用は「3つの方向性を持っている」ということで以下にまとめていきます。
☆相互作用の3つの方向
第1の方向 | クライエント ⇒ ケースワーカー (ニードを打ち明ける段階) |
第2の方向 | ケースワーカー ⇒ クライエント (ニードを感知したことを態度で伝える) |
第3の方向 | クライエント ⇒ ケースワーカー (尊重してくれることに気づき伝え返す) |
第1の方向
第1の方向
クライエントのニード
クライエントからケースワーカーに向けて発信される相互作用。
第1の方向は、クライエントのニードからはじまります。
この時に重要なのが、クライエントは自分の悩みを打ち明けなければならないことに伴って、不安や恐れを抱いているということです。
不安や恐れ
・この人は私の話を温かく聴いてくれるだろうか?
・私を失敗者やダメな人など見なさないだろうか?
・似たようなケースを提示して、当てはめないだろうか?
・望んでいない意見や価値観を押し付けないだろうか?
このようにクライエントは悩みと一緒に、恐れや不安も抱いております。
第2の方向
第2の方向
ケースワーカーの反応
ケースワーカーからクライエントに向けられる相互作用。
第2の方向は、クライエントのニーズを受けて、今度はケースワーカーの反応や相互作用になります。
クライエントのニーズは、言葉のみならず態度でも伝えられます。
よってケースワーカーも、「態度を通して、ニーズを感知したことを伝える」ことが重要になります。
また、このような反応は最初から備わっているものではなく、「ケースワーク過程を通じて深まっていく生き物である」とバイスティックは表現されております。
第3の方向
第3の方向
クライエントの気づき
クライエントからケースワーカーへ発信される相互作用。(再び)
クライエントがケースワーカーに対して、自分を尊重してくれる姿勢や態度を取ろうとしていることに気づきはじめます。
そして、そのような反応を受け取ったことを今度は伝え返そうとします。
単純な言葉で表現すると「安心した」という形を言葉もしくは、態度にて表現します。
バイスティックの7原則
ここまで、「クライエントのニード」や「人間関係と幸福」について、「力動的な相互作用」について述べてきました。
これらを踏まえて以下7つの原則の紹介になります。この7つの原則はケースワーカーにとっての「行動規範」となりますので、知識として備えておきましょう。
個別化の原則
1. クライエントのニード | ケースではなく、一人の個人として迎えられ対応して欲しい |
2. 原則 | 「個別化」の原則 |
3. 原則の内容 | 一人ひとりのクライエントがそれぞれ異なる独特な性質をもっていると認め理解する |
バイスティックの7原則における「個別化の原則」とは、援助者がクライエントを一人の独立した個人として理解し、関わることの重要性を強調した原則です。
この原則は、クライエント一人ひとりが独自の背景や特性、経験を持っており、一般化された対応ではなく、その個々のニーズや状況に合わせた支援が必要であるとしています。
クライエントを個人として捉えることは、一人ひとりのクライエントがそれぞれに異なる独特な性質をもっていると認め、それを理解することである。
出典:「ケースワークの原則」P36引用
意図的な感情表出の原則
1. クライエントのニード | 否定的な感情と肯定的な感情のどちらも表現する必要性がある |
2. 原則 | 「意図的な感情表出」の原則 |
3. 原則の内容 | 感情表現を非難することなく認識し、援助という目的をもって耳を傾ける |
バイスティックの7原則における「意図的な感情表出」は、援助者がクライエントに対して自分の感情を意図的に表現することの重要性を強調しています。これは、援助関係において信頼関係を築き、クライエントの自己理解や成長を促すために有効です。
クライエントの感情表現を大切にするとは、クライエントが彼の感情を、とりわけ否定的感情を自由に表現したいというニードをもっていると、きちんと認識することである。
ケースワーカーは、彼らの感情表現を妨げたり、非難するのではなく、彼らの感情表現に援助という目的をもって耳を傾ける必要がある。
そして、援助を進める上で有効であると判断するときには、彼らの感情表出を積極的に刺激したり、表現を励ますことが必要である。
出典:「ケースワークの原則」 P54~55引用
