社会福祉の知識

シェイピング法とは?行動療法の具体例とポイントを解説

人間が新たなスキルを習得する際や、特定の行動を身につけようとする時、困難に直面することがあります。特に、目標とする行動が複雑であったり、これまでの経験に全くなかったりする場合、何から手をつけて良いか迷うこともあるでしょう。

このような状況において、効果的な行動変容を促すための一つの手法が「シェイピング法」です。シェイピング法は、目標とする行動に到達するためのステップを着実に踏んでいくための指針となり得ます。

この記事では、シェイピング法の基本的な概念から具体的な実践ステップ、そして様々な分野での応用例までを詳しく解説していきます。




シェイピング法とは?

シェイピング法は、行動療法の一種であり、特定の目標行動を段階的に形成していくための技法です。

この方法は、対象者が最終的な目標行動を一度に実行することが困難な場合に特に有効です。目標行動に至るまでの小さな行動(これを「近似行動」と呼びます)を特定し、それらを順次強化していくことで、徐々に目標とする行動へと近づけていきます。最終的な行動が、一見して現在の行動とはかけ離れているように見えても、シェイピング法を用いることで、達成可能な小さなステップに分解し、一つずつ習得を促すことが可能です。

このプロセスを通じて、対象者は成功体験を積み重ねながら、最終目標へと着実に前進していきます。


オペラント条件付けについて

シェイピング法を理解するためには、その基盤となる「オペラント条件付け」の原理を把握することが不可欠です。

オペラント条件付けとは、行動とその直後に生じる結果との関連性によって、行動の生起頻度が変化する学習のメカニズムを指します。アメリカの心理学者B.F.スキナーが提唱したこの概念は、特定の行動が強化されると、その行動が将来再び起こりやすくなるというものです。

具体的には、行動の後に好ましい結果が伴う場合、その行動は「正の強化」によって増加します。反対に、行動の後に嫌悪的な結果が取り除かれる場合も、その行動は「負の強化」によって増加します。シェイピング法では、この正の強化の原理を主に活用します。目標行動の近似行動が現れた際に、それを強化することで、その行動の頻度を高め、徐々により目標に近い行動へと導いていくのです。

このプロセスにおいて、強化子が適切に機能するかどうかは、シェイピング法の成功を左右する重要な要素となります。




シェイピング法の具体的ステップ

シェイピング法を効果的に実践するためには、以下の段階的なステップを踏むことが重要です。これらのステップを順序立てて実行することで、対象者は無理なく目標行動へと近づくことができます。


目標行動の明確化

シェイピング法を開始するにあたり、最初となるステップは、最終的にどのような行動を習得させたいのかを具体的に定義することです。

この目標行動は、曖昧な表現ではなく、誰が見ても同じように理解できる、客観的かつ測定可能な形で記述する必要があります。目標が不明確な場合、どの行動を強化すべきかの判断が難しくなり、シェイピングのプロセスが滞る原因となります。

行動の形態、頻度、継続時間、発生する状況など、可能な限り詳細に言語化することで、その後の全てのステップの方向性が定まります。


現状の行動の確認

目標行動が明確になったら、次に実施すべきは、対象者が現在どの程度の行動ができているのかを把握することです。

これは、目標と現状の間にどれくらいの隔たりがあるのかを評価する段階にあたります。全く目標行動が見られないのか、あるいは目標の一部に相当するような行動が稀にでも現れているのかを観察します。この現状把握は、シェイピングを開始する際のスタート地点を定めるために不可欠です。また、この段階で、対象者の通常の行動パターンや、どのような刺激に反応しやすいか、どのような強化子が有効であるかといった情報も収集できる場合があります。

これにより、後続のステップで用いる強化子や、近似行動の設定に役立てられます。


近似行動の強化

現状の行動が確認できたら、いよいよシェイピングの核心部分である近似行動の強化へと移ります。

ここでは、設定した目標行動に少しでも近い行動、あるいは目標行動の構成要素となるような行動が対象者に現れたら、それを直ちに強化します。初期段階では、目標からかなり遠い行動であっても、ほんのわずかでも目標の方向性を示していれば強化の対象とします。この強化は、対象者にとって好ましい結果(報酬)を与えることで行われます。強化が行動の直後に行われることは、対象者がどの行動が強化されたのかを明確に理解するために非常に重要です。

