社会福祉の歴史

慈善組織協会(COS)の要点キーワードまとめ~社会福祉の発展過程を学ぶ

はじめに

本記事では、慈善組織協会(COS)について、イギリスやアメリカにおける歴史展開や社会福祉士国家試験について網羅的な情報をまとめております。

社会福祉を学ぶ方には必見の内容となっております。

ケースワークの起源とも言われる慈善組織協会は、1869年にイギリスではじまり、すぐにアメリカへと渡りました。

そして、アメリカでケースワークの方法や訓練が発展していきます。

ちなみに「ケースワークの母」と言われるリッチモンドは、バルチモアの慈善組織協会(米国)で28歳の時に働いたことがはじまりでもあります。

このように、慈善組織協会(COS)という”源流”は、社会福祉を学ぶ方には必須の内容となっております。

慈善組織協会(COS)

1869年にイギリスで設立され、現代における「ケースワークの起源」とされている。

また本記事は、どのような方に向けて発信をしているかご紹介します。

どのような方を対象?

・慈善組織協会(COS)について学びたい人。

・将来社会福祉に関わる仕事に就きたい人。

・社会福祉を学び、自身を成長させたい人。

”社会福祉は一重にものの見方にあり”。

本記事を通じて、視点や価値観が少しでも変わることがあれば幸いです。


慈善組織協会のキーワードについて

まず最初に、慈善組織協会のキーワードについて以下確認していきます。

慈善組織協会(COS)イギリス

・1869年にイギリスで設立され、すぐアメリカへと渡り発展した。

・各々に活動する救済団体を組織化し、救済の重複を防ぎ、別々に行われている活動の連絡調整を図ることを目的。

・貧困の原因は、個人の問題(生活や習慣)とした貧困観。

・「救済に値する貧民」を対象とする選別主義的なもの。

※救済に値しない貧民は救貧法に委ねるしかなかった。

・地区訪問員(無給のボランティア)による救貧者への直接支援。(訪問員はアルマナーと呼ばれる)

慈善組織協会(COS)アメリカ

・1877年にアメリカバッファローにて最初の慈善組織協会(COS)が設立される。

・救済団体の調整と、効率性の実現を目的とし、地域社会における団体の情報交換機関として機能した。

友愛訪問員(有給職員やボランティア)による救貧者への直接支援。(友愛訪問)

・ケースワークの方法や訓練を積極的に開発し、その後の発展に貢献した。

以上が慈善組織協会(COS)の要点・キーワードになります。

慈善組織協会は、イギリスからはじまって、すぐさまアメリカへと渡ります。

その後、ケースワークの方法(科学的手法・心理学の導入)や訓練(教育)がアメリカで発展していった流れがあります。

また、「施しではなく友人を」というキリスト教隣人愛を基本とした標語をもとに、家庭訪問といった直接支援を重視したことがケースワークの発展へと繋がります。


社会福祉士国家試験~設問より

社会福祉士国家試験における慈善組織協会の設問をピックアップしていきます。

以下の設問を通じて理解を深めていきましょう。

第23回問題84-1

慈善組織協会は、「救済に値する貧民」と「救済に値しない貧民」に区別することなく、あらゆる貧民を対象とした。

第23回問題84-2

慈善組織協会は、個々の慈善団体が個別の業績を上げることを目的として、ロンドンの地区ごとに地区委員会を設立した。

第23回問題84-3

慈善組織協会は、産業革命が生み出した貧困の予防対策として設立された。

第23回問題84-4

慈善組織協会は、被救済者の登録を行って救済の重複や不正受給の抑制を行うことを意図して始まった。

第23回問題84-5

慈善組織協会の貧困や社会問題に対する自由主義的な認識が、セツルメントや社会運動、労働運動の考え方に継承されていった。

第25回問題92-1

全米慈善矯正会議(1897年)において、リッチモンド(Richmond,M)は応用博愛学校の必要性を提唱し、慈善活動の効果的な実践のための夏季養成講座が開設された。

