
ソーシャルワークは、個人のウェルビーイングの向上から地域社会の課題解決に至るまで、幅広い領域で人々の生活を支える援助活動です。その性質上、対象となるクライエントが抱える問題は多様であり、単一の解決策では対応しきれない複雑さを伴います。
このような状況において、ソーシャルワーカーが専門職として社会に認識され、その職務を適切に遂行するための基盤を明確にすることは重要です。
福祉領域において、人々の生活を支援するソーシャルワークは、その実践の複雑さや多岐にわたる知識体系ゆえに、「専門職」としての位置づけが長らく議論されてきました。本記事では、ソーシャルワークが専門職である根拠を示したE.グリーンウッドの画期的な理論に着目します。
彼の提唱する「専門職の5つの属性」を深く掘り下げることで、ソーシャルワーカーの専門性と、社会におけるその重要な役割のヒントがに得られるでしょう。
ソーシャルワークの専門職論

ソーシャルワークの歴史は、その職能が専門職としての地位を確立するまでの道のりでもありました。この道のりにおいて、ソーシャルワークが専門職たり得るのかという問いは、常に重要な議論のテーマとされてきました。
特に、20世紀初頭から半ばにかけて、この議論は活発に行われ、ソーシャルワークのアイデンティティ形成に大きな影響を与えています。専門職として認められることは、社会からの信頼を得て、その活動が正当なものとして受け入れられる上で不可欠な要素です。
ここではソーシャルワーク史で代表的なフレックスナーとグリーンウッドの専門職論について解説していきます。
ソーシャルワークは専門職か?|フレックスナー(1915年)
ソーシャルワークが専門職であるか否かという議論の出発点として、しばしば引用されるのがエイブラハム・フレックスナーによる1915年の講演です。彼は「ソーシャルワークは専門職であるか(Is Social Work a Profession?)」という問いを投げかけ、当時のソーシャルワークの現状を厳しく分析しました。
フレックスナーは、専門職が持つべきとされる六つの属性を提示し、それに照らし合わせてソーシャルワークを評価しています。彼の提示した属性には、知的操作を伴う活動、個人的な責任、実践的な応用性、専門的な教育可能性、独自の技術伝達、そして専門職団体による組織化が含まれていました。
結論として、フレックスナーは当時のソーシャルワークがこれらの属性を完全には満たしておらず、したがって専門職とは言えないと指摘しました。しかし、この厳しい評価は、ソーシャルワークが自らの専門性を高め、発展していくための重要な指標となり、その後の専門職化に向けた取り組みを強力に推進するきっかけともなったのです。
ソーシャルワークはすでに専門職である|グリーンウッド(1957年)
フレックスナーの厳しい指摘から約半世紀後、アーネスト・グリーンウッドは1957年の論文「専門職の属性(Attributes of a Profession)」の中で、ソーシャルワークはすでに専門職としての要件を満たしているという画期的な見解を示しました。
グリーンウッドは、フレックスナーの時代からソーシャルワークが大きく発展し、その実践が高度化・体系化されていることを強調しました。彼は、専門職が共通して持つ五つの属性を抽出し、それに照らし合わせることで、ソーシャルワークがこれらの属性を着実に獲得してきたことを論証しています。
グリーンウッドのこの主張は、長らく専門職としてのアイデンティティを模索していたソーシャルワーク界に大きな自信と方向性をもたらしました。彼の理論は、ソーシャルワークが単なる慈善活動や人道主義的活動に留まらず、明確な知識基盤と専門性を備えた職業であるという認識を社会に広める上で、極めて重要な役割を果たしたのです。
グリーンウッド|Attributes of a Profession

グリーンウッドの1957年の論文「専門職の属性(Attributes of a Profession)」は、ソーシャルワークの専門職化を論じる上で、今日に至るまで最も影響力のある文献の一つとして位置づけられています。
この論文は、専門職が共通して有する本質的な特徴を理論的に整理し、それをソーシャルワークの実践に適用することで、その専門性を明確に裏付けることを目的としていました。グリーンウッドは、専門職の持つべき属性を、単なる活動の記述ではなく、その活動を支える構造的・機能的な要素として捉えました。
彼の分析は、ソーシャルワークが直面していた専門職としての曖昧さを解消し、その後の教育カリキュラムの発展、倫理規定の確立、そして専門職団体の強化に多大な影響を与えています。この論文によって、ソーシャルワークは専門職としての確固たる地位を確立するための明確な指針を得ることができたのです。
グリーンウッドの専門職の5つの属性

