
高齢化が進行し、多様な福祉ニーズが顕在化する現代社会において、一人ひとりに寄り添った支援体制の構築は急務となっています。
介護や支援を必要とする人々が、その人らしい生活を継続するためには、複雑に絡み合った課題を解きほぐし、適切なサービスへと繋げる専門的なアプローチが不可欠です。その中核を担うのが「ケアマネジメント」と呼ばれる手法です。
このケアマネジメントの理論的基盤を築き、世界中の対人援助の現場に大きな影響を与えた人物の一人が、キャロル・D・オースティンです。彼女が提唱した「ケアマネジメントの5段階モデル」は、支援のプロセスを体系的に理解するための普遍的な指針として、今日でも広く活用されています。
本記事では、ケアマネジメントの原点であるオースティンの功績に焦点を当て、その理論モデルを詳しく解説するとともに、イギリスや日本におけるケアマネジメントの発展の歴史、そしてソーシャルワークとの関係性についても深く掘り下げていきます。
ケアマネジメントの源流

ケアマネジメントという概念が体系化される以前、福祉サービスはそれぞれの専門分野ごとに独立して提供されるのが一般的でした。医療、保健、福祉といった領域は縦割り構造の中にあり、支援を必要とする人々は、自らの課題に応じて個別の機関の窓口を訪ね、それぞれに申請手続きを行う必要があったのです。
この「サービスの断片化」は、特に複数の複雑なニーズを抱える高齢者や障害者にとって、深刻な障壁となっていました。心身の機能低下に加えて、経済的な困窮や社会的な孤立といった問題を同時に抱えている場合、利用者は自ら多くの機関を渡り歩き、必要な情報を集め、サービスを調整しなければなりませんでした。その結果、本来利用できるはずの支援にたどり着けなかったり、サービス間の連携が不十分なために効果的な支援を受けられなかったりするケースが少なくありませんでした。
このような状況を改善し、利用者本位の統合されたサービス提供体制を構築する必要性が、1970年代のアメリカで強く認識されるようになります。利用者の生活全体を包括的に捉え、多種多様な社会資源を効果的に結びつけ、一人ひとりに最適な支援を計画・調整する専門的な機能、すなわちケアマネジメントの原型が、こうした時代の要請の中から生まれてきたのです。
オースティンとは?

キャロル・D・オースティン(Carol D. Austin)は、現代のケアマネジメント、特にケースマネジメントの理論的枠組みの構築に多大な貢献をしたアメリカの社会福祉学者です。彼女の研究は、主として高齢者に対するコミュニティを基盤とした長期ケア(Long-Term Care)の領域に焦点を当てており、支援の現場で実践されていた多様なアプローチを体系的に整理し、その専門性を高める上で決定的な役割を果たしました。
オースティンの功績が特に高く評価されているのは、それまで個々の実践者の経験則に委ねられがちであった支援のプロセスを、明確で普遍的な段階モデルとして提示した点にあります。このモデル化によって、ケースマネージャーが担うべき具体的な機能や役割が言語化され、専門職としての教育や研修、さらには実践の質の評価を可能にする理論的土台が築かれました。
彼女の研究成果は、アメリカ国内のソーシャルワーク実践に留まらず、国境を越えて各国の対人援助政策に影響を与え、日本の介護保険制度におけるケアマネジメントの導入・発展においても重要な参照点とされています。オースティンは、複雑なニーズを抱える人々への支援を、単なるサービスの仲介ではなく、専門的な知識と技術に基づく一連のプロセスとして確立させた、ケアマネジメントの歴史におけるキーパーソンの一人と言えるでしょう。
ケアマネジメントの5段階モデル

オースティンが提唱したケアマネジメントのモデルは、支援の開始から終結、そしてその後のフォローアップまでの一連の流れを、5つの連続した段階として整理したものです。
