社会福祉の知識

三浦文夫のニード論とは?貨幣的ニードと非貨幣的ニードの分類を解説

はじめに

本記事では、三浦文夫が提唱した「貨幣的ニード」と「非貨幣的ニード」について、社会福祉を学ぶ方向けに解説を行っていきます。

三浦文夫は、日本を代表する社会福祉学者になります。東京大学/大学院出身で、日本社会福祉学会の会長や社会事業大学の名誉教授になられるなど、数々の功績を残しております。

今回は全国社会福祉協議会より1985年に出版された「社会福祉経営論ノート」を参照に、貨幣的ニードと非貨幣的ニードについて確認していきます。

また同書P77には、「タイトルを社会福祉”行政”論とせずに、社会福祉”経営”論」とした理由が述べられております。

社会福祉サービスは、たんに行政体が担うだけでなく民間やボランタリーも深く係るということを強くメッセージとして残されており、まさに官民連携の大切さを伝えてくれているように感じます。

確かに今回のニード論も含め、社会福祉政策(原論)の内容は、現場の方にとって学ぶ意義があるか疑問に感じる方も中にはいるかもしれません。

それでも、原理や源流を抑えている実践者の福祉観は、魅力あるものとして強く周囲に影響を与えることでしょう。

以下本記事の対象についてになります。

どんな方を対象

・貨幣的ニードと非貨幣的ニードについて知りたい。

・社会福祉士国家試験に合格したい。

・将来社会福祉に関わる仕事に就きたい。

・社会福祉を学び、自身を成長させたい。

”社会福祉は一重にものの見方にあり”

それでは以下ご覧ください。


キーワードについて

まず最初にキーワードについて簡単にまとめていきます。

貨幣的ニード

・貨幣的ニード(monetary need)とは

「金銭の給付によってニードの充足を行うもの」

※社会福祉経営論ノート P77引用・抜粋

非貨幣的ニード

・非貨幣的ニードとは(non-manetary need)

「現物給付で対応すべきニード」

※社会福祉経営論ノート P77引用・抜粋

社会的ニードを充足させるには、大きな形態として「金銭給付」「現物給付」があります。

三浦文夫は上記のような「貨幣的ニード」「非貨幣的ニード」という分類(呼び方)を提言しニード論を展開しました。


社会福祉士国家試験~設問より

社会福祉士国家試験合格を目指す方向けに、設問についても触れておきます。

第32回-問題24

三浦文夫は、政策範疇(はんちゅう)としての社会福祉へのアプローチの方法として、ニード論や供給体制論を展開した。

第29回-問題32(改)

三浦文夫は、生活課題を貨幣的ニードと非貨幣的ニードに分類し、後者に対応する在宅福祉サービスを充実することを重視した。

それぞれの設問について内容が適しているかどうか考えてみてください。

※解答は記事下部に掲載しております。


社会福祉のニードとは?

社会福祉のニードには様々な分類がありますが、大きな次元として「生得的なもの」と「後天的・経験的なもの」があります。

前者は生理的次元のニードとして「第一次的ニード(primary need)」とも呼ばれ、後者は社会的次元のニードとして「第二次的ニード(secondary need)」と称されているとのことです。

生得的

・生命の維持、発展のための基本的欲求。

・生理的次元のニード。

・第一次的ニード(praimary need)。

後天的・経験的

・社会的存在であるための基本的欲求。

・社会的次元のニード。

・第二次的ニード(secondary need)。

さらに細かくみていくと、ニードの分類については様々あります。

代表的なものに「マズロー」がいたり、岡村重夫による「基本的生活欲求(7つの分類)」、また「対象による分類(貧困層や高齢者、障害者など)」、あるいは「市場(非市場」、「顕在的(潜在的」といった分類もされます。

このようにニードというものは、捉え方により多種多様な分類ができるものとなっております。

また、これらのニードの充足の方法として、大きく「現金給付(cash benefit)」「現物給付(kind benefit)」といった方法があります。

三浦文夫はこの「現金給付」と「現物給付」という観点から、ニードを「貨幣的ニード」「非貨幣的ニード」と分類したのです。


貨幣的ニード

貨幣的ニードは、「現金給付によって充足できるニード」のことを指します。

現金給付の形態は、手当や給付、年金などといった形で提供します。

これらは使途が対象者の裁量によって行われるため、自由を確保しやすい一方で、ニードの充足に必ずしも使用されない場合もあるといった特徴があります。

また、戦後の貧困層・低所得層に対しての支援は主にこの現金給付によって行われたとのことです。

しかし、三浦文夫は生活の多様性や変化から、従来の貨幣的ニードだけでは充足できない、非貨幣的ニードの重要性を説きました。

社会福祉政策の主な課題が「非貨幣的ニード」として展開されることによって、公私の役割分担の見直しや、施設の措置とは異なる在宅サービスの問題が検討されたり、財政の見直しが必要になるなど、新しい政策や動きが生まれてきたのです。