このステップを繰り返すことで、目標に近づく行動の頻度を増やし、次の段階へと進むための土台を築きます。


段階的な要求水準の引き上げ

近似行動が十分に強化され、その行動の発生頻度が増加してきたら、次は要求水準を段階的に引き上げます。

これは、既に習得した近似行動を足がかりとして、さらに目標行動に近づく、より高度な行動のみを強化の対象とするプロセスです。これまでの近似行動には強化を与えず、新たな、より目標に近い行動が現れた場合にのみ強化を行います。この過程を通じて、対象者は徐々に複雑な行動パターンへと進んでいきます。

要求水準の引き上げは、対象者の能力や進捗状況に合わせて慎重に行う必要があり、急激すぎる変化は行動の停滞や拒否につながる可能性があります。小さな成功を積み重ねながら、着実に目標への階段を上ることが求められます。


不必要な行動の消去

シェイピング法を進める上で、目標行動に近づかない、あるいは目標から遠ざかるような行動に対しては、強化を与えないことが原則です。

これは「消去」の原理に基づいています。以前に強化されていた行動であっても、それがもはや目標行動の近似とは見なされなくなった場合、その行動に対する強化を停止します。これにより、対象者は強化される行動とされない行動の違いを学び、徐々に強化される行動(すなわち目標に近づく行動)に焦点を当てるようになります。

不必要な行動が強化され続けてしまうと、シェイピングの効率が低下し、目標行動の習得が遅れる可能性があります。したがって、適切な行動には確実に強化を与えつつ、不適切な行動には強化を与えないという一貫した対応が求められます。



シェイピング法の応用例

シェイピング法は、その行動変容の原理が普遍的であるため、多岐にわたる分野で活用されています。個人のスキル習得から、教育、医療、動物訓練まで、様々な状況でその有効性が確認されています。ここでは、主要な応用例をいくつかご紹介します。


発達障害の支援

発達障害を持つ人々、特に自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちへの支援において、シェイピング法は重要な介入技法の一つです。

言語の発達、社会性の向上、自己管理能力の獲得など、多岐にわたるスキル習得のために適用されます。例えば、発語のない子どもに「アー」という音声から「ママ」という単語を教える、アイコンタクトの時間を徐々に長くする、手洗いの手順を段階的に身につけさせるなど、複雑な行動を細分化して教える際に用いられます。

これにより、子どもたちは無理なく新しい行動を学び、成功体験を通じて自信を育むことができます。行動分析学(ABA)に基づく介入プログラムにおいて、シェイピング法は中心的な役割を担っています。


リハビリテーション

医療分野におけるリハビリテーションにおいても、シェイピング法は有効な手段として利用されています。

脳卒中後の運動機能の回復、外傷後の動作の再学習、あるいは慢性的な痛みを抱える患者の活動レベルの向上など、様々な状況で応用されます。機能が低下した部分の回復を目指す際、患者が一度に最終的な目標動作を完璧に行うことは困難です。そこで、シェイピング法を用いて、わずかな動きや部分的な動作の成功を強化し、徐々に動作の範囲や正確さを高めていきます。

この段階的なアプローチにより、患者は達成感を得ながら、身体機能の改善や日常生活動作(ADL)の自立に向けて取り組むことが可能になります。


子どもの教育

家庭や学校といった子どもの教育現場でも、シェイピング法は幅広く活用されます。

新たな学業スキルの習得、望ましい社会行動の形成、あるいは自己管理能力の発達を促す際に有効です。たとえば、読み書きの学習で一文字ずつ覚えることから文章作成へと進める、おもちゃの片付けのような家事を段階的に教える、授業中に座って集中する時間を少しずつ長くしていくといった状況が考えられます。教師や保護者は、子どもが目標とする行動に近づく小さな努力を認め、適切に強化することで、学習意欲を高め、自律的な成長を支援できます。

シェイピング法を用いることで、子どもたちは成功体験を通じて自信をつけ、より複雑な課題にも意欲的に取り組むようになるでしょう。



まとめ

この記事では、行動変容の有効な手法であるシェイピング法について、その基本概念から具体的なステップ、そして多様な応用例までを解説しました。シェイピング法は、オペラント条件付けの原理に基づき、目標行動を細分化し、その近似行動を段階的に強化することで、困難な行動の習得を可能にします。

目標の明確化から始まり、現状の確認、近似行動の強化、要求水準の引き上げ、不必要な行動の消去というプロセスを経て、着実な行動の形成を目指します。発達障害の支援、リハビリテーション、子どもの教育など、様々な分野での活用実績が示す通り、この方法は個人の成長や変化を促す上で実践的な価値を持ちます。

シェイピング法は、私たちが新しい行動を学び、目標を達成していくための、段階的かつ効果的な道筋を提供する理論となるでしょう。


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