社会福祉の歴史

エリザベス救貧法とは?成立過程や特徴について解説~社会福祉の発展過程を学ぶ

エリザベス救貧法とは?成立過程や特徴について解説~社会福祉の発展過程を学ぶ

はじめに

本記事では、エリザベス救貧法の成立や特徴について、社会福祉士や精神保健福祉士といったソーシャルワーカーを対象に、要点やキーワードをわかりやすくまとめております。

当HPでは学びの入口として、社会福祉の発展過程をテーマに、イギリスの社会福祉政策を中心として振り返っていきます。

なぜイギリスの歴史?

イギリスは前例がない中で、世界最初の福祉国家を創り上げた。

以下記事についてのご紹介になります。

どんな人を対象とした記事?

・エリザベス救貧法について学びたい。

・将来社会福祉に関わる仕事に就きたい。

・社会福祉士や精神保健福祉士の国家試験合格を目指したい。

・社会福祉を学び自身を成長させたい。

この記事を読むとどうなる?

・社会福祉についての知識が増える。

・物事の視点や価値観が変わる。

・思わず誰かに伝えたくなる。

社会福祉はこれまで、熱い思いで時代を切り開いてきた方々がいて、今につながっております。

社会福祉の価値というものは、きっと歴史や源流を辿る中で磨かれるものでもあります。

ポイント

社会福祉は一重にものの見方にあり。

それでは以下ご覧ください。


エリザベス救貧法について

エリザベス救貧法は、イギリスで制定された貧困に関係する法律(Poor Low)になります。

社会福祉の発展過程を学ぶにあたって重要なのが「イギリスの歴史」となります。

また、社会福祉にとって「貧困」というキーワードは切っても切れない関連があります。

その中でこのエリザベス救貧法というものは、”貧困という問題を社会で何とかしよう”とする近代社会福祉制度の出発点とも言われております。

ポイント

エリザベス救貧法は、近代社会福祉制度のはじまりとも言われる。


エリザベス救貧法のキーワード

エリザベス救貧法のキーワードを確認していきます。

エリザベス救貧法のキーワード

・時代:1601年のイギリス

・背景:エンクロージャー(囲い込み運動)

・労働能力による分類

ア)労働能力のない者:貧民院による保護

イ)労働能力のある者:労働(ワークハウス)

ウ)貧民児童:徒弟に出す(職業親方のもとで労働する)

・救貧税の徴収:教区ごと(まだ全国一律ではない)

このように、エリザベス救貧法は貧困や浮浪といった様々な課題を、社会で対策しようとしたことで、「近代社会福祉制度のはじまり」と言われております。

この考え方は、今後も見直しを図りながら、政策に大きな影響を与えていくものとなります。


エンクロージャーと貧困

16世紀にイギリスの封建制度は崩壊となりました。

実はこの封建社会という構造は様々な制約がある一方、それに従う限り生活はある程度安定していたとも言われております。

その封建制度は崩壊されたことにより「貧困階層」というものが作られていったそうです。

1348年~49年に黒死病(ペスト)が流行り病となり多くの人が亡くなりました。

やがて17世紀にもなると黒死病による大幅な人口減少から一遍し、人口増加(とりわけ都市部において)が生じておりました。

ロンドンでは人口が約3倍にもなったということもあり、その背景には「エンクロージャー(囲い込み)」がありました。

エンクロージャーとは

領主が牧羊場にするために共同地を囲い込み、小作人(農民)を暴力的に追い出すことが行われた歴史的な社会問題

トマス・モアの代表作であるユートピアでは「羊が人を食う」という表現がされております。

これによって農民は浮浪人となり、仕事や救済を求めて、都市部に人口が集中したのです。


1531年法(ヘンリ8世)~プラスα

エリザベス救貧法と聞くと1601年という年が連想されます。

しかしエリザベス1世がお亡くなりになったのは1603年です。つまり1601年は晩年ということになります。

実は当然その過程がいくつか分かれておりますので簡単に流れをみていきましょう。

実は救貧法のはじまりはヘンリ8世の1531年法とされております。貧困者を以下のように分類しました。

1531年法より

・impotent poor (労働不能な者)

・ablebodied poor(労働可能な者)

このように、貧困者を労働力の有無で分類されたのはこの頃で、救貧法の基本的な考え方ともいえるでしょう。

やがて1536年法では、もう少し具体的になっていきます。


1536年法より

・impotent poor (労働不能な者) → 厳しい処罰

・ablebodied poor(労働可能な者) → 仕事の提供

・貧困児童 → 強制的に徒弟に出す(職人の親方のもとで労働し生活する)

施与の組織的徴収

このようにエリザベス救貧法の原理が育まれていきます。

+α 救貧法のはじまり

救貧法のはじまりは、エリザベス救貧法以前に原理が育まれていた。


1572年法と1576年法(エリザベス1世)

やがてエリザベス1世の時代になります。

1572年法では、はじめて「労働能力のない貧民の保護」を規定しました。

浮浪人の処罰に関しても監獄に収容というものが加わりました。

さらに労働能力のある者をさらに労働意欲によって分類されました。

1572年法より

・労働意欲のある者 → ワークハウス(労役所)

・労働意欲のない者 → 矯正院

・労働能力のない者 → 貧民院

このように貧民を労働力とする考え方が生まれていきます。


1597年法(エリザベス1世)

