社会福祉の知識

診断主義アプローチについて要点キーワードまとめ|ソーシャルワークの理論を辿る

はじめに

本記事では、ソーシャルワークの理論の起源でもある「診断主義アプローチ」について、専門書を参考文献に要点やキーワードをまとめております。社会福祉士国家試験合格を目指す方や、社会福祉を学ぶ方にとって必見の内容となっております。

日本ではソーシャルワーカーが国家資格化されたことにより、少しずつ学ぶ内容も変化され、理論よりも法律や制度中心に学習される傾向があります。

しかし、本来的にソーシャルワーカーが専門職であるのであれば、心理学や社会学、理論や展開といった学問としての知識は重要になります。

個人的にではありますが、「福沢諭吉=学問のすすめ」(学問のすすめを実際に読んだ人は数少ない)というあたかも知識がクイズ番組化した日本において、専門職としての知識がクイズ番組化しないようにすることは筆者が感じる課題でもあります。

そのため当HPにおいては、他の社会福祉士関連のブログとは異なり、引用文献に専門書を活用することを心掛けております。

実践者の心得

「知識」と「技術」というものは一緒である。

一番大切なのは制度やサービスを運用し、またそれらを届ける「人」です。

これからの日本において、社会福祉に関わる人財がより一層増えていくことを願っております。

それでは「診断主義アプローチ」について以下ご覧ください。


機能主義アプローチについて要点キーワードまとめ|ソーシャルワークの理論を辿る - SOCIAL CONNECTION (socialconnection-wellbeing.com)

【更新】機能主義アプローチについて記事をまとめましたので、本記事閲覧後良かったらこちらもご覧ください。


キーワード

診断主義アプローチについて、最初にキーワードを簡単にまとめていきます。

キーワード

・M.リッチモンドがケースワークを体系化したことに起源を置く。

・フロイトの精神分析理論に影響を受ける。

・G.ハミルトン、C.トール、A.ギャレットらによって診断主義派として発展していく。

・診断主義派は「クライエントの過去」に焦点を置いている。

・診断主義派の伝統を受け、F.ホリスが「心理社会的アプローチ」を提唱する。

このように診断主義派はフロイトの精神分析理論に影響を受けたことから「フロイト派」とも呼ばれております。

それぞれについて以下まとめていきます。


メアリー・リッチモンド

メアリー・リッチモンドは、「ケースワークの母」とも呼ばれるほど、ソーシャルワークにおいて重要な人物となります。

M.リッチモンドは1917年に「社会診断(Social Diagnosis)」を発表し、ケースワークをはじめて学問的に体系化しました。

その後も、1922年に「ソーシャル・ケース・ワークとは何か?(What is Social Case Work?)」を出版し、ケースワークの理念を論じました。

M.リッチモンドはケースワークの定義を以下のようにしております。

M.リッチモンドの定義

Social case work consists of those processes which develop personality through adjustments consciously effected,individual by individual, between men and their enviroment.

(ケースワークとは、一定の意図のもとに、個人と社会関係を、個々に応じて、総合的に調整しながら、パースナリティの発展をはかろうとするさまざまなプロセスからなるものである。)

引用:人間の発見と形成:ソーシァル・ケースワークとはなにか リッチモンド著 杉本一義訳 誠信書房 1963年 P247 国立国会デジタルコレクションより

M.リッチモンドの定義

「ソーシャル・ケース・ワークは人間と社会環境との間を個別に、意識的に調整することを通じて、パーソナリティを発達させる諸過程からなり立っている。」(Richmond[1922],pp.98-99=小松訳[1991],57項

引用:社会福祉のあゆみ 金子光一著 有斐閣アルマ P61

M.リッチモンドは当時の時点で、人だけでなく、その人を取り巻く社会環境にも着目しておりました。

この先見の視点は、現在でも色あせることなく、ソーシャルワークにおいて重要な視点とされております。

以下M.リッチモンドという人物の生い立ちについて少し紹介します。

リッチモンドの生い立ち

・1861年にアメリカのイリノイ州ベルヴィルに生まれる。

・時代背景として「南北戦争」

・母は4歳の頃に結核で亡くなり、父も7歳の頃に結核で亡くなっている。そのためボルチモアにて祖母によって育てられる。兄姉もみんな出産直後、あるいは乳児期に亡くなっている。

・階級は中流階層でも貧しいとされており、近隣の人も同じような階層であった。

・義務教育制度は当時まだなく、近くに公立学校もあったが行かず、自宅で祖母や知人から読み書きを教わった。1冊の本を要約することが次の本を読む条件だった。

・1872年、編入試験を受けて、グラマー・スクールの5年生に入学、成績は極めて優秀であり、その後も13歳という最年少でボルチモアのイースタン・ハイスクールに入学した。