第22回問題86-1

慈善組織協会は、慈善活動による救済の偏りを防止するために設立され、貧困の原因を社会の構造に求めて、貧困者に対する救済を社会の義務ととらえていた。

第22回問題86-2

リッチモンド(Richmond,M)の提案に基づいて、ニューヨークで6週間に及ぶ博愛事業に関する講習会が初めて開催され、専門教育へと発展していった。

第31回問題110

アウトリーチについて適切かどうか

・慈善組織協会(COS)の友愛訪問員活動に起源を持つ。

このように慈善組織協会(COS)は、社会福祉士国家試験においても、基本的知識となります。

設問にしたのは、消去法できちんと根拠と自信を持って、消去できる力を養うためです。

それぞれの設問について内容が適しているかどうか考えてみてください。

※解答については記事後半に掲載します。


慈善組織協会(COS)イギリスの展開について

1869年、イギリスのロンドンにおいて、「慈善救済組織化および乞食抑制のための協会」が設立され、1年後に「慈善組織協会(COS)」へと改名されます。(※Charity Organisation Society.COS)

当時活動していた多数の慈善団体は、それぞれ独立で活動していたため、救済が重複されることもあったようです。

そこで、”組織化”という言葉が名前にもあるように、各団体がバラバラに行われている活動を組織化し、救済の重複の防止や連絡調整を図る役割を目的として、慈善組織協会(COS)が誕生したのです。

また慈善組織協会は、「貧困状態を減らす」ことを目的に活動するにあたって、自由主義的な考え方をもって、救済の対象を二つに分けました。

一つが「救済に値する貧民」であり、援助が役に立つと思われる人々を救済することで、貧困状態が減るという考え方のもと、救済の対象としました。

当時は「貧困の原因は個人(生活や習慣)にある」という考え方があったので、倹約や生活習慣の改善を個人に求めました。

そのためこの時点では、貧困の原因は社会構造に問題があるという考え方には至っておりません。

もう一つは「救済に値しない貧民」で、こちらは救貧法による援助に委ねるしかないということで、救済の対象にはしませんでした。

ここまでの要点まとめ

・慈善団体を組織化し、救済の重複の防止や連絡調整を図ることを目的。

・救済に値する貧民を救済の対象とする。(選別主義)

・貧困の原因は、個人の問題である。(貧困の解決は社会の義務ではない)


慈善組織協会(COS)のイギリスにおける展開ついて、大きく第1期~第3期に分けられるとあるので簡単に確認していきます。

第1期(1868年~69年)

慈善組織協会(COS)の組織化について、設立当初は、中央機関(慈善機関の登録、会計監査、ケース登録)と地区事務所(一般的申請受付、調査、救済方法の認定)によって推進する構想からはじまりました。

これは「慈善の警察」と呼ばれ、慈善団体の活動の統制と監視が目的であったため、反対を受け失敗に終わったとのことです。

この頃は、まだケースワークとしての展開はされていませんでした。


第2期(1869年~75年)

その後、ボランタリーアクションとして「協力に基づく慈善組織化」の推進を課題として、ロンドンの全地区に地区委員会を設立し、慈善組織協会として一体化する展開が図られました。

西部、中部、北部の富裕地区でこの取り組みが拡大されましたが、肝心な東部地区では難しかったようです。

1985年までに39の独立の地区委員会が、首都の救貧行政区域内に設立されるなど、慈善組織化の基礎がつくられました。

また、この頃に慈善組織協会(COS)がケースワーク機構として展開を強めていきます。

慈善組織協会の目的

・富裕・貧困両階級の社会的距離の拡大を解消。

富裕階級が貧困階級の生活実態について認識を深めること。

地区委員会の役割

・情報センターとしての機能 (各公私救済機関や個人の活動)

生活困窮や傷病ケースの一般的申請の受付や調査、適切な機関への紹介。

ケース登録による重複や不正受給の防止。

訪問活動を組織化(ボランティアのアルマナーによる訪問)。

中央評議会の役割

地区委員会の代表によって構成。

地区委員会の指導。

不正な慈善や受給者の調査。

このように、慈善組織協会(COS)がケースワーク機構としての性格を強め、その基礎として発展していきます。


第3期(1875年~90年代)

慈善組織協会(COS)は、首都最大の救済機構の一つとなり、地区委員会はケースワーク機構としてその機能を充実されておりました。

しかし、依然として、地区委員会とは別の方針で活動している慈善団体(協会や大きな慈善団体)が存在している状況があり、再び慈善組織の意義が問われることになります。

やがて1890年代には、地域における活動の意義が重視され、慈善組織の機構を分散化する政策がとられております。

またこの頃、イギリスの慈善組織協会(COS)の発展に寄与した人物として、チャールズ・ロックが挙げられております。

チャールズ・ロックは、その生涯を慈善組織協会(COS)に注ぎ、一般理論が「慈善組織論」によって体系化されました。

以上簡単ではありますが、第1期~第3期の流れとなります。


+α 慈善組織協会(COS)の周辺

テキストにはあまり書かれていない、+αとしての情報を少しご紹介いたします。

1860年代の主な慈善団体

(1)生活困窮者救済協会(S.R.D)