非貨幣的ニード

三浦文夫は、従来の貨幣ニードでは充足できない「非貨幣的ニード」の重要性を説いた。

非貨幣的ニードが主な課題として展開されることによって、公私の役割分担や、在宅サービス、財政の検討など、「福祉見直し」の時代において、重要な視点を生みだした。

このように三浦文夫は単に貨幣的ニードと非貨幣的ニードについて述べただけでなく、そのうちの非貨幣的ニードの重要性について強く訴えた人でもあります。


非貨幣的ニード

非貨幣的ニードは、「現物給付によって充足できるニード」になります。

仮に現金給付を行っても、寝たきりの高齢者や児童ではお金を自由に使う能力をもたないことがあります。この場合は非貨幣的ニードが必要になります。

このように現金給付によって充足できないニードのことを「非貨幣的ニード」と呼びます。

ここで貨幣的ニード(現金給付)と非貨幣的ニード(現物給付)についていくつか比較してみます。

比較①

・現金給付では「必要な金銭」の調達が必要。

・現物給付では「必要なサービス、財貨等」の調達が必要。

※品物、施設、人的サービスなど

比較②

・現金給付では、受ける人と提供する人や機関(銀行等)が必ずしも隣接している必要がない。

・現物給付では、リアルな直接サービスのため、接近性は近いものでなければならない。

比較③

・現金給付では、一定の数量的基準によって、測ることができる。

・現物給付では、数量的基準で測ることが困難であり、充足を明瞭化することが難しい。

このように現金給付と現物給付では性質が大きく異なります。

「接近性」の視点や課題、現金給付から現物給付へと移行していく部分において、現金給付の在り方が逆機能的に働くこともあるなど、現金給付と現物給付の比較は実は大切なものとなっております。

また現物給付では、特に人的サービスが重要であり、”相談、助言、指導等の知的能力を媒介するサービスから、看護、養護、介護その他の労力を媒介とするサービス(もっともこの場合にも知的能力を媒介とする働きを同時に含むことも多いが)など多様なものがみられる”(P83)とのことです。

改めて、非貨幣的ニードを充足するためには「人」は何よりも大切であることを実感させてくれます。


社会福祉士国家試験~解答

ここまでを踏まえて、先ほどの設問を解説していきます。

第32回-問題24

三浦文夫は、政策範疇(はんちゅう)としての社会福祉へのアプローチの方法として、ニード論や供給体制論を展開した。

こちらは適切な内容となります。貨幣的ニード(現金給付)や非貨幣的ニード(現物給付)を中心にニード論を唱えております。なお三浦文夫先生は社会福祉政策論が分野となります。貨幣的ニードが中心であった時代から、非貨幣的ニードの重要性を広めました。


第29回-問題32(改)

三浦文夫は、生活課題を貨幣的ニードと非貨幣的ニードに分類し、後者に対応する在宅福祉サービスを充実することを重視した。

こちらは適切な内容となります。非貨幣的ニードを主な課題とすることで、在宅福祉サービスなどの検討が生まれてくることを見据えて、非貨幣的ニードの重要性を説いております。


まとめ

再度キーワードについて振り返っていきます。

貨幣的ニード

・貨幣的ニード(monetary need)とは

「金銭の給付によってニードの充足を行うもの」

※社会福祉経営論ノート P77引用・抜粋

非貨幣的ニード

・非貨幣的ニードとは(non-manetary need)

「現物給付で対応すべきニード」

※社会福祉経営論ノート P77引用・抜粋

非貨幣的ニード

三浦文夫は、従来の貨幣ニードでは充足できない「非貨幣的ニード」の重要性を説いた。

非貨幣的ニードが主な課題として展開されることによって、公私の役割分担や、在宅サービス、財政の検討など、「福祉見直し」の時代において、重要な視点を生みだした。

このように本サイトでは、「国家試験のその先へ」をサブテーマとして、記事を書いております。

国家試験では三浦文夫=「貨幣ニード」「非貨幣ニード」で問題を解くこともできましたが、さらにその一歩先を踏み出し実践へと活かすことを目標としております。

また社会福祉の歴史や知識について、書いていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。

サブテーマ

社会福祉士国家試験のその先へ

☆本記事を書くにあたって参考にした文献

社会福祉政策研究:社会福祉経営論ノート 三浦文夫 全国社会福祉協議会1985 国立国会図書館デジタルコレクションより。


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