・卒業後は教職を志していたが、政治的コネクションがなく、工場に就職、その後ニューヨークに移り出版社の事務員を務めるが、結核の初期症状とマラリヤ罹患という健康問題からボルチモアに帰郷する。

・当時女性の地位は低く、貧しい生活を送っていたが、読書することと、読書を通じたクラブ活動(デュヴァリン・クラブやシェイクスピアの会など)で多くの友人を得ることができた。

・働きながら新聞で毎日求人広告をみる日々を送っていたある日、「ボルチモア慈善組織協会」の求人広告をみる、しかし「社会的地位があり~」という点で躊躇したが、周囲の後押しもあり、面接を経て、会計補佐として着任する。

☆参考文献:リッチモンドソーシャル・ケースワーク:「社会診断論」を中心に(有斐閣新書、古典入門)小松源助[ほか]著、有斐閣出版、第2章リッチモンドの生涯とケースワークの体系化、国立国会図書館デジタルコレクションより

その後、M.リッチモンドはボルチモアの慈善組織協会に着任する前に、1週間ボストンの慈善組織協会を見学する機会がありました。そこで迎えてくれたのが「ボストン慈善組織協会総主事のジルファ・スミス」になります。

J.スミスは熱心に慈善組織協会活動についてM.リッチモンドに指導してくれました。そして後にM.リッチモンドの大著「社会診断」がJ.スミスに捧げられていることからも、このJ.スミスとの出逢いが彼女自身に大きな影響を与えたものと推測されます。

そしてM.リッチモンドはボルチモアの慈善組織協会、フィラデルフィア慈善組織協会の運営において優秀な才能を発揮したのです。


1917年に発表された大著「社会診断」の構成について以下紹介になります。

社会診断の構成

大きく三部構成

☆第一部

”「社会的証拠」について、その内容と用途、種類、これを論拠とした「推論」の仕方等について論じている。”※P93-9~10行


☆第二部

”「社会的証拠」と「推論」を中心的な概念枠として、これを具体的に「社会的診断」へと導く過程を提示している。”※P93-13~14行


☆第三部

”以上の枠組の展開の過程を問題別に、たとえば、移民家族、母子世帯、未婚の母、遺棄児童、浮浪者、精神薄弱児等に関する具体的な「社会的診断」の展開の仕方を提示している。”※P94-9~11行


※引用:リッチモンドソーシャル・ケースワーク:「社会診断論」を中心に(有斐閣新書、古典入門)小松源助[ほか]著、有斐閣出版、第3章「社会的診断」の概念と構成、国立国会図書館デジタルコレクションより

※リッチモンドソーシャル・ケースワーク:「社会診断論」を中心に(有斐閣新書、古典入門)小松源助[ほか]著、有斐閣出版、第3章「社会的診断」の概念と構成P95図より引用、国立国会デジタルコレクションより


1922年に発表された「ソーシャルワークとは何か?」で掲げられた理念について以下紹介になります。

ケースワークの理念

ソーシャルワークとは何か?(1922年)

ケースワークの基本条件

①ケースワークとは、個人とその環境との間に働きかける調整作用である。

②ケースワークは個別的に行なう調整作用である。

③ケースワークの過程は結果を見通して行われる意識的調整である。

④ケースワークの過程の最終目標は人格(パーソナリティ)の発達におかれなければならない。

☆引用:ソーシャルワークの実践モデル 心理社会的アプローチからナラティブまで 久保紘章・副田あけみ編著 川島書店 第Ⅰ部ソーシャル・ケースワークの実践モデル P4より


このように診断主義アプローチの起源を辿るとM.リッチモンドになります。

その他、M.リッチモンドは法律や医学、心理学など幅広い分野の知見があったことや、また「貧困世帯」を起点にケースワークを考えたこと、専門職としての独自性の確立についてなど、様々な視点を持って活動をされておりました。

※M.リッチモンドは重要人物になりますので、また別の機会に記事にしたいと考えております。


ジークムント・フロイト

フロイト(ジークムント・フロイト)は精神分析理論を創設された方で、「無意識」「抑圧」「転移」「自由連想法」など、精神分析の領域のみならず、その理論はあらゆる分野に大きな影響を与えました。

そして1920年代半ば頃、ケースワークにおいても精神分析理論が導入されるようになりました。

ゆえに診断主義アプローチはフロイトの影響を受けていることから「フロイト派」とも呼ばれております。

精神分析理論は催眠法が起点となっているように、「あらゆる行動の原因は心の中にある」といった行動の原因を知ることに重きを置かれた理論になります。すなわち時系列でいえば「過去」に焦点をあてたものと言えます。