このモデルは、複雑で多岐にわたるケアマネジメントの実践を、誰にでも理解可能なプロセスとして可視化した点で画期的でした。専門職がクライエント(利用者)と関わる中で、どのような機能を、どの順序で果たしていくべきかを示す明確な地図の役割を果たします。これにより、支援の質を標準化し、専門職の養成や現場での実践を体系的に進めることが可能となりました。
ここではオースティンが提唱した5段階モデルについて解説していきます。
インテークと質問調査
ケアマネジメントのプロセスは、クライエントやその家族からの相談を受け付ける「インテークと質問調査(Screening and Intake)」の段階から始まります。
これは、支援の入口となる極めて重要な局面です。インテークでは、まず相談者がどのような課題を抱え、何を求めているのかという主訴を丁寧に傾聴し、氏名や連絡先、家族構成といった基本的な情報を収集します。
それに続く質問調査(スクリーニング)では、収集した情報をもとに、生命の危機が迫っていないかといった緊急性の有無や、当該機関が提供するサービスに合致するニーズであるかといった点を迅速に判断します。この段階は、あくまで本格的な支援に向けた初期のふるい分けであり、詳細な分析を行う前段階に位置づけられます。
ここで得られた情報が、次のアセスメント段階へと引き継がれ、より深い支援の検討へと繋がっていくのです。
アセスメント
インテークと質問調査を経て、本格的な支援の対象となると判断されたクライエントに対して、次に実施されるのが「アセスメント」です。
アセスメントは、ケアマネジメントの全プロセスにおいて最も中核的かつ重要な段階と位置づけられています。この段階の目的は、クライエントが直面している課題やニーズを、多角的かつ包括的に深く理解することにあります。単にクライエントが訴える表面的な問題を聞き取るだけでなく、その背景にある身体的、精神的、社会的、経済的な要因を総合的に分析・評価します。
具体的には、ケアマネージャーがクライエントの自宅を訪問し、直接の面接を通じて本人の意思や価値観、生活史などを丁寧に聴取します。同時に、食事や排泄、入浴といった日常生活動作(ADL)の状況や、買い物や服薬管理といった手段的日常生活動作(IADL)の遂行能力を客観的に観察します。さらに、本人の同意を得た上で、主治医や他の専門職から医療情報や専門的な見解を収集したり、家族から生活の様子を聞き取ったりすることも不可欠です。
重要なのは、クライエントが「できないこと」や「困っていること」といった課題(ニーズ)だけでなく、その人自身が持っている強みや潜在的な能力(ストレングス)、さらには活用可能な家族や地域社会の支援(インフォーマルサポート)にも着目することです。
この丁寧な情報収集と客観的な分析によって、クライエントの全体像が初めて明らかになり、続くケア計画の策定に向けた堅固な土台が築かれるのです。
受給資格の決定
アセスメントによってクライエントのニーズが明確化された後、次の段階として「受給資格の決定(Eligibility Determination)」が行われます。
このプロセスは、クライエントが必要とする支援を、公的な制度や特定のプログラムを通じて具体的に提供できるかどうかを判断する重要な局面です。多くのフォーマルな福祉サービスは、税金や保険料といった公的な財源によって運営されているため、誰でも無条件に利用できるわけではなく、一定の基準や要件が設けられています。
ケアマネージャーは、アセスメントで得られた客観的な情報に基づき、クライエントがこれらの基準を満たしているかどうかを判断、あるいはその判断に必要な手続きを支援する役割を担います。日本の介護保険制度における要介護認定のプロセスは、この段階の代表的な例と言えるでしょう。アセスメントの結果をもとに市町村の認定調査員による聞き取り調査や主治医の意見書が作成され、それらを総合して介護認定審査会が要介護度を判定します。この要介護度によって、利用できるサービスの量や種類の上限が定められます。
したがって、この受給資格の決定は、単なる事務的な手続きではなく、アセスメントで把握したクライエントのニーズと、社会的に利用可能な資源とを結びつけるための、論理的で不可欠な橋渡しの役割を果たしているのです。