統制された情緒的関与の原則
1. クライエントのニード | 弱さや欠点、失敗を持っていても一人の価値ある人間として、あるいは生まれながら尊厳をもつ人間として受け止められたい |
2. 原則 | 「統制的な情緒的関与」の原則 |
3. 原則の内容 | 援助者は自分の感情を自覚して吟味し、クライエントの感情に適切に反応する |
バイスティックの7原則における「統制された情緒的関与の原則」は、援助者がクライエントに対して感情的な関与を適切にコントロールしながら行うことの重要性を強調しています。この原則は、援助者がクライエントの感情に対して共感的に反応する一方で、自身の感情を適切に統制し、プロとしての関係を維持することを求めます。
ケースワーカーが自分の感情を自覚して吟味するとは、まずはクライエントの感情に対する感受性をもち、クライエントの感情を理解することである。
そして、ケースワーカーが援助という目的を意識しながら、クライエントの感情に、適切なかたちで反応することである。
出典:「ケースワークの原則」P77引用
受容の原則
1. クライエントのニード | 感情表現に対して共感的な理解と適切な反応を得たい |
2. 原則 | 「受容」の原則 |
3. 原則の内容 | ありのまま(the real)を受け入れる。 (the good ではない) |
バイスティックの7原則における「受容の原則」は、援助者がクライエントをありのままの姿として受け入れることの重要性を強調しています。この原則は、クライエントが自分自身を理解し、成長するための基盤を提供するために不可欠です。
ケースワーカーが、クライエントの人間としての尊厳と価値を尊重しながら、彼の健康さと弱さ、また好感をもてる態度ともてない態度、肯定的感情と否定的感情、あるいは建設的な態度および行動と破壊的な態度および行動などを含め、クライエントを現在のありのままの姿で感知し、クライエントの全体に係ることである。
しかし、それはクライエントの逸脱した態度や行動を許容あるいは容認することではない。
つまり、受け止めるべき対象は、「好ましいもの」(the good)などの価値ではなく、「真なるもの」(the real)であり、ありのままの現実である。
出典:「ケースワークの原則」 P113~114引用
非審判的態度の原則
1. クライエントのニード | 陥っている困難について一方的に非難されたり、叱責されたくない |
2. 原則 | 「非審判的態度」の原則 |
3. 原則の内容 | クライエントを一方的に非難しない |
バイスティックの7原則における「非審判的態度の原則」は、援助者がクライエントに対して判断や批判をせずに接することの重要性を強調しています。この原則は、クライエントが自分の感情や経験を自由に表現できる安全な環境を提供し、効果的な援助関係を築くために欠かせません。
ケースワーカーは、クライエントに罪があるのかないのか、あるいはクライエントがもっている問題やニーズに対してクライエントにどのくらい責任があるのかなどを判断すべきではない。
しかし、われわれはクライエントの態度や行動を、あるいは彼がもっている判断基準を、多面的に評価する必要はある。
また、クライエントを一方的に非難しない態度には、ワーカーが内面で考えたり、感じたりしていることが反映され、それらはクライエントに自然と伝わるものである。
出典:「ケースワークの原則」 P141引用
自己決定の原則
1. クライエントのニード | 自分の人生に関する選択と決定を自ら行いたい |
2. 原則 | 「自己決定」の原則 |
3. 原則の内容 | クライエントの自己決定を促して尊重する |
バイスティックの7原則における「自己決定の原則」は、クライエントが自分の問題に対して決定を下す権利と責任を持つことを強調する原則です。この原則は、クライエントが自己の意思で決定を行うことで、自立性や自己効力感を高めることを目的としています。
クライエントの自己決定を促して尊重するという原則は、ケースワーカーが、クライエントの自ら選択し決定する自由と権利そしてニードを、具体的に認識することである。
また、ケースワーカーはこの権利を尊重し、そのニードを認めるために、クライエントが利用することのできる適切な資源を地域社会や彼自身のなかに発見して活用するよう援助する責務をもっている。