診断主義派

・「フロイト派」とも呼ばれる。←フロイトの精神分析理論に影響を受ける。

・「過去」を重視する考え方。←あらゆる行動の原因を知ることを重視。


また当サイトでは、今回の診断主義アプローチの記事を書く上で、精神分析理論に関する内容をまとめております。

防衛機制の種類と具体例まとめ~社会福祉士国家試験から福祉実践まで

イド・自我・超自我まとめ~精神分析理論の入口

転移と逆転移の意味とは?福祉実践につながる心理学の知識


ソーシャルワークは心理学が導入されたことにより、より専門性が育まれていきます。

このように診断主義アプローチはフロイトの精神分析理論に影響を受けて発展していきました。

また実践においても、上記3記事のフロイトに関する知識や理論は重要なので、良かったらご覧になってみてください。


ゴートン・ハミルトン

G.ハミルトン(Gordon.Hamilton)は、1940年に「ケースワークの理論と実際(Theory and Practice of Social Case Work)」を刊行し、診断主義の立場からケースワークを科学的に整理し、その発展に貢献された方になります。

G.ハミルトンはジャーナリストを目指し大学に入学、卒業後、赤十字社(ARC)、ニューヨーク慈善組織協会を経て、コロンビア大学ソーシャルワークスクールにて教鞭をとります。

ニューヨーク慈善組織協会では体調不良を理由にケースワーク業務を断念することになりますが、その才能は当時コロラド州の赤十字社にいたメアリー・リッチモンドに推薦されるほどでした。

またG.ハミルトンはコロンビア大学で教鞭とりながらも実践の機会を求め、病院や国の機関でも活動を行い、第二次世界大戦後は国際的な社会福祉にも携わりました。

G.ハミルトン

・1940年に「ケースワークの理論と実際(Theory and Practice of Social Work)」を刊行。

・診断主義派として、ケースワークを科学的に整理し発展に貢献。

G.ハミルトンは、「人間は生物社会的な有機体である」と述べ、ケースや問題などはケースワーカーからみると一種の「心理社会的過程」とみられのが常であると考えました。

ケースというものは「living event(生きた出来事)」であり、経済的、肉体的、精神的、情緒的、社会的な諸要因がその比率を変えながら存在していることから、「”すべての社会事業ケースは、内面的(inner)と、外面的(outer)の特徴をもっていて、人間と境遇、すなわち客観的実存とこれを経験する人に対してもつこの実在の意味とから成り立っているのである。”※P2~3引用」と述べております。

※引用・参考:ケースワークの理論と実際 上巻 著G.ハミルトン 三浦賜郎、仲村優一訳 有斐閣出版 第1章ソーシャル・ケースワークにおける基本的前提と方法、第1部心理社会的過程、国立国会図書館デジタルコレクションより

このようにG.ハミルトンは診断主義派としてケースワークの発展に貢献し、それは後に「心理社会的アプローチ」を提唱した、フローレンス・ホリスへと受け継がれていきます。


☆G.ハミルトンという人物については以下HPにて参照。

VCU Libraries SOCIAL WELFARE HISTORY PROJECT | Hamilton,Amy Gordon(1892-1967)


フローレンス・ホリス

フローレンス・ホリス(Florence Hollis)は、1964年に「ケースワーク:心理社会療法」を刊行し、「心理社会的アプローチ」を提唱された方になります。

診断主義派はリッチモンドを起源とし、その後G.ハミルトン、C.トール、A.ギャレットらによって理論が構築され、F.ホリスの「心理社会的アプローチ」へとつながっていきます。

F.ホリスは「状況の中の人(person-in-his,situation)」という視点からケースワークを捉えました。

状況の中の人

ケースワークの中心概念は”人と状況と、この両者の相互作用”の三重の相互連関性からなる”状況の中にある人間”(the-person-in-his,situation)の概念である。

引用:ケースワーク:心理社会的療法 フローレンスホリス著 黒川昭登、本出祐之、森野郁子訳 岩崎学術出版社 P8 国立国会図書館デジタルコレクションより

クライエントは人生において、多くの人や社会環境、社会情勢から影響を受けている(バラバラではない)ということから、ケースワークにおける相互作用というものは極めて複雑であるということを表現されております。

また、アプローチ名にも「心理・社会」というキーワードが入っているように、フロイトをはじめとする心理的な側面と、社会学をはじめとする社会的な側面の両者をF.ホリスは捉えました。