ケア計画
アセスメントによってクライエントの生活課題やニーズが明らかになり、利用可能なサービスの資格が確定すると、ケアマネジメントのプロセスは具体的な支援の設計図を作成する「ケア計画(Care Planning)」の段階へと移行します。
この段階の目的は、クライエントが望む生活を実現するために、「何を」「誰が」「いつ」「どのように」支援するのかを明文化した個別支援計画、すなわちケアプランを策定することにあります。この計画は、単に利用できるサービスを羅列したリストではありません。クライエント本人や家族の意向を最大限に尊重し、自己決定の原則に基づきながら、共に設定した生活目標を達成するための具体的な道筋を示す羅針盤としての役割を担います。
ケアプランには、アセスメントで把握されたニーズを基にした長期的な目標と、それを達成するための中間的な短期目標が設定されます。そして、それぞれの目標を達成するために、訪問介護やデイサービスといった介護保険サービスなどのフォーマルな支援と、家族による見守りや地域のボランティア活動といったインフォーマルな支援を、どのように効果的に組み合わせるかが盛り込まれます。
オースティンが指摘するように、このケア計画の策定は、限られた社会資源をクライエントのニーズに応じて最適に分配する、ケアマネージャーの専門性が最も発揮される過程です。クライエント、家族、そして各サービス提供事業者が一堂に会するサービス担当者会議などを通じて、関係者全員が計画の内容を共有し、チームとして支援にあたるための合意を形成することが、計画の実効性を高める上で不可欠となります。
サービスの提供とフォローアップ
ケアプランという支援の設計図が完成すると、ケアマネジメントのプロセスはいよいよ最終段階である「サービスの提供とフォローアップ(Service Arrangement and Follow-up)」へと進みます。
この段階は、計画を絵に描いた餅で終わらせることなく、クライエントの実際の生活の中に支援を届け、その効果を継続的に見届けるための重要な局面です。計画に基づき、ケアマネージャーは具体的なサービス提供事業者と連絡を取り、利用契約の締結を支援するなど、必要な調整を行います。
そして、サービスが開始された後、ケアマネージャーの役割は決して終わりではありません。むしろ、ここからがクライエントとの長期的な伴走の始まりとなります。定期的にクライエントの自宅を訪問したり、電話で連絡を取ったりすることを通じて、モニタリング(経過観察)を実施します。
このモニタリングでは、計画通りにサービスが提供されているか、クライエントの心身の状態や生活環境に変化はないか、新たなニーズは発生していないかといった点を注意深く確認します。もし、モニタリングの過程で当初の計画と現状との間にズレが生じていることや、クライエントの状態が変化したことが明らかになれば、必要に応じて再度アセスメントを行い、ケアプランを柔軟に見直すプロセス(再アセスメント)へと繋げます。
このように、支援の提供を開始した後も、継続的にクライエントの状況を把握し、必要に応じて計画を修正していくという一連のフォローアップこそが、ケアマネジメントの質を保証し、変化し続けるクライエントの生活を真に支え続けるための生命線となるのです。
イギリスにおけるケアマネジメントの沿革

アメリカで理論的な体系化が進んだケアマネジメントの思想は、大西洋を越えてイギリスの福祉政策にも大きな影響を与えることになります。1980年代のイギリスは、福祉国家制度の見直しという大きな転換期にありました。増大し続ける社会保障費の抑制という財政的な課題と、「脱施設化」という世界的な潮流の中で、従来の施設中心の画一的なサービス提供から、在宅での生活を支えるコミュニティケアへの移行が急務とされていました。
こうした背景のもと、地方自治体が地域の福祉ニーズを的確に把握し、限られた社会資源を効率的かつ効果的に活用してサービスを提供する新たな仕組みが模索されます。その中核的な機能として導入されたのが、ケアマネジメントでした。