さらにケースワーカーは、クライエントが彼自身の潜在的な自己決定能力を自ら活性化するように刺激し、援助する責務をもっている。
しかし、自己決定というクライエントの権利は、クライエントの積極的かつ建設的決定を行う能力の程度によって、また市民法・道徳法によって、さらに社会福祉機関の機能によって、制限を加えられることがある。
出典:「ケースワークの原則」 P164引用
秘密保持の原則
1. クライエントのニード | 自分に関する内容の情報をできる限り秘密のままで守りたい |
2. 原則 | 「秘密保持」の原則 |
3. 原則の内容 | 秘密を保持して信頼感を醸成する |
バイスティックの7原則における「秘密保持の原則」は、クライエントの情報や相談内容を他者に漏らさないことの重要性を強調しています。この原則は、クライエントが安心して支援を求めることができる環境を提供するために不可欠です。
クライエントが専門的援助関係のなかでうち明ける秘密の情報を、ケースワーカーがきちんと保全することである。
そのような秘密保持は、クライエントの基本的権利にもとづくものである。
それはケースワーカーの倫理的な義務でもあり、ケースワーク・サービスの効果を高める上で不可欠な要素でもある。
しかし、クライエントのもつこの権利は必ずしも絶対的なものではない。
なお、クライエントの秘密は同じ地域福祉機関や他機関の他の専門家にもしばしば共有されることがある。
しかし、この場合でも、秘密を保持する義務はこれらすべての専門家を拘束するものである。
出典:「ケースワークの原則」 P190引用
原則まとめ
「個別化」の原則 | 一人ひとりのクライエントがそれぞれ異なる独特な性質をもっていると認め理解する |
「意図的な感情表出」の原則 | 感情表現を非難することなく認識し、援助という目的をもって耳を傾ける |
「統制的な情緒的関与」の原則 | 援助者は自分の感情を自覚して吟味し、クライエントの感情に適切に反応する |
「受容」の原則 | ありのまま(the real)を受け入れる。 (the good ではない) |
「非審判的態度」の原則 | クライエントを一方的に非難しない |
「自己決定」の原則 | クライエントの自己決定を促して尊重する |
「秘密保持」の原則 | 秘密を保持して信頼感を醸成する |
以上ここまでバイスティックの7原則について紹介でした。
バイスティックの7原則は「援助」という視点では要素となりますが、「良好な人間関係を築く」となれば性質になるとのことです。この原則は、面接技術はもちろん対人援助全般にも役立ち、さらには福祉の領域を超えて人間関係に関わるもの全般に通じる(企業や組織、コミュニティなど)とも言えるかもしれません。
社会福祉士国家試験問題
社会福祉士国家試験で出題されたバイスティックに関連する問題を振り返ってみます。
それぞれ設問の内容が適しているかどうか確認してみましょう。
第29回-106.1 | 「自己決定の原則」は、クライエント自身や第三者に重篤な危害が及ぶことが想定される場合においても優先する。 | 正解 OR 不正解 |
第29回-106.2 | 「受容の原則」とは、ワーカーの個人的な価値観と一致する場合において、クライエントを受け止めることである。 | 正解 OR 不正解 |
第29回-106.3 | 「個別性尊重の原則」とは、他のクライエントと比較しながら、クライエントの置かれている状況を理解することである。 | 正解 OR 不正解 |
第29回-106.4 | 「非審判的態度の原則」とは、クライエントを一方的に非難したり、判断しないことである。 | 正解 OR 不正解 |
第29回-106.5 | 「統制された情緒的関与の原則」とは、クライエント自身が自らの情緒的混乱をコントロールできるようにすることである。 | 正解 OR 不正解 |
第34回-116.1 | 意図的な感情表出の原則とは、クライエントのありのままの感情を大切にし、その表出を促すことである。 | 正解 OR 不正解 |
第34回-116.3 | 個別化の原則とは、他のクライエントと比較しながら、クライエントの置かれている状況を理解することである。 | 正解 OR 不正解 |
第34回-116.4 | 受容の原則とは、ソーシャルワーカーがクライエントに受け入れてもらえるように、誠実に働き掛けることである。 | 正解 OR 不正解 |