(2)首都訪問救済協会

(3)地方出身者友の会

(4)乞食抑圧協会

(5)石炭・パンのクラブ、スープキッチン

(6)訪問と聖書配布協会

(7)その他の地方的慈善

またこのほか、ロンドンには多数のホスピタル、診療所などが強力な慈善機関として存在していた。

イギリス近代社会事業の形成過程:ロンドン慈善組織協会の活動を中心として 高野史郎 著 出版社 勁草書房 出版年月日1985.2  P41 国立国会図書館デジタルコンテンツより

生活困窮者救済協会(SRD)の設立

・1860年に設立、救済基金を募って組織。(訪問型の救済組織)

・慈善的救済を間接的に支給するのではなく、直接的に支給する機構をつくることを目的。

・公衆からの寄付金はすべて貧困者へ直接支給。

・ボランティアの訪問員(無給)による自宅訪問を通じて、支給額を決定して支給。

・貧困地区の人口に対して、人手が少なく、1人あたり1~2万件の地区を受け持つ。

・その後、改正案が出され、地区事務所の設置や他機関と協力すること、ケースの登録などが行われた。

情報媒体

・ロンドン慈善のハンドブック(Sampson Low)

・ロンドンの慈善辞典 (作者不明)

 情報提供を目的に、約800の慈善機関、基金250万ポンドを分類

講演

ソーリー(牧師・労働者クラブ創始者)による講演

「ロンドンの失業貧民およびその乱暴者と犯罪者をいかに処置するか」

この講演が発端として、慈善組織協会(COS)設立にも影響を与えた。

このように、テキストには書かれていない周辺の出来事も興味深いものが多数あります。

ほんの一部ではありますが、ご紹介でした。


慈善組織協会(COS)アメリカでの展開について

イギリスで展開された慈善組織協会(COS)を手本に、1877年にアメリカバッファローにて慈善組織協会(COS)が設立されます。

その後も迅速に普及し、1895年には125もの団体が設立され、活動を展開されておりました。

アメリカ慈善組織協会(COS)

・慈善活動の連絡調整、組織化を図る。

・中央登録所の設置。

・友愛訪問(有給職員やボランティア)。

・ケースワークの方法や訓練を積極的に開発。

地域単位の人材育成のため、主要地区に有給職員を配置。

このように、アメリカでは有給職員の配置や、ケースワークの方法や訓練を積極的に開発したという特色があり、その後のケースワーク発展に大きく貢献したのです。


社会福祉士国家試験~設問解答

これまでの振り返りとして、先ほどの設問の解答を確認していきます。

第23回問題84-1

慈善組織協会は、「救済に値する貧民」と「救済に値しない貧民」に区別することなく、あらゆる貧民を対象とした。

「救済に値する貧民」を救済の対象とした選別主義をとっておりますので、設問は不正解になります。

ちなみに「救済に値しない貧民」は、救貧法に委ねるしかなかったとあります。


第23回問題84-2

慈善組織協会は、個々の慈善団体が個別の業績を上げることを目的として、ロンドンの地区ごとに地区委員会を設立した。

慈善組織協会の目的は、各団体間の連絡調整や救済の重複を防止することとありました。

よって設問は不正解となります。ただ地区委員会を設立したという文は正しい内容となります。


第23回問題84-3

慈善組織協会は、産業革命が生み出した貧困の予防対策として設立された。

当時は貧困の原因は「個人の問題」とされておりました。

産業革命が生み出したという社会を原因とする考え方はまだなかったので、設問は不正解となります。


第23回問題84-4

慈善組織協会は、被救済者の登録を行って救済の重複や不正受給の抑制を行うことを意図して始まった。

こちらの内容は正解となります。慈善組織協会のはじまりに合致します。


第23回問題84-5

慈善組織協会の貧困や社会問題に対する自由主義的な認識が、セツルメントや社会運動、労働運動の考え方に継承されていった。

ケースワークの起源は「慈善組織協会(COS)」にあり、グループワークの起源は「セツルメント」と言われております。

実はソーシャルワークは、ケースワーク、グループワーク、コミュニティワークがそれぞれ別に発展していき、後に統合される流れがあります。慈善組織協会(COS)とセツルメントは、同じ時代でありますが、異なるものとして展開されました。