ここではイギリスの沿革について触れていきます。
グリフィス報告
イギリスにおけるコミュニティケア改革の方向性を決定づけたのが、1988年に発表されたロイ・グリフィス卿による報告書、通称「グリフィス報告」です。
この報告書は、当時の複雑で非効率なコミュニティケアの提供体制を抜本的に見直すための具体的な処方箋を提示しました。その核心的な提言は、地方自治体の役割を、自らがサービスを直接提供する「プロバイダー(提供者)」から、住民のニーズを査定(アセスメント)し、そのニーズを満たすために最適なサービスを公的・民間を問わず多様な事業者から「パーチェーサー(購入者)」として調達する役割へと転換させることにありました。
この「購入者」と「提供者」を分離するという考え方は、市場原理を福祉分野に導入することで、サービスの質の向上と効率化を図ろうとするものでした。この新たな仕組みの中で、個々の利用者のニーズを的確にアセスメントし、最適なサービス計画を作成し、その実施を管理する専門的な機能、すなわちケアマネジメントが不可欠な要素として明確に位置づけられたのです。
グリフィス報告は、その後のイギリスの福祉政策の礎となり、ケアマネジメントを制度の中核に据える大きな原動力となりました。
ワグナー報告
グリフィス報告とほぼ同時期、1988年に公表された「ワグナー報告」は、イギリスのコミュニティケア改革におけるもう一つの重要な羅針盤となりました。
グリフィス報告が地方自治体の役割や財源といったマクロな制度設計に焦点を当てたのに対し、ジリアン・ワグナー女史が座長を務めたこの報告書は、特に住居ケア(Residential Care)のあり方を中心に、ケアの質の向上というミクロな視点から具体的な提言を行いました。
ワグナー報告が打ち出した中心的な理念は、ケアを受ける人々を単なる受動的な存在として捉えるのではなく、自らの生活について選択し、決定する権利を持つ主体として尊重することの重要性です。
この報告書は、利用者が住み慣れた地域で、可能な限り自立した生活を継続できるよう支援することこそがコミュニティケアの基本であると強調しました。その実現のためには、利用者のエンパワメント、つまり本人が自らの力を発揮できるよう支援することが不可欠であり、個人の尊厳やプライバシーが守られ、多様なライフスタイルが尊重されるべきだと訴えました。
この利用者中心の理念は、ケアマネジメントが単にサービスを効率的に配分する管理技術に留まらず、一人ひとりの利用者の自己実現を支える専門的な対人援助技術でなければならないという価値観を明確に示しました。
グリフィス報告がケアマネジメントの「仕組み」を提示したとすれば、ワグナー報告はその「魂」とも言うべき理念的基盤を築いたと言えるでしょう。
国民保健サービスおよびコミュニティケア
グリフィス報告とワグナー報告という二つの重要な提言を受けて、イギリスのコミュニティケア改革を法的に決定づけたのが、1990年に制定され、1993年から全面施行された「国民保健サービスおよびコミュニティケア法」です。
この法律は、それまでの議論を具体的な制度として結実させ、イギリスの福祉提供体制を根底から再構築するものでした。法律の最大のポイントは、コミュニティケアに関する主要な責任を地方自治体に一元化した点にあります。地方自治体は、管轄地域の住民のケアニーズをアセスメントし、それに基づいて個別のケア計画を策定し、必要なサービスを確保する明確な義務を負うことになりました。
これにより、グリフィス報告が提唱した、地方自治体がサービスの「購入者」となり、実際のサービス提供は民間企業やボランタリー団体なども含めた多様な事業者が「提供者」として担うという役割分担が法的に確立されたのです。
そして、このアセスメントからサービス提供の調整に至るまでの一連のプロセスを責任を持って遂行する専門職として、ケアマネージャーが制度の中心に明確に位置づけられました。この法律の施行によって、イギリスでは施設ケアから在宅ケアへの大きな流れが加速し、利用者が自らのニーズに応じて多様なサービスを選択できる、ケアマネジメントを基盤とした新たな福祉の時代が幕を開けることとなったのです。