第34回-116.5 | 非審判的態度の原則とは、判断能力が不十分なクライエントを非難することなく、ソーシャルワーカーがクライエントの代わりに意思決定を行うことである。 | 正解 OR 不正解 |
※このように第29回と第34回では似たような問題形式で出題されております。
社会福祉士国家試験~設問解答
以下それぞれについて解答になります。
第29回-106.1
「自己決定の原則」は、クライエント自身や第三者に重篤な危害が及ぶことが想定される場合においても優先する。
重篤な危害が及ぶことが想定される場合においてまで優先することはありません。命はなによりも優先されるものです。こちらは「言い過ぎ表現」となり不適切になります。
第29回-106.2
「受容の原則」とは、ワーカーの個人的な価値観と一致する場合において、クライエントを受け止めることである。
ソーシャルワーカーの価値観ではなく、クライエント自身を人間として尊厳や価値を尊重して、ありのままの現実を受け止めることにあります。よって不適切になります。
第29回-106.3
「個別性尊重の原則」とは、他のクライエントと比較しながら、クライエントの置かれている状況を理解することである。
一人のケースとしてではなく一人の人として取り扱って欲しいというニーズがあるように、比較しながらという表現が不適切になります。一人ひとりのクライエントが独特の性質をもっているものと認識します。
第29回-106.4
「非審判的態度の原則」とは、クライエントを一方的に非難したり、判断しないことである。
こちらは適切な表現となります。Don't judgeという姿勢は、先入観に引っ張られずその人を捉える上でも重要になります。
第29回-106.5
「統制された情緒的関与の原則」とは、クライエント自身が自らの情緒的混乱をコントロールできるようにすることである。
クライエントではなく、ソーシャルワーカーがクライエントの感情に適切な形で反応することが求められます。よって不適切になります。
第34回-116.1
意図的な感情表出の原則とは、クライエントのありのままの感情を大切にし、その表出を促すことである。
こちらは適切な表現となります。ありのままという表現があるように、肯定的な感情も否定的な感情のどちらも必要となります。
第34回-116.4
受容の原則とは、ソーシャルワーカーがクライエントに受け入れてもらえるように、誠実に働き掛けることである。
受容はソーシャルワーカー自身がクライエントをありのまま受け止めるものです。よって不適切な表現となります。
第34回-116.5
非審判的態度の原則とは、判断能力が不十分なクライエントを非難することなく、ソーシャルワーカーがクライエントの代わりに意思決定を行うことである。
7つの原則のうち「自己決定の原則」に反する表現である点からも不適切な表現となります。ソーシャルワーカーはクライエントの声をアドボケイト(代弁)することはあっても、代わりに意思決定をするものではありません。
まとめ
以上が「バイスティックの7原則」や「ケースワークと援助関係」について紹介記事でした。
良好な援助関係というものは、問題解決に向けて働きかけるため必須であるのみならず、根本的に援助を維持するためにも必要不可欠なものとなっております。
また、この援助関係は、必ずしも必要でない専門職もあります。
例えば外科医や歯科医、弁護士では、手術の成功や治療、訴訟に勝つことを目的とすれば、極論援助関係は不要です。
しかし、ケースワーカーにとっては援助関係は不可欠なものであり、専門職として独自性のある部分とも言えるのかもしれません。
※ちなみに最後ではありますが、ケースワーカーという言葉が一般的であった時代から、現代はソーシャルワーカーという言葉が一般的になります。しかし、現代も福祉事務所などでケースワーカーという表現が使われております。
ポイント
ケースワーカーにとって援助関係は不可欠なものである。
「バイスティックといえば7つの原則」だけではなく、その中にある大切なことを世の中に伝えたく、記事を書きました。
他にも当サイトでは社会福祉の歴史や知識について、情報を提供していきますので、どうぞよろしくお願いします。
☆参考・引用文献
ケースワークの原則 援助関係を形成する技法 F・Pバイスティック著 尾崎新、福田俊子、原田和幸訳 誠信書房
この本は大変有名な本であるため、一度は手に取ってみることをオススメします。