ケースワーク

ケースワークは、<逆機能>(dysfunctioning)の内的・精神的原因と、外的・社会的原因の両面を認識し、個人が社会関係の中で、自己の<要求>(needs)をより完全に満足させ、いっそう適切に機能することができるように援助することに努力している。

引用:同書P7より

F.ホリスの著書は、その後もMary E.Woodsにより1999年に第5版が出版され、時代の変化に合わせて更新されております。

このように、現代の日本では、ソーシャルワークに関する海外の書籍を日本語に翻訳して出版することは少なくなったのかもしれませんが、これまでソーシャルワークの発展に貢献されてきた方々は海外の最新の本や理論を日本語に翻訳して導入しようと試みていたことがあることを忘れてはいけません。

このF.ホリスの著書は「ケースワークの金字塔」とも呼ばれており、その理論的枠組みから技術、豊富な実践例の紹介など、一度は手に取ることをオススメとされております。


診断主義派と機能主義派

人の発達においては、ゲゼルによる「成熟優位説(遺伝説)」と、ワトソンによる「環境優位説」がそれぞれ提唱され「遺伝と環境」の構図で対立し、その後折衷論としてシュテルンが「輻輳説」を唱えたという発展過程がありました。

それと同じような構図がソーシャルワーク発展史においても存在しております。

それが、フロイト派とも呼ばれる「診断主義派」と、フロイトの弟子であるオットー・ランクの考え方を理論建てとされた「機能主義派」であり、これらの2つの理論が長らく対立していた時代があります。

ランクはもともとフロイトの弟子であり、近いところで活動を行っておりました。ある時、新しい理論を唱えフロイトにそれを報告したところ、猛反発をされたことから、両者は離れ、それぞれの立場での道を進んでいきます。

診断主義派

・フロイトの精神分析理論に影響を受ける。

・クライエントの生活史を辿ること、すなわち時系列でいえば「過去」に重きを置いている。

機能主義派

・ランクの意思心理学に影響を受ける。

・過去の経験ではなく、「現在」の経験を強調している。

このように両者の大きな相違点を言えば、フロイトが「過去」を重視した点に対して、ランクは過去を単に調査するだけなら意味を為さない(※ただし、過去についての知識が有益であることは認めている)と「現在」を重視した点が挙げられます。