ケースマネジメントからケアマネジメントへ
イギリスにおける一連の福祉改革の中で、アメリカで発展した「ケースマネジメント」の概念は、独自の文脈の中で「ケアマネジメント」という用語に置き換えられ、その意味合いも深化していくことになります。
この名称の変更は、単なる言葉の違い以上の本質的な役割の変容を示唆しています。アメリカのケースマネジメントが、主としてクライエントのニーズに合わせて既存の社会資源を探し出し、それらを調整・連結させる「ブローカー(仲介者)」としての機能に重点を置くことが多いのに対し、イギリスの制度で構想されたケアマネジメントは、より広範な権限と責任を伴うものでした。
国民保健サービスおよびコミュニティケア法の下で、ケアマネージャーは地方自治体から委譲された予算の範囲内で、どのサービスをどの事業者から購入するかを決定する権限を持つ「バジェットホルダー(予算管理者)」としての役割を担うことが期待されたのです。つまり、個々のクライエントの支援計画を立てるミクロな実践にとどまらず、地域のサービス市場を意識し、限られた予算を最も効果的に配分するというメゾレベルのマネジメント機能が求められました。この、個人の支援と資源管理を統合した包括的な役割こそが、イギリスが「ケース」ではなく「ケア」という言葉を選んだ理由であり、その独自の発展の証左と言えるでしょう。
日本におけるケアマネジメント

アメリカやイギリスで進展したケアマネジメントを基盤とする福祉改革の波は、1990年代の日本にも大きな影響を及ぼしました。世界でも類を見ない速さで高齢化が進行する中、従来の行政主導の画一的な「措置制度」では、増大し続ける多様な介護ニーズにきめ細かく対応することが困難になっていました。
また、医療と福祉の連携不足といった縦割り行政の弊害も深刻な課題として認識されており、利用者一人ひとりの状況に合わせて各種サービスを統合し、包括的に提供する新たな仕組みの構築が強く求められていました。こうした社会的要請を背景として、日本の社会保障制度の歴史における大きな転換点となる介護保険制度が構想され、その制度の中核にケアマネジメントの手法が導入されることになったのです。
高齢者領域
日本の高齢者領域におけるケアマネジメントは、2000年に施行された介護保険制度によって、全国的な制度として確立されました。この制度の導入は、日本の高齢者福祉におけるパラダイムシフトを意味するものでした。
それ以前の老人福祉制度では、どのサービスをどのくらいの頻度で利用するかは、行政機関が判断して決定する「措置」が基本であり、利用者の選択の自由は大きく制限されていました。これに対し介護保険制度では、利用者自らがサービスを選択し、事業者と対等な立場で契約を結ぶという「契約制度」が採用されました。
この利用者本位の理念を実現するための鍵となる専門職として創設されたのが、介護支援専門員、通称「ケアマネジャー」です。ケアマネジャーは、要介護認定を受けた高齢者やその家族からの相談に応じ、オースティンの5段階モデルにも通じる一連のプロセス、すなわち、アセスメントを通じて生活課題を明確にし、本人の意向を踏まえたケアプランを作成し、サービス事業者との連絡調整を行い、サービス開始後も定期的なモニタリングを通じて計画の見直しを行うという、ケアマネジメントの全般を担います。
この仕組みによって、高齢者は自らの意思に基づき、尊厳を保ちながら住み慣れた地域で生活を継続するための専門的な支援を受けられるようになり、ケアマネジメントは日本の高齢者介護に不可欠な基盤となったのです。
障害者領域
高齢者領域における介護保険制度の成功と定着は、日本の社会福祉のもう一つの大きな柱である障害者福祉のあり方にも変革をもたらしました。高齢者分野と同様に、障害者分野においても、それまでの行政がサービス内容を決定する「措置制度」から、障害のある人自身がサービスを選択・契約する制度への転換が求められていました。