グリーンウッドが提示した専門職の5つの属性は、ソーシャルワークが専門職として社会に貢献する上で不可欠な要素を包括的に捉えています。これらの属性を詳細に検討することで、ソーシャルワーカーが行う実践が、いかに高度な知識と技術、そして倫理観に裏打ちされているかが明らかになるでしょう。
ここでは5つの属性について、それぞれ解説していきます。
体系的な理論|Systematic Body of Theory
ソーシャルワークが専門職として成立するためには、その実践を支える堅固で体系化された知識基盤が不可欠です。
単なる経験則や個人的な見識に依存するのではなく、心理学、社会学、人類学、法学、医学といった多岐にわたる学問分野の理論を統合し、ソーシャルワーク独自の視点から再構築された理論体系が求められます。ソーシャルワーカーは、クライエントの抱える問題の背景にある複雑な要因を理解し、その問題解決に向けた最適な介入方法を導き出すために、この体系的な理論を適用します。
例えば、人間の発達段階に関する理論、家族システムに関する理論、社会構造が個人に与える影響に関する理論などが挙げられます。
これらの理論を深く理解し、状況に応じて適切に活用することで、ソーシャルワーカーは根拠に基づいた専門的な実践を行うことができるのです。
専門的権威|Professional Authority
専門的権威とは、専門職がその体系的な理論に基づき、クライエントの状況を評価し、適切な介入を決定する際に社会から認められる正当な影響力のことです。
ソーシャルワーカーは、特定の個人や家族、地域社会が抱える問題に対して、専門的な知識と技術をもってアセスメントを行い、その結果に基づき、支援計画を立案し実行します。このプロセスにおいて、ソーシャルワーカーはクライエントの自己決定権を最大限に尊重しつつも、専門家としての知見から最適な選択肢や解決策を提示する役割を担います。
例えば、虐待のリスクがある子どもへの介入、精神疾患を持つ方への支援、あるいは地域での孤立問題への対応など、専門的な判断が求められる場面で、その権威は発揮されます。
これは、専門家として責任ある判断を下し、質の高いサービスを提供する能力と、それが社会に受け入れられている状態を指し示しているのです。
社会の承認|Community Sanction
専門職が社会の中でその地位を確立するためには、社会全体からの承認が不可欠です。
この社会の承認は、専門職の知識や技術、そして専門的権威が公的に認められ、正当なものとして受け入れられている状態を意味します。具体的な形としては、国家資格制度や免許制度の存在が挙げられます。
日本では、社会福祉士や精神保健福祉士といった国家資格がこれにあたり、専門職としての業務範囲や責任が法的に定められています。こうした制度は、特定の専門職が一定水準以上の能力と倫理観を持つことを社会に保証し、同時に国民が安心して専門職のサービスを利用できる基盤を提供します。また、専門職団体が設置され、その活動が社会的に認知されることも、社会の承認の一環です。
このような公的な保証と社会的な認知を通じて、ソーシャルワーカーはその専門性を発揮し、クライエントや社会に対して責任ある支援を提供できるのです。
倫理規定|Ethical Codes
専門職としての信頼性と責任を担保する上で、倫理規定は極めて重要な役割を果たします。
倫理規定とは、専門職がその職務を遂行する上で遵守すべき行動規範や価値観を明文化したものです。ソーシャルワーク実践では、個人の尊厳の尊重、自己決定権の擁護、秘密保持、プライバシー保護、差別なき支援といった原則が、揺るぎない倫理的基盤として位置づけられています。
これらの倫理原則は、ソーシャルワーカーがクライエントと関わるあらゆる場面において、どのように判断し行動すべきかの指針となります。複雑な状況下で倫理的ジレンマに直面した場合でも、倫理規定は専門職としての適切な選択を導き、クライエントの権利と最善の利益を保護するための道標となるのです。
この厳格な倫理規定の存在こそが、ソーシャルワークが社会から信頼される専門職であることの証でもあります。
専門的文化|Professional Culture
専門職が単なる個人の集まりではなく、 結束された集団として機能するためには、共通の価値観、規範、そしてアイデンティティを共有する「専門的文化」の存在が不可欠です。
この専門的文化は、専門職団体への所属や、同僚との相互作用を通じて形成され、専門職としての連帯感を育みます。ソーシャルワーカーにとって、専門的文化は、継続的な学習と専門能力の向上を促す基盤となります。
例えば、専門職団体が提供する研修への参加、先輩や同僚からのスーパービジョン(指導・助言)、そして研究活動への積極的な関与は、個々のソーシャルワーカーが専門職として成長し続ける上で欠かせません。こうした活動を通じて、専門職としての知識や技術が継承され、また新たな知見が共有されることで、専門職全体の質の維持・向上に寄与します。
専門的文化は、ソーシャルワーカーが専門職としての自覚を持ち、誇りをもって職務を遂行するための精神的な支柱ともなるのです。
まとめ
本記事では、ソーシャルワークが専門職であることの根拠を、E.グリーンウッドが提唱した「専門職の5つの属性」を通して掘り下げてきました。体系的な理論に裏打ちされた知識基盤、専門的権威に基づく質の高い実践、国家資格に代表される社会からの承認、厳格な倫理規定による指針、そして専門職団体が育む独自の文化。これら全ての属性をソーシャルワークが着実に備えていることが、グリーンウッドによって明確に示されました。
彼の理論は、ソーシャルワークが単なる善意による活動ではなく、高度な専門性と責任を伴うプロフェッショナルな仕事であることを社会に知らしめ、その後の発展に決定的な影響を与えています。今後もソーシャルワーカーは、これらの専門性を維持・発展させながら、多様な課題に直面する人々の生活を支え、より良い社会の実現に貢献し続けるでしょう。