H.アプテカーは著書「ケースワークとカウンセリング」の中で、フロイト派とランク派の概念を以下のように要約して述べております。

診断主義派の概念

1.行動を決定する要因としての無意識界

2.感情と態度における両面価値

3.現在の行動を決定する要因としての過去の体験

4.治療の本質的条件としての感情転移

5.すべての援助において処理さるべき要因としての抵抗

引用:H・H・アプテカー 坪上宏訳 ケースワークとカウンセリング 誠信書房P33 国立国会図書館デジタルコレクションより

機能主義派の概念

1.パーソナリティのなかにある組織する力としての意思

2.個人が自身を他と区別したいとおもうそのあらわれとしての対抗意思

3.治療的展開の源としての現在の経験

4.分離の重要性

5.人間に内在する創造力

引用:H・H・アプテカー 坪上宏訳 ケースワークとカウンセリング 誠信書房P34 国立国会図書館デジタルコレクションより

このように診断主義・機能主義論争が展開され、やがて統合の時代へとつながっていきます。


社会福祉士国家試験

以下にアウトプットの機会として、社会福祉士国家試験の問題を取り上げていきます。

国家試験合格を目指す方や、腕試しをしたい方はチャレンジしてみてください。

第32回ー101

ソーシャルワーク実践理論の基礎に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。

1.ランク(Rank,O.)の意思療法は、利用者の過去に着目し、利用者のパーソナリティの構造や自我の働きを捉える診断主義学派の礎となった。

2.ロス(Ross,M.)のコミュニティ・オーガニゼーション説は、地域における団体間調整の方法としてインターグループワークを提唱した。

3.ホリス(Hollis,F.)の心理社会的アプローチは、診断主義学派と機能主義学派、両アプローチの折衷アプローチであり、両学派の統合を試みた。

4.タフト(Taft,J.)ら機能主義学派は、ソーシャルワーカーが所属する機関の機能に着目し、機関におけるソーシャルワーカーの役割を重視した。

5.パールマン(Perlman,H.)の問題解決アプローチは、精神分析や自我心理学の理論を否定し、人・状況・その双方の関連性においてケースワークを捉えた。


☆解き方

①人物と提唱したものがリンクされているかを確認していきます。

1.「ランク」と「意思療法」

2.「ロス」と「コミュニティ・オーガニゼーション」

3.「ホリス」と「心理社会的アプローチ」

4.「タフト」と「機能主義学派」

5.「パールマン」と「問題解決アプローチ」

今回の設問では、人物と提唱したものはすべて適切である内容となっております。

続いて内容の方を確認していきます。


②提唱したものと、その内容が合っているか確認していきます。

第32回ー101

ソーシャルワーク実践理論の基礎に関する次の記述のうち、最も適切なものを1つ選びなさい。

1.ランク(Rank,O.)の意思療法は、利用者の過去に着目し、利用者のパーソナリティの構造や自我の働きを捉える診断主義学派の礎となった。

→ 「過去」と「診断主義学派」というキーワードがフロイト派の考えとなっております。ランク派は「現在」と「機能主義学派」がキーワードになるため、不適切となります。


2.ロス(Ross,M.)のコミュニティ・オーガニゼーション説は、地域における団体間調整の方法としてインターグループワークを提唱した。

→ インターグループワーク説は、ロスではなくニューステッターが提唱した内容のため不適切になります。


3.ホリス(Hollis,F.)の心理社会的アプローチは、診断主義学派と機能主義学派、両アプローチの折衷アプローチであり、両学派の統合を試みた。

→ ホリスは診断主義派の発展として、心理社会的アプローチを提唱しております。折衷アプローチはパールマンの問題解決アプローチが代表例となります。


4.タフト(Taft,J.)ら機能主義学派は、ソーシャルワーカーが所属する機関の機能に着目し、機関におけるソーシャルワーカーの役割を重視した。

→「機関の機能に着目した点」そして、「機関に所属するソーシャルワーカーの役割を重視した」という点は機能主義アプローチの考え方なので適切となります。

※ちなみに機関の枠で仕事することは実践者サイドからするとネガティブに捉えられるかもしれませんが、一方でソーシャルワーカーを守るためでもあると述べられております。またの機会にご紹介します。


5.パールマン(Perlman,H.)の問題解決アプローチは、精神分析や自我心理学の理論を否定し、人・状況・その双方の関連性においてケースワークを捉えた。

→ 「人・状況・その双方の関連性」という言葉は、選択肢3のホリスのキーワードであり不適切になります。つまり3と5の内容は入れ替えとなっております。

以上が社会福祉士国家試験の設問と解答になります。


まとめ

ここまでを振り返り再度キーワードを確認していきます。

初見と比べて知識がついたことにより、キーワードがより深くみえるようになったのではないでしょうか?

キーワード

・M.リッチモンドがケースワークを体系化したことに起源を置く。

・フロイトの精神分析理論に影響を受ける。

・G.ハミルトン、C.トール、A.ギャレットらによって診断主義派として発展していく。

・診断主義派は「クライエントの過去」に焦点を置いている。

・診断主義派の伝統を受け、F.ホリスが「心理社会的アプローチ」を提唱する。

このように、フロイトの精神分析理論をはじめとした心理学がソーシャルワークにも導入され発展していきますが、それが絶対正義ではなく、ランクの理論が導入されたことにより、診断主義派と機能主義派による対立が繰り広げられていた歴史があります。

その後、折衷論としてパールマンをはじめとする理論が発展していき、そこから多岐に渡るアプローチが展開されていきます。

今後もソーシャルワークの理論について、当HPでも触れていきますので、またの機会にぜひよろしくお願いします。


機能主義アプローチについて要点キーワードまとめ|ソーシャルワークの理論を辿る - SOCIAL CONNECTION (socialconnection-wellbeing.com)


☆参考文献

・人間の発見と形成:ソーシァル・ケースワークとはなにか リッチモンド著 杉本一義訳 誠信書房 国立国会図書館デジタルコレクションより

・リッチモンドソーシャル・ケースワーク:「社会診断論」を中心に(有斐閣新書、古典入門)小松源助[ほか]著、有斐閣出版 国立国会図書館デジタルコレクションより

・ケースワーク:心理社会的療法 フローレンスホリス著 黒川昭登、本出祐之、森野郁子訳 岩崎学術出版社 国立国会図書館デジタルコレクションより

・H・H・アプテカー 坪上宏訳 ケースワークとカウンセリング 誠信書房  国立国会図書館デジタルコレクションより

・ソーシャルワークの実践モデル 心理社会的アプローチからナラティブまで 久保紘章・副田あけみ編著 川島書店

・ソーシャルワーク理論入門 デビッド・ハウ著 杉本敏夫監訳 (株)みらい

・社会福祉のあゆみ 金子光一著 有斐閣アルマ

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