この当事者主体の理念を実現するための中核的な手法として、ケアマネジメントが導入されることになります。その本格的な始まりは、2003年に施行された支援費制度に遡ります。この制度を経て、その後の障害者自立支援法、そして現在の障害者総合支援法へと至る一連の改革の中で、ケアマネジメントは障害のある人々の地域生活を支えるための根幹的な仕組みとして位置づけられてきました。
この領域でケアマネジメントの機能を担うのが、「相談支援専門員」と呼ばれる専門職です。相談支援専門員は、身体、知的、精神といった障害の種別や程度、あるいは難病など、極めて多様な特性を持つ利用者一人ひとりに対して、その人の望む暮らしや将来の夢を実現するための「サービス等利用計画」を作成します。この計画には、ヘルパーの利用や日中活動の場の確保といった直接的な福祉サービスだけでなく、就労に向けた支援や地域社会での交流の促進など、社会参加を包括的に支える視点が盛り込まれます。
障害のある人のライフステージは乳幼児期から老年期までと幅広く、そのニーズも多岐にわたるため、個々の尊厳と自己決定を尊重した、きめ細やかで長期的な視点に立った支援設計が求められるのです。
ソーシャルワークとケアマネジメント

ケアマネジメントという手法を理解する上で、その背景にある専門職「ソーシャルワーク」との関係性を整理することは極めて重要です。
この二つの概念はしばしば混同されがちですが、厳密には異なる射程を持つものです。結論から言えば、ケアマネジメントは、ソーシャルワークという広範な専門的実践を構成する、数ある技術(メソッド)の一つとして位置づけられます。ソーシャルワークは、個人の尊厳の保持と自己実現を究極の目的とし、クライエントが抱える心理的・社会的な課題に対して、カウンセリングのような内面へのアプローチから、権利を代弁するアドボカシー活動、さらには地域社会の制度や資源開発に働きかけるコミュニティワークまで、多岐にわたる視点と方法を用いて介入します。
これに対してケアマネジメントは、ソーシャルワークが用いる技術の中でも、特にクライエントのニーズと社会資源(サービス)とを結びつけ、調整し、統合することに特化した体系的なプロセスです。日本の介護支援専門員(ケアマネジャー)や相談支援専門員の実践を思い浮かべると、その関係性はより明確になります。彼らの中心業務はケアプランやサービス等利用計画の作成といったケアマネジメントですが、その過程では、本人の意思決定を支え、家族間の葛藤を調整し、時には行政やサービス事業者に対して利用者の権利を主張するといった、まさにソーシャルワークそのものの価値と技術が求められます。
つまり、優れたケアマネジメントを実践するためには、その基盤として、個人と環境の相互作用を捉えるソーシャルワークの専門性が不可欠であり、両者は車の両輪のように相互に補完し合う関係にあるのです。
まとめ
本記事では、キャロル・D・オースティンによるケアマネジメントの理論的モデルとその歴史的発展を辿ってきました。彼女が体系化した「ケアマネジメントの5段階モデル」は、支援のプロセスを明確に可視化し、対人援助の専門性を飛躍的に高める普遍的な枠組みとなりました。インテークからアセスメント、計画、実行、そしてフォローアップに至るこの一連の流れは、国や制度の違いを超えて、質の高い支援を提供する上での道標であり続けています。
この理論的基盤は、イギリスにおけるコミュニティケア改革の理念と結びつき、利用者の自己決定を尊重する制度の中核として発展しました。そして日本においても、介護保険制度や障害者総合支援法の根幹をなす機能として定着し、今や私たちの社会に不可欠な支援インフラとなっています。ケアマネジメントは、単にサービスを調整するだけの技術ではありません。
それは、一人ひとりの利用者が持つ尊厳と権利を守り、その人らしい生活の実現を支えるというソーシャルワークの価値を具現化するための専門的な実践です。複雑化・多様化する福祉ニーズに直面する現代において、利用者と社会資源をつなぎ、包括的な支援を創造するケアマネジメントの役割は、今後ますますその重要性を増していくことでしょう。