よって文脈は一見よさそうに見えるのですが、不正解の内容となっております。


第25回問題92-1

全米慈善矯正会議(1897年)において、リッチモンド(Richmond,M)は応用博愛学校の必要性を提唱し、慈善活動の効果的な実践のための夏季養成講座が開設された。

こちらは正解の内容となっております。アメリカで訓練や教育が発展していったことを確認したく、設問を取り上げました。

リッチモンドは「ケースワークの母」とも言われる重要人物になりますので、また別の記事にてご紹介します。


第22回問題86-1

慈善組織協会は、慈善活動による救済の偏りを防止するために設立され、貧困の原因を社会の構造に求めて、貧困者に対する救済を社会の義務ととらえていた。

慈善組織協会(COS)の問題で「社会」と出ると、不正解となります。

この問題も、作問者の意図はきっと、「社会の問題であるものを、個人の問題として考えていた時代がある」ことを伝えたく、間違え選択肢として出題されたかもしれません。


第22回問題86-2

リッチモンド(Richmond,M)の提案に基づいて、ニューヨークで6週間に及ぶ博愛事業に関する講習会が初めて開催され、専門教育へと発展していった。

こちらの内容は正解となっております。アメリカで教育や訓練が発展していったことは重要になります。

この設問はそのまま覚えておくと良いかもしれません。


第31回問題110

アウトリーチについて適切かどうか

・慈善組織協会(COS)の友愛訪問員活動に起源を持つ。

この内容も正解になります。

訪問支援はアウトリーチの原点でもあります。

このように各フィールドで活動されている方の中にも、「実はこの慈善組織協会(COS)に繋がっていた」ということがあるかもしれません。

以上が社会福祉士国家試験の設問を活用した、慈善組織協会(COS)の知識確認になります。


まとめ

ここまでを踏まえて、再度キーワードの確認になります。

慈善組織協会(COS)イギリス

・1869年にイギリスで設立され、すぐアメリカへと渡り発展した。

・各々に活動する救済団体を組織化し、救済の重複を防ぎ、別々に行われている活動の連絡調整を図ることを目的。

・貧困の原因は、個人の問題(生活や習慣)とした貧困観。

・「救済に値する貧民」を対象とする選別主義的なもの。

※救済に値しない貧民は救貧法に委ねるしかなかった。

・地区訪問員(無給のボランティア)による救貧者への直接支援。(訪問員はアルマナーと呼ばれる)

慈善組織協会(COS)アメリカ

・1877年にアメリカバッファローにて最初の慈善組織協会(COS)が設立される。

・救済団体の調整と、効率性の実現を目的とし、地域社会における団体の情報交換機関として機能した。

友愛訪問員(有給職員やボランティア)による救貧者への直接支援。(友愛訪問)

・ケースワークの方法や訓練を積極的に開発し、その後の発展に貢献した。

このようにイギリスではじまった慈善組織協会(COS)は、慈善団体間の連絡や調整、また救済の重複を防止するという目的から始まり、ケースの登録や調査、訪問員による直接支援など、ケースワークとして展開されました。

そして、アメリカに渡って方法や訓練を積極的に開発し、ケースワークの源流として、その後発展していきます。

慈善組織協会(COS)

ケースワーク、グループワーク、コミュニティワークの内、ケースワークの起源である。


以上、慈善組織協会(COS)の要点キーワードまとめになります。

グリーンウッドは、1957年に「ソーシャルワークは専門職である」という言葉を残しております。

そして専門職である条件の一つに、「副次文化(サブカルチャー)」を挙げております。

歴史やそこに秘められた源流を学ぶことは、ソーシャルワークが専門職であるために欠かすことができないと、ある方に教えてもらいました。

今後も社会福祉の歴史について記事を書いていきますので、どうぞよろしくお願いします。

副次文化(サブカルチャー)

社会福祉の歴史や源流を学ぶことは、専門職として必要なこと。


☆参考文献

・コミュニティ・オーガニゼーションと社会計画

 ロバート・パールマン、アーノルド・グリン著(他)岡村重夫監訳 全国社会福祉協議会1980.11 国立国会図書館デジタルコレクションより

・イギリス近代社会事業の形成過程:ロンドン慈善組織協会の活動を中心として

高野史郎著 出版社勁草書房 出版年月日1985.2 国立国会図書館デジタルコレクションより

・社会福祉のあゆみ 社会福祉思想の軌跡 金子光一著 有斐閣アルマ 第1部初期の貧困者対策 第4章民間福祉部門の役割 P53~P57

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