1597年法は救貧法の集大成とも言われております。

1597年法より

・浮浪者を厳しく処罰する一方で、その原因を探り、仕事に就かせることを目的

・どうしても上記が不可能な場合救済の手を差し伸べる

このような総合的な救貧法が制定されました。

またエンクロージャーにより貧困となった農民層を救済するべく、「耕作の維持に関するもの」「部落の衰退を回避するもの」も定められました。


1601年法(エリザベス1世)

このような法制度の育みを経て1601年法が制定されます。

そこでは「貧民監督官」という、各教区ごとに救貧法の実施の判断を下す役割を担う者が配置されました。

貧民監督官は課税権もあり、業務遂行に必要な経費を各教区に課税することができたそうです。

また当時のイギリスでは教区ごとに救貧税(住民が納める固定資産税)を納めることとなっておりました。

これは当時は「教区ごと」でありますが、後々「全国一律」になっていきます。

貧民監督官の役割

①自らを養うことができず、生計を立てるための職業をもたない既婚、未婚のすべての人々を就業させること。

②貧民を就業させるために、亜麻、大麻、羊毛、糸、鉄、その他の必要な製品および原料を準備すること。

③肢体障害者、高齢者、視覚障害者、労働不能者の救済と、そのような人々の子どもを徒弟に出すこと。

④両親が扶養できないと考えられるすべての子どもを徒弟に出すこと。徒弟に出された子どもが、男子であれば24歳なるまで、女子の場合は21歳または結婚まで徒弟を続けさせること。

※引用:社会福祉のあゆみ 社会福祉思想の軌跡 金子光一著 有斐閣アルマ 第1章貧困問題の発生と旧救貧法 第1部 初期の貧困者対策 P17:19行~18:2行

このような流れがエリザベス救貧法の概要になります。


社会福祉士国家試験~選択肢より

エリザベス救貧法について、社会福祉士国家試験を参考に確認していきます。

第22回【問題23】

・エリザベス救貧法(1601年)では、労働能力のない貧民のうち親族による扶養を受けられない者に対して救済策が設けられたが、労働能力のある貧民については対象外とされた。

第31回【問題24】

・エリザベス救貧法(1601年)により、全国を単一の教区とした救貧行政が実施された。

国家試験の問題は、アウトプットを通じて知識を定着させることにも役立ちます。

これらの選択肢の内容が適しているかどうか確認してみてください。


社会福祉士国家試験~選択肢解答

先ほどの社会福祉士国家試験設問の解答になります。

第22回【問題23】

・エリザベス救貧法(1601年)では、労働能力のない貧民のうち親族による扶養を受けられない者に対して救済策が設けられたが、労働能力のある貧民については対象外とされた。

労働能力のあるなしに関わらず救済の対象としたので間違いになります。


第31回【問題24】

・エリザベス救貧法(1601年)により、全国を単一の教区とした救貧行政が実施された。

全国一律は救貧法改正(1834年)の頃になります。よって間違えになります。

このように救貧法改正と比較されることが多いので注意しましょう。


まとめ

エリザベス救貧法のキーワード

・時代:1601年のイギリス

・背景:エンクロージャー(囲い込み運動)

・労働能力による分類

ア)労働能力のない者:貧民院による保護

イ)労働能力のある者:労働(ワークハウス)

ウ)貧民児童:徒弟に出す(職業親方のもとで労働する)

・救貧税の徴収:教区ごと(まだ全国一律ではない)

このようにイギリスの封建制度の崩壊とエンクロージャーといった様々な社会問題を背景に、著しい貧困問題を社会で対策しようとしました。

そのためこのエリザベス救貧法というものは「社会福祉制度のはじまり」とも言われております。

労働能力の有無による分類、労働意欲の有無による分類、ワークハウスや徒弟制度、救貧税といったキーワードはこの頃に出てきます。

哲学者のハイデガーは「歴史を近いところからではなく根源から辿る」という視点を当時の哲学の世界に入れたように、社会福祉に携わる者としてイギリスの歴史は押さえておく必要があります。そこに源流というものが存在するからです。

また続きを紹介していければと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

☆この記事を書くにあたって参考にした書籍

社会福祉のあゆみ 社会福祉思想の軌跡 金子光一著 有斐閣アルマ 第1章貧困問題の発生と旧救貧法 P11~16

オススメ記事一覧

1

はじめに 本記事は、社会福祉を学ぶ方向けに、ブースとラウントリーの貧困調査についての要点やキーワードをわかりやすくまとめております。 ブースは汽船会社の実業家として、ラウントリーはチョコレート会社の跡 ...

2

はじめに 本記事では、F.バイスティックが提唱した「バイスティックの7原則」について、援助関係の本質という視点から、「医療・介護・福祉・保育従事者」に向けて現場に活かすことのできる知識としてまとめてあ ...

3

はじめに 本記事では、慈善組織協会(COS)について、イギリスやアメリカにおける歴史展開や社会福祉士国家試験について網羅的な情報をまとめております。 社会福祉を学ぶ方には必見の内容となっております。 ...

4

はじめに 本記事では、「福祉とは何か?」と「福祉の人は誰か?」について考えるというテーマで、福祉に関心のある人に向けたコラムをまとめていきます。 皆さんの中にもきっと「福祉って何だろう?」という問いを ...

5

はじめに 本記事では、ソーシャルワークの理論の起源でもある「診断主義アプローチ」について、専門書を参考文献に要点やキーワードをまとめております。社会福祉士国家試験合格を目指す方や、社会福祉を学ぶ方にと ...

-社会福祉の歴史
-, , ,